3 決意
俺は酷く落ち込み、深くため息をつきながらその場に座り込む。
「もう終わった。絶対死ぬ」
「まあまあ、魔法が使えなくても物理攻撃とか覚えましょ」
「あ、剣とか弓とかね」
「そうです」
「仕方ないか。異世界来たってのに魔法が使えないとはへこむわ」
そう言いながら立ち上がった。
その時、かなり大きな爆発音が響き渡る。
まるで雷がすぐそばで落ちたかのようだった。
「なんだ?」
「まずい予感がします」
爆発の衝撃なのか聖樹が微かに揺れている。
「ここでちょっと待っていてください」
そう言って風のような速さで部屋を飛び出していった。
5分もしない内にエミリアは部屋に戻ってきた。
手には二人分の弓と短剣を持っている。
「武器庫が敵の遠距離攻撃でやられていて残りの武器がこれしか」
「ていうことは結界は破られたの?」
「ええ……」
エミリアの真剣さを一瞥すれば深刻なことが一目瞭然だった。
「戦う以外の選択肢はないです。ただ、今は状況があまりにも不利なのでいったん引きます」
「どこへ?」
「結界が破られた場所は北側、私たちは南側へ逃げます。幸い南側に最大支部があるので」
「エミリア!!」
サリーが勢いよく部屋に駆け込んできた。
負傷したエルフを一人背負っている。
エミリアの姿を確認すると安心したような表情に変わった。
「よかった。無事で」
「サリー外はどうなってるの?」
「ダメだ。もう、下はだいぶやられた」
「待って。もう聖樹まで来たってこと?」
エミリアの顔が青ざめている。
「とりあえず南支部に行こう」
「私もそう思っていたところよ」
「俺がその子担ぐよ。もし敵が現れたらサリーさん担いだまま戦えないでしょ?」
「いいのか?」
「ああ、俺はまだ戦闘経験浅いからさ。エミリアその弓貸して」
負傷したエルフをおんぶし、弓と弓矢を背負った。
幸い負傷したエルフがそんなに重くない。
「あり……がとう……」
「いいってことよ」
「私は……マリア……」
「俺はカズマよろしくな」
マリアはまだ人間で言うと小学5、6年くらいだと感じた。
その割には背負ってみて分かったがサイズがだいぶ大きい。
胸の。
再び爆発音が響き渡った。
先よりも大きい。
敵が近づいている証拠なのだろう。
「急がないとまずいぞ」
「そうね、急ぎましょう。カズマ準備はいい?」
「俺は大丈夫だ」
「マリアも大丈夫ね」
エミリアの問いかけにマリアは頷く。
「では、行きますよ」
「先行ってるぞ」
そう言ってサリーは窓から飛び降りた。
俺は冷静に考える。
ここって聖樹の最上階辺りじゃなかったっけ?
「カズマどうしました?」
「え? 飛び降りるの? え? 死ぬよ?」
「大丈夫ですって!」
そう言いながらカズマの腕をつかみエミリアは飛び降りた。
「うっわあああああああああああ!」
「目……開けてみて……」
耳元でそう聞こえた。
カズマは目を開けてみる。
すると、人が着地できるようなスピードで落ちているのが分かった。
「カズマ! これが魔法よ!」
少し下の方からエミリアが叫んだ。
「なんだよこれ……」
景色を見て衝撃を受けた。
木が焼き払われ、建物からは黒い煙が空へ届いている。
微かに鼻につくにおいがする。
「ごめん」
自分の無力さに腹が立った。
肩を掴むマリアの手が少し強くなったのを感じた。
おそらく俺と同じことを思ったのだろう。
いや、同じと言っては失礼だ。
マリアはここにずっと住んでいるのだから。
三日前に来た俺と一緒になんかされたら嫌だろう。
「俺は強くなるよ。そして、ここを取り戻す」
自分に言い聞かせるように呟いた。
マリアには聞こえるか聞こえないかくらいの声で。
「あり……がと……」
背中から言葉が返ってきた。
マリアには聞こえていたようだ。
ここには三日間寝ていただけだけれど、この人達を救いたい笑顔にさせたいと心から思った。