内緒の相談
いつも通りの生活を送るヘルムート達。
そんな中今日はとある用事で王都に来ていた。
先日訪ねてきた王子との所用である。
その所用とは何なのか、そして忘れていた怪奇事件が再び迫っていた。
「やれやれ、なんでワシが」
「文句言わないの、頼ってくれたんでしょ?」
「そうですよ、あ、王都が見えてきました」
「王子様と合流しないと」
そうしているうちに王都に航空便が到着する。
航空便は国内の短距離でも運用されていて、空路のバスのようなものである。
「とりあえず王子に合流するぞ、街の喫茶店だったな」
「兄上ったらこっそり働いてるとか何を考えてるのやら」
「あれ?メアさんは?」
「あいつ、また勝手に消えおって、放っておいても戻ってくる、行くぞ」
「放任主義ねぇ」
そのままヘルムート達は喫茶店に移動する。
そこで王子が待っていてとりあえずは何か飲みつつ話をする事に。
「それで用件とは何ですかな、変な事ではないとは思いますが」
「うん、実はもうすぐ父上の誕生日でね、何か贈り物をしたいんだ」
「それで呼びつけたっていうのね、まあ私も一応は付き合うけど」
「うん、父上はそろそろ高齢だからね、何か面白いものを贈りたいんだ」
「面白いものですか、何かありますか?」
しばらく相談したあとヘルムートがあるものを思いつく。
それは東の国の装束で陣羽織と呼ばれるもの。
国王もそれなら気に入ってくれるのではないかとの事だ。
とはいえこの国で手に入れるのは多少困難だろう。
東の国の服屋に発注をかけても間に合うか。
とりあえずはその場で携帯端末を使い洵に連絡を取る。
相談した結果王子宛に届けてもらえるはずとの事。
誕生日は二週間後らしいので、それまでに間に合わせるようにしてくれるそうだ。
「という事です、どうですかな」
「うん、流石はヘルムート殿です、やはりあなたに相談してよかった」
「ついでに私からも何か贈りたいわ、お金はそんなにないけど」
「アル…なら無理のない範囲で何か頼むよ」
「だとしたら何がありますかね、食べ物とかでも平気でしょうか?」
とりあえずアルの方は誕生日までに間に合うように何か用意するという。
それで話はまとまったので、王子の奢りでケーキなどをいただく事に。
王子もいい人だし、ヘルムートが信頼されているのも分かる。
ヘルムートの人望もまだ影響はあるのだろう。
一方のメアは貴族街にいた。
自由気ままな怪物の魔手が獲物を探すように。
「おーい、そこの女!ボール取ってくれよ!」
「何かしら、これ?はい」
「サンキュ、お前見ない顔だな、新顔か?」
「いえ、用事で来てるだけよ」
「そっか、なら少し遊ぼうぜ!」
少年はメアの手を引っ張っていく。
貴族の少年のようだが、意外と奔放なようだ。
「にしても可愛いな、人形みたいだ」
「そう言われたのははじめてね」
「お前どこから来たんだ」
「中央の街から」
「そっか、あの冒険者の拠点だろ」
少年もそういう事は知っているようだ。
そして思わぬ事を口にする。
「お前、俺の嫁になれ、もちろん将来だぞ!」
「お嫁さん、それは無理ね」
「俺じゃ不満なのか?」
「違うわ」
「えっ?」
その魔の手は少年を捉えていた。
そして気づいた時には少年はその怪物に喰われていた。
メアはタマをなだめたあとその場を去る。
誰も見ていなかった屋敷の陰になるその場所から。
「メア、お前本当に勝手に消えるな」
「でも信じてくれてるんでしょ」
「それより用件は終わったから帰るんでしょ?」
「ああ、行くぞ」
「ですね、アルさんのプレゼントも考えないと」
そうしてヘルムート達は家に帰っていった。
それからしばらくして少年の父親が少年の行方を探していたのは言うまでもない。
少年がこの世にすでに存在していないという事は今はまだ誰も知らないのだから。




