毎年やっている事
年末も近づいたいつもの日々。
ヘルムートは昔からやっているある事を今年も進めていた。
それは外交官を辞めた時からずっと続けている事。
あしながおじさんの仕事である。
「ふむ、こんなものでいいか」
「おや、ヘルムート殿、今年もですね」
「恒例ですね、その仕事も」
「あれ?何をしてるんですか?」
そこにベリンダとメアが戻ってくる。
ヘルムート達が何をしているのかが気になっているようだ。
「なんだ、ベリンダとメアか」
「何をしているの?」
「あしながおじさんのお仕事ですよ」
「あしながおじさん?」
「分かりやすく言えば寄付です」
ヘルムートは毎年店の売上を孤児院に寄付している。
それは外交官時代に給料をたんまりもらっていたからこそ出来る事でもある。
「元々国で働いていた時にもらった給料がたんまりある、だからやってる」
「でも孤児院は国が運営してないの?」
「この街の孤児院は個人経営ですよ、なので資金繰りは厳しいようです」
「ヘルムートさん偉いんですね、孤児院に寄付だなんて」
「元々貧困対策などに興味を持っていた人ですから、出来る事をしたいのでしょうね」
そんなヘルムートにベリンダも少し見直したようだ。
ヘルムートはベリンダにアルには内緒にしておくように言う。
アルに知れると何かと言われそうなので黙っていて欲しいと。
ベリンダはそんなヘルムートの気持ちも察したのかそれは黙ってくれる事になった。
「ヘルムートさんは外国で貧困の実態なども多数見ていますからね」
「だから孤児院に寄付しようって決めたのかしら」
「この国の孤児院はまだ恵まれた方です、本当に貧しい国はこの国の比ではないです」
「本当に貧しい国…確かに世界には凄く過酷な国がたくさんありますね」
「そうだな、だからワシは自分の国ぐらいは出来る事をしてやりたいのだ」
それは自分の手の届く範囲だけでもなんとかしたいという気持ちなのだろう。
ヘルムートも世界を動かすなどという夢物語は語るつもりはない。
それこそ世界を変えるなどという傲慢な気持ちは持ち合わせていないのだ。
本気でそんな事が自分に出来ると思っていないのである。
「変えるというのはとても大変なんですよ、人の心を動かすというのはね」
「そうね、それこそ10年じゃ無理な話だもの」
「ワシは世界を変えようなどとは思わん、そこまで傲慢な性格でもないしな」
「世界を変えるというのは夢物語に近いですよね、悲しいですけど」
「世界を変えられるのならその人は奇跡を起こしたと同じですよ」
ヘルムートなりの出来る事をする。
世界を変えるというのは奇跡と同じという木花の言葉。
それはベリンダにも深く突き刺さっていた。
それが出来ると思う事こそ傲慢だという事。
ベリンダも夢物語に近いとは分かっているからこそ刺さるのだろう。
それが出来るのならとっくに世界は平和になっているのだから。
「さて、準備は終わりだ、アルが戻ってくる前に振り込んでおくか」
「アルに知られたくないのは恥ずかしいからなのかしら」
「何かと言われそうですしね、彼女の場合特に」
「姫様ですからねぇ、納得です」
「ベリンダさんは分かっているんですね」
そうして今年も孤児院に一年の売上をきちんと寄付しておく。
寄付金の振込が終わってからしばらくしてアルも戻ってくる。
その事はアルには秘密にしておくのである。




