店の評判
賑わう街の中にあるヘルムートの店。
客はそれなりに入っているのが確認出来る。
とはいえ人気の店というわけでもなさそうだ。
アルはそれが気になっているのか、尋ねてきた。
「ねえ、このお店って儲け出てるのかしら」
「なんだ唐突に」
「いえ、お客は入ってるけど儲かってるようにも見えないし」
「なるほどな、まあ端的に言えば儲けは出てるぞ」
それにアルは意外そうな顔をする。
とはいえどこにそんな利益が出ているのか。
「なんなら帳簿見せてやるぞ」
「なら見せてみなさいよ」
「確かここに…」
「本当に黒字なの?にわかには信じられないわね」
「ああ、こいつだ、ほら」
そう言って取り出した帳簿をアルに見せる。
そこには確かに黒字になっている表記があった。
「マジだわ…どんなからくりなのよ」
「商売のからくりというのは教えたら意味がありませんからね」
「お、木花か、そうだな、そういうものだ」
「むぅ~、お客の数を考えても黒字には見えないのに」
「ふふ、アルさんには秘密です」
そんな木花とヘルムートが語る黒字の秘密。
やはり何かからくりがあるのだろうか。
「ヘルムート」
「む?メアか、どうした」
「アルはなんか悔しそうな顔をしているわ」
「やはりうちが黒字なのが不思議という事なんだろ」
「頭のいいお姫様にも分からない事なの?」
そんな話をしていると客がやってくる。
その客に漬物をきちんと売り勘定の計算をする。
それを見ていたアルからしてもやはり不自然に思えるようだ。
一日に入る客の数を数えても黒字になるとは思えない。
どんなからくりを使っているのかという。
「やっぱ納得出来ないんだけど」
「相変わらず食い下がるな」
「アルは負けず嫌いだし、知らない事は知りたがるのよ」
「だな、まあその熱意は嫌いじゃないが」
「やはりアル様には謎のようですね、それでいいと思いますが」
とはいえ店の評判自体はいいというのはアルも知っている。
その評判が黒字の理由なのだろうか。
やはり考えても分からない。
どこにそんな利益が出る要素があるというのか。
「まあ評判がいいというのはそれだけで利益に繋がるもんだ」
「評判…クチコミってやつかしら」
「アルはとことん食い下がるのね」
「仕方ないでしょ、気になるんだから」
「国の運営とは違いますからね、お金の循環というものですよ」
だがやはりアルには納得がいかないようだ。
その利益がどこから出ているのか。
そんな中ヘルムートは一つ助言をくれる。
それは夕方になれば分かるというものだ。
「夕方?どういう意味よ」
「答えはシンプルという事だぞ」
「そうね、とてもシンプルな答えよ」
「はい、とてもシンプルな答えですよね」
「なによ…なら夕方を待とうじゃない」
そうして夕方を待つ事にした。
洵とベリンダも戻り夕食の準備を木花が始める。
「お、いらっしゃい」
「いつものように頼むよ」
「分かりました、では明日の朝には納品します」
「ええ、では明日の朝うちの裏に頼みますね」
「はい、では確かに注文書は確認しましたので」
それを見ていたアルはヘルムートに問いかける。
今の人が黒字の理由なのかと。
「そうだ、こいつがその注文書な」
「そうか…そういうからくりなのね」
「分かったか?客は少なくてもこいつがあれば黒字など余裕だ」
「そりゃそうだわ、こんな簡単な事を見落としていたなんて」
「からくりもバレたところで夕食の時間だ、行くぞ」
そうしてアルが知った黒字の理由。
それは宿屋や酒場などからの大量の発注である。
それにより客の数は少なくても簡単に黒字化出来ている。
商売とは実に賢くやるものなのだから。




