家族について
騒動も聞かなくなり街はいつものように平和に流れる。
冒険者達も人々の護衛として出入りがよくあるようになった。
そんな中アルの下に一通の手紙が届く。
だがアルはどうにも不機嫌なようだった。
「むぅ~」
「なんだ、変な唸り声を出して」
「姫様に届いた手紙の事ですよね」
「手紙?誰からだったの」
その手紙はどうやら国かららしい。
アルに宛てたという事は恐らくは国王や王妃だろう。
「今さら心配する素振りを見せるとか図々しいったら」
「アルは家族とは仲が悪いの?」
「そんな事はなかったはずですよ」
「ではどうしてそんな不機嫌なんだ」
「アルさんが第四王女というのにも関係しているのでしょうか」
確かにアルは王位の継承権は低い。
だが彼女なりに国をよくしようという思いは確かにある。
手紙の差し出し主もそんなアルを心配しているのか。
ヘルムートも彼なりにアルを気遣ってみせる。
「お前と国王や王妃との間に何があるかは知らんが、反抗期は立派な成長だぞ?」
「それフォローになってるんですかね」
「ヘルムートらしいとは思うわよ、どこか不器用っぽいところが」
「でもあまり構ってもらえなかったのは事実よね、それなのに今になって…」
「やはり反抗期でしょうか」
アルがここに来てすっかり居着いてしまった事を心配しているのか。
だがアルがどこかひねくれた性格に育ったのはそんな家庭の事情なのか。
手紙には一度国に帰ってこないかとも書かれていたらしい。
仮にも王族として国の行事には出るように促されたとか。
「それで帰るんですか?」
「帰るわけないでしょ、散々兄上達を優先しといて今さら何言ってんのよ」
「とはいえ継承権の問題ですからね、優先順位はありますし」
「国というのも難しいのね」
「アルも本心では分かってるんだろう、単に寂しかっただけではないか?」
そんなアルの心中もヘルムートはなんとなく察していた。
だから引き止めもしないし背中を押しもしないのだ。
決めるのはアル自身だし、今後を決めるのは本人に任せる。
ベリンダもそれに口を挟む事はしなかった。
「もういっその事王位の破棄でもしちゃおうかしら、権限がなくなるのはあれだけど」
「おいおい、本気で言っているのか?お前の夢が厳しくなるだけだぞ」
「ですが王位の権利の破棄は可能ですよ、どうするかは本人次第ですが」
「姫様がそれを本気で考えてるとしたら結構な事ですよね」
「もし王位を破棄したら姫様からただのアルになるのかしら」
アルの夢には権限はあった方がいいに決まっている。
だがどうせ立場的には弱いのだから、それがなくても大差はないのだろう。
「とはいえ今年もそんなないしな、手続きをしても成立するのは来年だぞ?」
「構わないわよ、とはいえ決めるのはもう少し時間をもらうけど」
「姫様…それだけ本気なんですね」
「私はアルさんがどんな決断をしても受け入れますよ、ここはアルさんの家ですから」
「木花の発言はどこまでなのかしらね」
そんなアルの悩みも複雑だとはヘルムートもベリンダも分かっている。
だからこそ時間をかけて答えを出せばいいとだけ言う。
アルの夢と国とのしがらみはどうなるのだろうか。