暖かい夜
怪盗騒動も気になりつついつものように暮らすヘルムート達。
そんなその日の夜は少し冷えるので先日送られてきた鍋にする事に。
東の国の独特な文化である鍋。
それは暖かさと美味しさを感じる冬の風物詩である。
「お鍋が出来ましたよ」
「お、出来たか、石狩鍋だな」
「鍋ってまさか大きなお鍋から好き勝手取って食べるの?」
「そうですよ、東の国の冬はこれが定番なのです」
そうしているうちに鍋から湯気が立ち上る。
いい匂いと煮込まれたたくさんの食材が美味しそうに姿を見せる。
「ではいただきますか」
「各自小皿に好きに取っていいぞ、ただし食いすぎるなよ」
「でもいい匂いね、それじゃいただきます」
「姫様は野菜も食べてくださいよ」
「メアは相変わらずか、まあ仕方ないか」
そうしているうちに各自好きに取り分けて食べていく。
アルは野菜は嫌いというわけではなさそうだが、苦手なものもあるようだ。
「アルは野菜は苦手か?」
「苦手っていうわけでもないわよ、でも昔少しね」
「何かあったのですか?」
「実はタマネギをうっかり生で食べて以来野菜そのものに抵抗があるらしく」
「確かにタマネギは生だととても辛いですからね、それで野菜に抵抗ですか」
確かにそれは苦い過去のようだ。
とはいえ野菜自体は嫌いではないらしい。
ただアルが苦手なのは生野菜なのだという。
タマネギ事件以来生野菜だけは食べるのに抵抗があるらしい。
「これはきちんと火を通してあるから問題ないわ、このニンジン凄く美味しいし」
「生野菜がそれ以来苦手になったか、まあ生野菜は確かに好みが分かれるな」
「ええ、元々生で食べる方が多い野菜とかもあるにはありますけど」
「うちで扱っている漬物は基本的に生野菜に近いですよ?漬物はそういうものです」
「きゅうりとかは火を通して食べるとはあまり聞きませんからね」
アルの苦手な食べ物はネバネバしたものと生野菜。
タマネギ事件以来生野菜そのものが食感なども含め苦手になったらしい。
この鍋に使われている野菜は火を通してあるので普通に美味しそうに食べている。
やはり生野菜に抵抗があるというのは確かなのだろう。
「まあなんだ、野菜なんぞ調理法はいくらでもある、食えるなら無理に生でなくともな」
「あら、そこは克服しないのか?って言うかと思った」
「ヘルムートさんは無理にそういう事はしませんよ、食べられるならそれでいいのです」
「もっとこう厳しいお爺ちゃんかと思ってたんですが、意外ですね」
「そもそも調理法があるのなら食べられるだけでいいという事ですよ」
アルもそれを聞いて少しホッとした様子だ。
ベリンダもそんなヘルムートの意外な一面に少し嬉しそうな顔をしていた。
「にしても消えるのが早いな、お前ら若いだけあってよく食べるな」
「ふふん、美味しいものはきちんと食べる主義よ」
「それは褒めていいのでしょうか」
「でも体がポカポカです、最近は寒いのでとても温まりました」
「ならよかったです、鍋のセットはまだあると思うのでまたやりますか」
そうして鍋をキチンと食べ終える。
白米もあったのでアルは鍋のスープをそれにかけて〆ていた。
なんというのか、おっさん化が進んでいる気がする。
ベリンダもそんなアルを見て少し複雑なようだ。
「やれやれ、風呂が沸いたらさっさと入って寝るんだぞ」
「分かってるわよ、日付が変わる前には寝るわ」
「では我々は仕込みを済ませてしまいますか」
「ん、んー…少し甘いものが欲しいです」
「ベリンダさんも食べすぎないように頼みますよ」
そうしてその日の夜は更けていく。
鍋で体も温まりその日のテレビを見つつ時間は過ぎる。
東の国の食べ物が食べられるのも洵の繋がりがあるからこそである。