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メアと本

特に何事もなく平和ないつもの日。

ヘルムート達は商売をしつついつものように暮らしている。

そんな中メアが思わぬものをもらってくる。

それは少し難しいものだった。


「ヘルムート、これ」


「ん?本か?どうしたんだそれ」


「なに、メアが本なんかもらってきたの?」


「本自体はたまに読んでますけど、なんか難しそうなタイトルの本ですね」


メアがもらってきた本はどうやら哲学書のようだ。


どこでもらってきたかはともかくとして、アルも少し興味を示す。


「…哲学書なんて誰からもらったんだ」


「食堂の女将さんからよ」


「でも哲学ですか、哲学って私にはよく分かりませんよ」


「私だって分かんないわよ、勉強はしてるつもりなんだけど」


「そもそも哲学ってのは理解するもんじゃなく感じるものだとワシは思うぞ」


哲学とは感じるもの。

ヘルムートらしいと言えばらしいのかもしれない。


アルが少し本を借りて中身を読んでみる。

だがやっぱりさっぱりのようだった。


「分からん、哲学ってあれなの?悟りみたいなものなのかしら」


「アルは意外と的確よね」


「だな、哲学っていうのは勉学とは少し違うとワシも思う」


「でも哲学って私は人間の感じるものとか業みたいなものだと思うんです」


「感じるものとか業な、確かに哲学ってのはあやふやな感じはする」


哲学はあやふや。

とはいえ哲学と一言で言ってもその範囲はとても広大である。


一言ではまとめられないものが哲学である。

ある意味人間がそれをどう感じるかというのが哲学なのか。


「私だって哲学は一通り触れたわよ、でも明確な答えって出なかったのよね」


「うーん、哲学って要は抽象的なものを明確にするもの…なんでしょうか」


「私も本は読むけど内容はあまり理解してないわよ」


「そういえばメアって読み書きは出来るのよね?」


「それは出来るな、ワシや洵がきちんと教育してる」


メアは意外と読書が好きらしい。

普段ふらっといなくなるのは本を読みに行っているのか。


一応この街の役所には自由に本を読める図書室がある。

そこでメアは本を読んでいるのかとも今になって思うヘルムートだった。


「とはいえ哲学書とはまた難解な本をもらってきおって」


「中身は読んだけどあまり分からなかったわ」


「哲学って結局はどういう事なの?」


「そうだな、業だと言うなら地獄への道は善意で敷き詰められているとかだろう」


「地獄への道は善意で…それって哲学なんでしょうか」


ヘルムートも哲学についてはそこまで理解しているわけでもない。

とはいえ哲学とは人間学のようなものではないかとヘルムートは考えている。


「無邪気な善意が人の世を地獄に変える、善かれと思った事が地獄を作るんだ」


「善意っていいものじゃないの?なんで地獄になるのよ」


「では訊くがこの世で一番恐ろしい思想はなんだと思う」


「この世で一番恐ろしい思想…」


「それは正義よね、違うかしら」


メアは正義がそれだと答える。

ヘルムートなりの解釈の哲学はまさにそんな事なのだろう。


「そうだな、正義ってのは歴史において虐殺や戦争を何度も引き起こすトリガーだ」


「自分達は正しいって信じるから…ですか」


「結局は正しさを追い求めていくと待っているのは地獄なんだ、それが歴史だ」


「哲学、確かに歴史哲学なんかはそんな感じだったわね」


「哲学の種類とかを見ても人間学が無難な解釈なのかしら」


ヘルムートだって哲学について詳しいわけではない。

だがアルもそれについてはなんとなく理解しているのかもしれない。


「哲学なんてもんは人が行き着く先なんだろうな、ワシはそう思っとるよ」


「難しいわね…でも個々人の解釈違いも哲学って事なのよね」


「そうね、人間がそれをどう解釈するかよ」


「だから哲学に答えはない、ワシはそう思う」


「哲学に答えはない…」


結局は個々人の違いこそが哲学なのか。

答えなきものこそが哲学なのか。


話していた全員も結局よく分かっていなかったのは内緒だ。

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