怪物と少女
ここは西にあるそこそこ大きな国の都会と田舎の間。
そこに引退して漬物屋を営む老人が住んでいた。
彼の名はヘルムート、元国の重鎮らしいと言われる。
そんな彼がその日人生を大きく変える出会いをしようとしていた…。
「よし、仕込みは終わったな」
なぜ漬物屋をしているのか。
それはそれなりに昔に仕事で行った東の国でのお話だ。
そこで食べた漬物の味に感動し引退後はそれを商売にしようと考えた。
そうして引退後再び東の国に渡り商売を始めるにあたって協力者を求めた。
そんな中出会ったのが彼である。
「おや、ヘルムートさん、朝から精が出ますね」
「洵か、そりゃこいつが商売だからな」
彼の名は森川洵、東の国のサムライにして漬物屋の息子である。
彼の協力を得てこうして漬物屋を軌道に乗せたのである。
「おや、いい匂いがしますね、もう朝食のようですよ」
「もうそんな時間なのか」
キッチンから漂ういい匂い、彼女が朝食を作っているのだろう。
「ヘルムート様、朝食が出来ましたのでさっさと食卓にお願いします」
彼女の名は鈴熊木花。
東の国が技術の粋を集めて作ったと言われるメイドロボである。
元々家事の苦手なヘルムートなのでせっかくだからと購入してしまった。
家事自体は出来るのだが細かいところまでは出来ないのがヘルムートだ。
そのためそういったところをカバーするために彼女を購入した。
今では立派な家族である。
「そういえば今日は孤児院に行かれるのですよね?」
「ああ、すっかり忘れていた、昼ぐらいには行ってくるよ」
「留守はお任せを、悪漢程度なら我々でボコボコにしますので」
洵も意外と容赦のない一面がある。
温厚な性格なのだが怒らせた時の怖さは鬼気迫るものがあるらしい。
そうしてさっさと朝食を済ませ孤児院に行くギリギリまで仕込みをする。
そして昼頃、服を着替えたヘルムートは二人に留守を任せ孤児院に向かった。
「おや、ヘルムートさん、お待ちしていましたよ」
「ああ、シスター、子供達は元気にやっているかな」
「それが…昨日新しく入った子が少し…」
昨日新しく入った子。
シスターにそれについて訊いてみる。
「ずっと見ているだけで何も語らないんです、ご飯も手を付けないし」
「それに子供達は少しからかっているようで…」
「そうか、ならワシが少し話してみよう」
だがその時、孤児院から一人の少女が飛び出してきた。
「今の子かな?」
「ええ、でも何かあったんでしょうか…少し聞き取りをしてきます」
「我々は彼女を探しにいきます、この街はそんな広くないですし」
そうしてシスター数人が彼女を探しに向かった。
ヘルムートもそれが少し気になり彼女を探す事にした。
お土産のお菓子を別のシスターに預け街を歩き回る。
「ん?雲が出てきたな、今日は快晴だと国の気象庁は言っていたはずだが」
ヘルムートは何か胸騒ぎがしていた。
少し足を速め彼女を探す。
その頃のその少女は街外れの廃墟にいた。
「別に寂しくないわ」
孤児にしてはどこか小綺麗な服。
だが彼女には光が感じられない。
そんな中彼女はそれを見つける。
「あなた、なあに?あなたも寂しいの?仲間ね」
言葉を発しない謎の存在。
だがそれが恐ろしいものだとは誰もが分かる姿をしていた。
「え?怖くないのかって?怖くないわ、あなたは私が怖い?」
その謎の存在は彼女に優しそうに迫る。
そして彼女は言う。
「いいわ、なら私があなたのお友達、いいかしら」
その存在は嬉しそうに彼女を包み込む。
そして彼女の服の中に入り込んでしまった。
そんな時彼女を探すシスターが彼女を見つける。
「ああ、やっと見つけました、さあ、帰りましょう、風邪引いちゃいますよ」
シスターが彼女に共に帰ろうと近づく。
だが次の瞬間だった。
彼女のスカートの中からそれは伸びる。
「えっ?」
それから少し遅れてヘルムートが駆けつける。
だがそこにシスターの姿はなくスカートの中から伸びる手から血が滴っていた。
「お前…何を…何をした…」
「駄目、この人はいい人」
少女はその怪物をなだめる。
雨脚は強まり雷までもが鳴り響く中、それが本格的な出会いだった。