都市計画始動
神隠しの捜査が打ち切られてから数日。
街はいつも通りの日常に戻っていた。
とはいえ孤児院の方ではメアの一件から少し距離を置いている。
寄付などは今まで通り続けながらも通うのは少し控えるようになっていた。
「ヘルムート様、お客様が見えていますよ」
「ワシに客?一応通せ」
「かしこまりました」
どうやらヘルムートに客人のようだ。
話だけでも聞いてみる事にして、中へと通す。
「お久しぶりです、ヘルムート殿」
「お前は、確か今の国土大臣か」
「はい、実は国の方でとある計画がありまして、ヘルムート殿のお力を借りたく」
「よしてくれ、ワシは引退した身だ、国政には戻らんよ」
どうやら何か計画があるようでそれの協力を仰ぎに来たらしい。
一応話だけは聞く事に。
「あくまでも話を聞くだけだ、それで国の方での計画とはなんだ?」
「こちらです」
「なになに、都市計画、ハーヴェイの街の冒険拠点化計画?」
「はい、この街の立地もあって冒険者のこの国での拠点を作ろうと」
「まあ確かにこの世界は冒険者は護衛などに一役買っているな、それの拠点化か」
どうやら冒険者の拠点として街を発展させようという事のようだ。
元々この街は国の国土の中でも中心にあり国の全方向へのアクセスがいい。
それが理由だと担当者は言う。
「それでヘルムート殿に発展の指揮を執っていただきたく…」
「残念だがそいつは無理だな、引退した人間を働かせるんじゃない」
「しかし…頼れるのはあなただけで…」
「なら条件がある、指揮を執るのは国の人間だ、ワシはそれをサポートする」
「それなら力になってくれると?」
ヘルムートは条件付きでなら力になるという。
ただし担当者はまともな人間をよこす事が大前提として条件を出す。
「それなら受けてやる、どうだ、出来るか?」
「や、やってみます、担当者はまともな人間ですね」
「そうだ、それさえ出来れば若造でも年寄りでも構わん」
「分かりました、では王都に戻って担当者を決定次第この街に派遣します」
「それと街を去る前にこの街の町長と街の人に説明してから帰れ」
担当者はそこはもう済ませたという。
突然の事ではあるが街が栄えるのならという事もあり比較的好意的に受け入れられたそうな。
「では私は一旦王都に戻ります、後日担当者がこちらに伺うようにしますので」
「分かった、ではその時は事前に手段はなんでもいいから連絡をよこせ」
「かしこまりました、ではお邪魔しました」
「都市計画な、まあ冒険者は護衛としては浸透しているし街にも金は入るか」
そうして都市計画の担当者は王都へと戻っていった。
その指揮を執る担当者が後日この街にやってくるそうである。
「何を話されていたのですか?」
「洵か、街の方で説明は聞いただろう?」
「都市計画ですね」
「ああ、まあワシも引退した以上補佐ぐらいしかやれんしな」
「あなたが引退した理由は…」
「言うな、ワシは自分で引退すると決めたに過ぎん」
洵はヘルムートが国政を去った理由を知っている。
そしてこの漬物屋を開くに至ったのがその引退した理由でもあると。
「ヘルムート様、私達はどんな理由があってもついて参りますよ」
「なので我々もどこまでもお付き合いしますよ、死なばもろともです」
「それは違うだろ、そこはゆりかごから墓場までの方がまだしっくり来る」
そんな三人の今に至る理由。
それはヘルムートが国政を去った事に始まるのだろう。
「楽しそうにしてるわね」
「む?メアか、相変わらずふらふらとしているな」
「私はヘルムートにどこまでもついていく、それだけ」
「ははっ、ならそれでいい」
こうして都市計画が始まるのだった。
国が派遣する担当者とはどんな人物なのか。
ヘルムートは条件として出したそれに国への思いを感じているのだろう。