食の勉強
都市計画による街の発展はほとんどが完了した。
それに伴い登録を終えた冒険者達も街に住み着く事となった。
神隠しによる捜査は結局捜査自体は継続されるものの、警察は引き上げた。
その一方でアルはすっかり居着いてしまっていた。
「…なによこれ」
「えっと、木花さんに教わってたら作りすぎてしまって」
「凄い量だな、今日の昼飯はこいつか」
「まあいいのではないですか?卵焼きはご飯が進みますよ」
ベリンダも木花から様々な料理を教わっている。
アルを迎えにきたつもりが丸め込まれ、そのままこっちで暮らしている。
「それにしても木花さんって料理上手で羨ましいです」
「あいつはメイドロボだぞ?上手いに決まってるだろ」
「へっ?でもそれなら納得…」
「それより食事にしますよ、その卵焼きをきちんと処理してくださいね」
「これ全部食べるのね」
そうして昼食は山ほどある卵焼きでご飯が進む。
ちなみにこの家では和食がメインなのでアルとベリンダも興味深いらしい。
西の国で東の国の漬物を売り家での主食は和食という変わった家だ。
そうなったのも大体は東の国で受けた影響らしい。
「あの、その黒いやつなんですか?」
「海苔の佃煮だが、ご飯が進むぞ」
「和食って変なものが多いわよね、美味しいんだけど」
「使うか?ご飯に乗せて食うんだ」
「あ、はい、では」
洵が布教してる事もあってかこの街では和食もそこそこ知名度はある。
特に貴婦人方には健康食として知られているようである。
「美味しい…でも少し塩が強いです」
「和食ってのは塩の強さだけはどうにもな、まあそういうものなんだが」
「とはいえベリンダさんもすっかり虜になっていますね」
「そのようです、ですが魚を食べる文化は西にもあるので調理法の違いですね」
「東の国だと魚とか卵を生で食べるって聞いた時は流石に耳を疑ったわよ」
生食は東の国特有の文化だと洵も認めている。
そもそも衛生管理の概念が西と東では違うのだ。
それがアルやベリンダにとっても奇異なものに映ったのだろう。
それだけ東の国の衛生管理の技術は進歩しているという事なのか。
そうしているうちに山ほどあった卵焼きはあっという間に消えてしまった。
なんだかんだで卵焼きは美味しいという事なのか。
メアはそんな話が弾む中で黙々とオレンジを食べていた。
食事が終わるとメアは再びふらっと姿を消してしまった。
「あの、木花さん」
「はい、何か?」
「えっと、東の国で生まれた洋食っていうのが知りたくて」
「なるほど、では少しお勉強ですね」
「はい!お願いします!」
ベリンダもすっかり木花に師事している。
この街で暮らすからにはそういう勉強は欠かさないようだ。
「では私は剣術でも教えにいってきますね」
「分かった、ワシは店番をしてるから夕方には戻れよ」
「はい、それでは」
「私も行くわ、ライバルの研究は怠らないわよ」
「…すっかりライバルになったのか、あの姫様は」
その一方でベリンダは木花から話を聞いていた。
こっちも研究や勉強は怠らないらしい。
「例えばドリアという料理はそれこそ東の国発祥の洋食の定番ですね」
「ドリア?」
「炊いたお米にチーズとミートソースを乗せてオーブンで焼くのです」
「へぇ~、東の国ってそういうのも積極的なんですね」
「はい、和食というか和の食材と洋の食材は意外とベストマッチするのですよ」
そんなこんなでベリンダの料理勉強は話を聞く事で進んでいた。
アルは豆腐ハンバーグが好きになったしベリンダは焼きおにぎりが好きになっていた。
東の国の食材は洵の関係者から定期的に送られてくる。
それが和食をこの家で食べられる理由である。
街の発展も終わりしばらくは何事もなく暮らせそうである。