先を読む
冬も本番になったいつもの日。
ヘルムート達は特に何事もなくいつも通りの日々を送っていた。
そんな中アルは洵に勝てるものとしてボードゲームを覚えていた。
今日も二人はそんなボードゲームで勝負をしているようで。
「私の勝ちね」
「はぁ、アルさんはお強いですね」
「アルもすっかり味をしめたな」
「姫様は洵さんに勝てないって散々言ってたから嬉しいんですよ」
とはいえ洵も将棋や囲碁だけでなくチェスもそれなりに強いのだ。
それのさらに上を行くのがアルなのかもしれない。
「ねえ、洵って私の手を読んでるでしょ」
「おや、バレていましたか?」
「洵は先が読めるのかしら」
「あ、メアさん、帰ったんですね」
「そもそも先を読むというのはボードゲームには必須スキルなんだが」
将棋やチェスは先を読む能力の高さが大切だ。
それこそ相手の手を読み的確にそれを潰せる事が強さに繋がる。
「言っておきますが、私は一応300手ぐらいなら先読み出来ますよ」
「300手!?洵ってそんな先まで読んでやってたの!?」
「つまりそれに勝ってる姫様はもっと強いんですね!流石は姫様です!」
「300手先だとどの程度の能力が必要なのかしら」
「アルは野生の勘でゲームをしてるのか?」
とはいえアルはそんな洵を負かしている。
それは紛れもない強さなのだが、どこか腑に落ちない。
洵が弱いわけでは決してないし、アルが強すぎるわけでもない。
アルは直感で相手の先を読めるのだろうか。
「だがな、東の国で将棋はスポーツだ、凄い奴になると1000手先が読めるとも言う」
「はぁ!?1000手先って人間の頭の限界越えてないそれ!」
「本当ですよ、ただそれをやるには時間が必要ですが」
「東の国のプロの将棋の人は頭どうなってるんですか…」
「でもアルも先を読んでるわよね、頭じゃなくて直感でしょ」
メアのその指摘はある意味的を射ている。
アルも無意識のうちに相手の先を読み相手の道を潰していっている。
それは紛れもない先読みなのだが、本人に自覚はなさそうだ。
やはりアルは本能的な能力に長けているのかもしれない。
「私がアルさんに負けるというのはアルさんが私の先を読んでいる証拠なのですがね」
「だとしたら姫様は理性ではなく本能的にそれを?」
「だと思うわよ、危険回避能力が高いんだと思うわ」
「うーん、でも確かに危険を察知しやすいとは思うのよね」
「アルは危険回避能力が元々高いとしか思えんな、それも本能的にだ」
アルの本能的な危険回避能力。
それはこのゲームでも見て取れた。
洵が考えて手を打つのに対しアルは手を打つのが早い。
それは難しく考えずに手を打っているという事だ。
そして相手の先を本能的に察知しそこに駒を打つ。
それに洵が見事にやられているものと思われる。
「なんにしてもアルは本能的な能力に長けていそうね」
「人を野生児みたいに言うな」
「ですがアルさんの行動パターンから見てもそれは思いますよ」
「やっぱり姫様は素晴らしいです!」
「やれやれ、とはいえ面白いデータが取れそうな話だな」
そんなアルと洵の違いを感じているヘルムートも目はあるようだ。
やはり人を見る目はあるという事なのだろう。
なお再戦した結果やはりアルが勝っているようだが。




