アルの夢
怪盗騒動もすっかり落ち着いたいつもの日。
ヘルムート達は冬支度を済ませ冷え始めた街でいつものように暮らす。
冒険者の拠点として発展した街で売上も少し上がったようだ。
特定の卸先が確保出来ている事はやはり大きいのか。
「はぁ、お茶が美味しいわね」
「お前本当に毒されすぎだろう」
「でも姫様も少しは何かとあるんですよ」
「それにしてもすっかり冷え始めましたね、お茶が美味しいのも納得です」
最近は冷え始めたので温かいお茶は体を温めてくれる。
アルもそんな温かいお茶で一息である。
「なあ、アルは年末年始もここにいるのか?」
「そうよ、どうせ国に戻ってもつまんないパーティーぐらいしかないし」
「確かアルさんは第四王女でしたか?」
「はい、上に兄が三人いますよ」
「三人の兄君ですか、継承権が低いと本人も言っていましたね」
木花の言うように継承権は上の者が優先される。
そのためアルは王位はまず継げないだろうし、国にいてもつまらないらしい。
「それに私には私なりに国をよくしたいとは思ってるもの」
「ですがここにいてそれが出来るんですか?」
「姫様は今は勉強中ですよ、立場は一応王族ですし権限だけはありますからね」
「つまりその権限を使って何かしてやろうという事か」
「アルさんなりに考えているんですね」
そんなアルの夢は食に関する事でもあるという。
ここで食べた食事の美味しさもあり、東の国と本格的に交渉したいと考えているとか。
経済を回すにはお金を使わせる事。
それはつまり金持ちなら少し高い食べ物でも買ってくれると睨んでいた。
それが東の国のこだわり抜いた食べ物だ。
それを西の国と契約して輸入し貴族達に広めて経済をよくしようと目論む。
「やっぱり食べ物ってそれだけ影響も大きいしね、お金を使わせるのに最適よ」
「つまりそれを西の国にもっと広めてしまおうと」
「でも確かに貴族や王族の食事の食べ物は安全と信頼ですからね」
「それで東の国と本格的に交渉するというのか、お前らしいな」
「鎖国しているわけでもないですからね、貴族御用達はイメージもいいです」
確かに貴族が信頼してくれるというのはいいイメージに繋がる。
例えそれが悪徳貴族であってもいいものにお金を惜しまないのは利益になる。
悪人と言えばステーキと葉巻、そんなイメージに近いものだ。
お金があるからこそいいものを食べられる、それは信頼を買うという事だ。
「ですが東の国に行くとなると少し大変ですよ」
「あ、確かに東の国への航空便は最速でも6時間ぐらい空の上でしたっけ」
「ええ、なので計画的な行動は必要ですね」
「でもきちんと勉強して行くならそれぐらい安いわ」
「とはいえ東の国の歴史のある農園や会社は信頼に値する、値段は信頼だぞ」
値段は信頼、それは高価なものは壊れにくいとも言える。
そして高い食べ物は信頼を買うという事にもなる。
西の国でも言えるが、国内産の食べ物や道具などは高く売られる。
それはその値段に見合う信頼があるのだ。
安物買いの銭失いにならないためには少し高くてもそれを買う。
値段とは信頼の証であり、同時に詐欺の常套手段でもある。
「だから国に東の国の食べ物を広めてやるのよ」
「ではそのうち東の国に旅行がてら見学に連れていってあげますよ」
「いいんですか?」
「洵さんが言うなら問題はないかと」
「その時は勉強してこい、ワシも少しは力になってやる」
こうしてアルの夢へのステップは進み始める。
アルらしい夢と目標であり、国のために少しでも役立てる事を。
仮にも姫という自覚はそこにはしっかりとあるようである。