革命の意味
町長の娘のエストの事は病院にとりあえずは任せる事にした。
家に戻ったヘルムートはガラシャ革命団について考えていた。
革命とはどういうものなのか。
そして国を変えようとするために必要なものとは。
「ヘルムートさん、相変わらず例の革命団について考えていますか」
「む?ああ、あいつらも信念だけは立派だとは思ったからな」
「でもヘルムートはそれで国を変えられるとか思ってんの?」
「そうだな、ワシはそれで国を変えられるなどとは思ってはおらん」
ヘルムートは国を変えるという事の大変さを知っている。
それは簡単にはいかないものなのだ。
「国を変えるっていうのはな、国民が汚れた政治家をふるいにかけるって事だ」
「確かに今の世界は王がいてその下に議会があるわよね」
「そうだ、王は選べん、だが議会の人間は国民が選挙という手段でふるいにかけられる」
「つまり選挙で汚れた政治家を落選させるのが国を変える事、ですか?」
「そういう事だ、革命などやるのは軍政の国か独裁の国ぐらいだろう」
ヘルムートの言いたいのは革命の意味でもある。
革命とは失敗したらそれはただのテロリストなのだ。
それでも革命をしないと変われないような国は当然ある。
だが失敗した時点で革命はテロにしかならないのだと。
「ガラシャ革命団というのは政治家を憎んでると言うが、選んだのは国民だろうに」
「西の大陸は少なくとも議会制も民主主義も根付いてるはずですよ」
「結局政治家ってのは国民を騙す生き物だ、約束を守る奴の方が少数なのさ」
「ヘルムート、あんた本当になんていうかひねくれてるわよね」
「なんでワシが政治の世界を引退したと思ってる」
ヘルムートが政界から引退した理由。
そして国の内情を見たその目が何を語るのか。
洵はその理由も知っているが、深く語ろうとはしない。
知っているからこそあえて語らないのだろう。
「結局な、国民なんて単純なものなんだ、甘い言葉にコロッと騙される」
「甘い言葉に…それは選挙で嘘を言うって事ですよね」
「そうだ、少なくとも本気で貧しい民を救いたい政治家などいないのさ」
「そんな事ないわ!私は…」
「アルは立派だ、政治家がアルみたいな奴ばかりなら世界は平和になってる」
ヘルムートが見たもの。
それはその心を疲弊させるには充分すぎるものなのか。
アルにいつの日かの自分を重ねているようにも感じる。
とはいえその信念は折れてはいないという事だけは分かる。
「それとな、本気で民を救いたいと願う政治家は決まって負けるのさ、嫌なもんだ」
「選挙というのは言うならば数の暴力、組織票が出来てしまう世界ですからね」
「そうだな、国の中には支持者を利用した組織票で生き残る奴もいるんだ」
「ねえ、ヘルムートが引退した理由って…」
「察しただろう?ワシがなぜ政治の世界から引退したのか」
アルが察したヘルムートが引退した理由。
それは少女の胸に鋭く突き刺さった。
何も知らなかったのは自分なのだという事も。
革命団などというものがなぜ生まれたのかという事も理解した。
「本気で国を変えたいと願うなら国民の意識から変えねばならん、そういうものだ」
「そして悪徳政治家の詳しい情報を国民全体に浸透させる、という事ですよ」
「とはいえ議会の上の王が腐っている可能性はある、それでも効果はあるだろうよ」
「王位継承権が低い事や王族の中での地位の低さが私には悔しい、悔しすぎる」
「ワシは生きていけるなら多少の悪政でもいいさ、悪法もまた法なりだ」
それはヘルムートが知る国というものの闇。
そして国を変えるという事がどれだけ大変かという事。
幸いこの世界は通信の技術も発達している。
だからこそ国を変える事は不可能ではないとヘルムートは感じている。
革命団が生まれた理由、革命の意味、それはアルの胸にも深く刻まれる事となる。




