憧れのヒーロー
ソルベの探す花はマイペースに探すヘルムート達。
とはいえ情報はないままだし、手がかりもない。
そんな中でもソルベは至ってマイペースである。
今日もそんな自由な生活をしているわけで。
「おい、アル、こいつはお前のか?」
「なによ、そうだけど悪いかしら」
「そいつはアルの読んでいる少年漫画か、それがどうした?」
「姫様って昔から少年漫画のヒーローが大好きですよね」
ソルベが見つけたものはアルが愛読している少年漫画。
だがここで思わぬ方向に話は進む。
「アルもこの漫画が好きなのか!仲間だな!」
「…まさかあんたも好きなの?」
「おや、何やら熱いものを感じますね」
「木花か、どうやらこの二人は同志だったらしい」
「姫様って子供の時から少年物の作品ばかり好んでるんですよ、王妃様も言ってました」
アルはどうやら子供の頃から少年向けの娯楽にばかり興味を示していたらしい。
今思えばアルの正義感や、どこか男勝りなお転婆っぷりも合点がいく。
明らかに少年漫画に影響を受けている節が所々に見受けられるからだ。
そしてソルベも明らかに少年漫画に影響を受けている節がある。
ヘルムートはこの二人はなんだかんだで似た者だと改めて思った。
ベリンダも苦労しているのはそのせいなのか。
「ナイト戦記いいわよね、私もそれ読んで騎士になりたいって思ったのよ」
「僕もだ、だから騎士の道を選んだんだからな」
「アルが姫なのに騎士道を嗜んでるのも分かるな、ソルベも筋金入りか」
「騎士というのはいつの世も憧れですからね、無理もないと思いますよ」
「姫様は大人になったら騎士になるんだってよく言ってましたね」
漫画に触発されて本当に騎士になったソルベ。
アルも騎士になるべく剣の修業は欠かさない。
アルが洵をライバル視するのもそんな負けたくないからなのだろう。
西の剣が東の剣に負けるわけにはいかないという対抗心もあるのだろうが。
なんにしてもそんな影響を確実に受けている二人。
年頃なのかともヘルムートは思っていた。
「それにしてもナイト戦記ですか、それ長編物ですよね?」
「確か今でも連載が続いてて全168巻ぐらい出てたような…」
「それな、ワシがまだ30ぐらいの時に連載開始したと記憶してるが」
「あまりに気に入ったからお小遣い全部使って全巻買ったのよ!」
「僕も報酬を使って全巻買ったぞ、やはり同志だな!」
本当に意気投合している二人。
ちなみに憧れはというとだが。
「憧れはやはり主人公なのですか?」
「違うわ、憧れは主人公のアクルスじゃなくてその親友のエルシナよ」
「そうなのか?ワシはてっきり主人公が好きなものだと思ってたぞ」
「分かってないな、普段は自由な親友がピンチの時に助ける展開がベタだが熱いんだ」
「つまりアクルスのピンチにエルシナが助けに入るんですか?」
話ではアクルスは国の騎士、エルシナは元騎士の冒険者。
二人は普段は別々に生きているが、アクルスのピンチにエルシナは颯爽と助けに入るとか。
それは親友だからこその関係であり、そもそもアクルスもそんなピンチにはならないらしい。
自由に生きるからこそそのピンチには駆けつける。
それでもお互いには道を分かつ事を選んだ上での親友との事。
お互いに口を悪くしながらも敵を共闘して倒す姿に惹かれるらしい。
「都合良く現れる…ともいかんが、親友とは伝わるな」
「でしょ?こういうのに憧れるのよ」
「全くだ、国に縛られる騎士と自由に生きる元騎士、対比という意味でもな」
「男の子ですね、趣味趣向は」
「姫様もなんか心なしか嬉しそうですしね」
そんなソルベとアルの思わぬ意気投合。
二人とも少年物の作品を好むからこそなのだろう。
ヒーローに憧れる女の子はその心もヒーローっぽくなるのか。




