王妃と王女
アルの母親に会うべく王都に来ているヘルムートとアル。
王妃に会えるのかといえばそれは難しいわけで。
とはいえこういう時こそ職権濫用をしてしまうべきだ。
そんなわけで城に向かっているのだが。
「ヘルムート、あんた年甲斐もないわよね」
「なんだ、今さら気づいたのか」
「この爺さん侮れないわね…」
「それとワシは一歩も引かんからな」
そう話しているうちに城の前に到着する。
そこでアルが番兵に交渉してみる。
「そこの兵士、中に入れなさい」
「は?何を言っているのですか、子供は帰って…」
「おい!この人は王女の…」
「はっ、失礼しました!ご無礼を!中へどうぞ!」
「私を知らないって事は新人かしら」
そんなわけで城の中へと足を踏み入れる。
そこはヘルムートもかつてはよく仕事で来ていた場所。
どこか懐かしさを覚えつつも王妃の待つ部屋へと向かう。
そして兵士に案内され部屋の前に立つ。
「王妃様!王女殿下が見えています」
「中へ通しなさい」
「どうぞ、中へ」
「ありがとうね」
「失礼します」
そうして王妃の部屋の中へ。
そこには私服姿の王妃が待っていた。
「母上、久しく戻りました」
「アル、あなたは都市開発の責任者として派遣されて以降戻らないとはどういうつもりですか?」
「それはワシから説明します」
「あなたは…ヘルムート…あなたがアルをたぶらかしたのですか?」
「違うわ!私が自分でヘルムートの家で暮らしたいって頼んだの!」
とはいえ王妃の目は少し怖い目をしていた。
だがヘルムートもそれに怯む様子はない。
「アルの言う通りです、彼女は自分からワシの家で暮らしたいと言いました」
「…ならせめて一言ぐらい入れなさい、心配していたのですよ」
「それは謝ります、ごめんなさい、母上」
「それで、アルは今幸せですか?楽しいですか?それだけははっきりさせなさい」
「幸せです、それに国にいた時よりもずっと楽しいです、それは嘘じゃありません」
その言葉と顔に王妃は顔を緩める。
とはいえやはり心配なのには変わりないようで。
「それでも母として心配なのです、本当に暮らしていけるのですか?」
「それについては勉強しています、それにやりたい事も見つけました」
「アルは東の国の事についてとても興味を示しています、その関係の仕事をしたいとも」
「東の国ですか?あの国は野蛮な国だと聞いていますが…」
「それは昔の話ですよ、今の東の国は世界に認められるだけの国になっています」
王妃も東の国の事については偏見もあるらしい。
それについては少し説明をする。
その上で王妃も改めてアルにそれを問う。
その覚悟は本物なのかと。
「本気です、それに王族の肩書がしがらみになるのなら王位の破棄もしてもいいと考えてます」
「それは…そこまでの覚悟があるというのですね?」
「はい、覚悟はとっくに決まっています」
「分かりました、ならそれが必要ならばその時は改めて連絡を入れなさい」
「それじゃあ…」
王妃もその本気の目を見たら流石に無理矢理とは言えなくなったようだ。
そして改めてヘルムートにアルを任せたいと言う。
「ヘルムート、アルの事を任せてもよろしいですね?」
「はい、この子も孫みたいなものです、面倒はきちんと見ますとも」
「アル、あなたも面倒をかけてはいけませんよ」
「分かってるわよ、それに母上だって兄上から本当は聞いてたんじゃないの?」
「あら、バレていました?」
どうやら第二王子から話は通っていたようだ。
それでも心配であんな手紙をよこしたのだろう。
「ではヘルムート、娘をよろしく頼みましたよ」
「はい、それではワシ達は失礼します」
「失礼しました」
「そうだ、それと少し気になるので今度そちらでの生活について報告をしなさい」
「分かったわよ、それじゃ後日それは報告するから」
そんなわけで王妃の部屋をあとにする。
そのあとは家に帰るわけだが、時間的にも今日は王都で一夜を明かす事に。
「今夜は王都で泊まるぞ」
「はいはい、この時間じゃ航空便も馬車も終わってるしね」
「ついでに何か食いたいものがあるなら食わせてやるぞ」
「ならステーキがいいわ、ウェルダンでね」
「分かった、では行くぞ」
そんなこんなで王都で一夜を明かした。
明日には家に帰る事になる。
王妃も母親として本当は心配なのである。




