姫様の侍女
神隠しから数日が経過した。
国からの情報提供なども求められたが、結局有益な情報はない。
アルも名門貴族の子息の失踪という事もあり頭を悩ませる。
だが結局事態は進展する事はないままである。
「はぁ、若年寄にするつもりかしら」
「何を言い出すんだお前は」
「国への対応で疲れてんのよ、若いのに老けちゃうわよ」
「その減らず口が叩けるなら老ける心配はなさそうだな」
そんなやり取りをしているうちは安泰だとヘルムートも思っていた。
アルは口は少し悪いのだが責任感は強い方である。
「はぁ、元々白い髪の毛がよけいに白くなりそう」
「それにしても天然の白髪か、一般的には聞かない色だな」
「白髪って本来はエルフとかに多い髪色なのよね」
「だとしたらクオーターか何かか?」
「さあね、でも人間同士の子供でも先祖返りでハーフエルフが生まれたりするとか」
なんにしても国の方も証拠が出ない以上近いうちにこの街から引き上げるとか。
結局証拠になりそうなものや証言は出てこなかった事もあってらしい。
国としても最初の神隠しの時もそうだが証拠がないのがきついという。
目撃者もいないという事から捜査の難航は避けられないそうだ。
「ここでしょうか?すみませーん!」
どうやら来客のようだ。
木花と洵は今出ているためヘルムートが出る。
「おや、お嬢さん、何か買い物かな」
「ひゃっ、えっと、ヘルムートさんのお宅はここで…すよね?」
「そうだが、それで何が欲しいんだ」
「えっと…アルトリシア姫様がここにいるって…」
「アル?少し待ってろ」
そうして家の奥へ行きアルを呼んでくる。
「私にお客?誰よ」
「姫様!」
「…ベリンダ?なんであんたがここにいるのよ」
「それはこっちの台詞ですよ!書き置きを残してどこに消えたのかと!」
「ああ、ごめんなさいね、少し国の仕事よ」
どうやらベリンダというらしい。
服装からしてメイド、というか侍女のようだ。
「姫様を迎えにきたんです、帰りますよ」
「嫌、帰らない、というか寧ろあんたがこっちに来ればいいわ」
「はい?相変わらず我儘な…」
「国にいても私の仕事なんてないし、だから私は帰らないしあんたもこっちに来い」
「ヘルムートさんも何か言ってやってもらえませんか!」
その振りにヘルムートも少し困り顔である。
とはいえアルの覚悟も知っているのでアルの味方をする事にした。
「まあなんだ、この姫様は本気だぞ?ワシが言っても聞かないのに」
「うぐっ、確かに姫様は頑固なのは私も知ってますけど…」
「だから私は帰らない、そう決めたのよ」
「だからなんだ、あんたも諦めてこっちで暮らせ」
「そんな無茶苦茶ですよ、姫様は破天荒すぎます!」
相変わらずの態度のアルもアルだ。
とはいえアルの頑固さにベリンダも折れたようで。
「分かりました、どうせ無理だって分かってたので私も住み着きます」
「よろしい、木花が帰ってきたらいろいろ聞いておきなさい」
「その木花さんというのは?」
「今は出てるんだが、あと三人ほどうちには家族がいてな」
「分かりました、きちんと勉強します」
そうしてベリンダも結局はこの家に住み着く事に。
部屋がそんなにあったかと言えばそういう事である。
ベリンダはアルと同じ部屋を使わせる事になった。
アルは芯が強いと言うべきなのか頑固者と言うべきなのか。
「とりあえず帰ってくるまで適当にしてろ、菓子ぐらいは出せる」
「あ、はい、それでは」
「ヘルムート、私もお茶」
「図々しい奴だな、まあいい、少し待ってろ」
「えっと私もお手伝いを…」
そのあと木花と洵とメアも帰ってきてベリンダを紹介する。
狭い家にこの人数は少し辛いものがあるのだが。
ベリンダもこっちでの生活について今後勉強である。