メアとみかん
騒動については聞かなくなって国もだいぶ落ち着いた。
そんな中ヘルムートは冬に向けての準備も始める。
ここは中央大陸なので寒さはそこまでではない。
とはいえ冬は当然冷えるので出来る事はしておくのである。
「このみかんって何かしら」
「なんだ、気になるのか?」
「みかんっていうのは東の国で言うオレンジみたいなものらしいですよ」
「…東の国のオレンジ?」
メアの目が輝く。
とはいえ柑橘類なのに変わりはないのだが。
「食ってみるか?オレンジに比べたら甘みは強いと思うが」
「食べるわ、オレンジみたいなものなら」
「食べ方を教えますね」
「あんた達何してんのよ」
「メアがみかんに興味を示したからな、ベリンダが食い方を教えてる」
ベリンダに言われた通りに皮を剥いてみかんを食べるメア。
その反応はというと。
「美味しいわ、確かにオレンジみたいな味ね」
「ならよかったな、それよりベリンダ、少し手伝ってくれ」
「えっと、何をしてるんですか?」
「冬に向けての準備だよ、木花は上で布団とか出してるからな」
「冬は嫌だわ、でも温かいものが食べられるのはいいかも」
とりあえずはベリンダもヘルムートを手伝いヒーターなどを出す。
無理は承知で洵にこたつを頼んだ事は今は内緒だ。
こたつが手に入れば冬はそれを使おうとも思う。
早ければ数週間で送られてくるとは言っていた。
「メアも食いすぎるなよ」
「分かっているわ、でも美味しい」
「もしかしてメアさんってオレンジしか食べないんじゃなくて…」
「柑橘類しか食べないってやつかしら?みかんは美味しそうに食べてるし」
「アルも少しは手伝わんか、老人にばかり働かせるんじゃない」
アルも渋々手伝い始める。
それから数時間で準備の大体は終わった。
冷え始めたので布団の枚数を増やしたり、ヒーターを出したり。
労働のあとはお待ちかねの昼食である。
「お待たせしました、今日は中華まんです、きちんと蒸したので美味しいですよ」
「お、いいな、最近は冷え始めたから温まるぞ」
「どれがどれなの」
「平らなやつはあんまんです、山なりのやつが肉まんですよ」
「そういえば洵の奴はまだ戻らんがいいのか?」
洵は今日は剣術道場の生徒と課外授業らしい。
なので木花が弁当を持たせてあるという。
「そうか、なら問題ないな」
「はふっ、おいひぃはね」
「いい具合に体が温まるな、温かいお茶と合わせて体がぬくぬくだ」
「熱っ、あんまんの餡が熱い…」
「あんまんの餡は熱いので気をつけてくださいね」
そうしているうちに中華まんはあっという間に消えていった。
食事を終えたあとはお茶を飲んでまったりである。
「にしてもヘルムート、あんたすっかり隠居老人ね」
「仕事を引退したんだから隠居でもいいだろうに」
「確か昔は凄腕の外交官でしたっけ」
「ヘルムートは変わり者だから」
「やかましい、とはいえ変わり者なのは確かなんだろうな」
ヘルムートも仕事を引退してからは丸くなったのだろう。
変わり者と言われても国政時代のようなしがらみは今はない。
国には今でも何かと頼られるが、それは人材がいないからだろう。
国を変えようとしたが結局は何も変えられなかった。
それがヘルムートに引退を決意させた理由だろうかとアルは思う。
ここにきてアルは見えていなかったものも見えるようになったのだろう。
「ワシも価値観を変えるきっかけになったのはやはり東の国なんだろうな」
「それって仕事で行ったっていうやつよね」
「そんなに影響されたんですか?」
「国としての違いとかを見たのかしら」
「まあな、やはり目で見るというのは大切だぞ、忘れるなよ」
東の国で受けた影響、それはヘルムートに影響を与えた。
そして改めてそんな東と西側の国の違いを実感する。
ここは中央大陸だが文化的には西側の国の文化が強い。
実際に見たそれは何かと新鮮だったのだろう。
国を想い国に敗れた老人は今は隠居しているのだから。