これからも
内緒で何かを進めているアル達。
それをヘルムートも感づいているようではある。
あえて気づいてないふりをしつつそれを見守る。
そしてそれは子供達の気持ちの表れでもあった。
「ヘルムート、少し来なさい」
「なんだ、突然に」
「いいから、来て」
「こっちですよ」
少々強引にヘルムートを引っ張っていく。
そしてその先にはソルベがいた。
「ヘルムート、その、これを」
「こいつは?」
「あれよ、今までずっと世話になりっぱなしだから、感謝の気持ち!」
「それでお金を貯めてこれがいいって選んだのよ」
「姫様が提案したんですよね」
それは新しい羽織だった。
アル達が今までずっと世話になっていた事もあり、お返しをしようと考えたらしい。
ちなみにこの羽織は洵とゾールに相談して取り寄せてもらったという。
それもあってかそこそこいいもののようだ。
「どう?気に入った?」
「こいつはいいな、ありがとうな」
「やりましたね、姫様」
「アルも素直じゃないけど気持ちは伝わったみたいね」
「メアだってノリ気だったくせにな」
子供達の彼女達なりの恩返しなのだろう。
もちろん出ていくという事もなく、ついでに今日がなんの日かも聞いていた。
「それと、今日誕生日なんでしょ?どうせ老い先長くないなら親孝行しなきゃ」
「おい、誰が老い先長くないって?まあお前達より先に死ぬのは確定だろうが」
「アルって本当に不器用な性格をしてるわよね」
「姫様は素直になれないんですよ」
「ベリンダ、お前、容赦なく言うようになったよな…」
そんな話も弾む仲アルも催促する。
みんなそれを見たいようで。
「それより着てみてよ、きっと似合うわよ」
「ああ、ふむ、サイズもぴったりだな、そういえばこの前のあれはそういう事か」
「そういう事よ、本当は感づいてたんでしょ」
「ヘルムートは優しい奴だからな、知っててあえて知らないふりをしてたのも知ってる」
「だからこれは誕生日プレゼントって事で受け取ってくださいね」
そんなやり取りを陰から見守るのは大人達。
大人達も立派な家族だし、知り合いでもある。
「どうやら無事に渡せたみたいですね」
「ええ、子供達は彼女達なりに感謝してるんですよ」
「ま、そんな気持ちを無下には出来ないさ」
「ゾールも素直ではないわよね、商人として感情で動かない辺りは」
「そりゃ商売をするんだからお金をもらったからにはその金額で最上のものを用意するさ」
ゾールらしい考えでもある。
金額相応のものを用意するのは当然、そしてその範囲で最上のものを用意する。
そんな考えを持つからこそ商人としても優秀なのだろう。
やはり経験はそれだけ語ってくれるのか。
そんな大人達の協力もあり、きちんとそれを用意出来た。
持つべきものは友という事なのだろう。
子供達もそんなお爺ちゃんを嬉しそうに囲んでいる。
実の子ではないとはいえ、家族同然なのだから。
「ほら、ヘルムート、ソルベが料理も用意してくれたのよ」
「お前、すっかり料理上手になったな、あの炭素ホットケーキを作ってたのが嘘みたいだ」
「ふふん、僕は同じミスはしない主義でな」
「確かに一度覚えたらミスはほとんどしなくなりますよね」
「羨ましい限りね」
そんな微笑ましい光景を大人達は見守っている。
この家にはきちんとした大人もいるし、子供達はしっかり者だ。
意外と抜け目がないのもそんな性格からなのだろう。
やはり王族や従者というのはきちんとしているようで。
「さて、我々も混ぜてもらいに行きますか」
「ですね、やはりここは全員で」
「あたしも混ぜてもらうかね、ここまでやってのけ者は勘弁だよ」
「ちゃっかりしてるのもゾールらしいわよね」
「ははっ、当然だろ」
そうしてヘルムートは今と昔の違いを実感していた。
仕事に明け暮れ国に失望していた時代もあった。
それでも国のために尽くし、潔くスパッとその職を辞した。
国からは今でも声が掛かるが、それらは全て断っている。
引退した人間に国に戻る権利もないという本人なりの考えらしい。
今は幸せだ、こうして素敵な家族に囲まれているのだから。
国に尽くし国に失望した男は引退し、第二の人生を幸せそうに満喫している。
そんなわけで爺さんと怪物少女はここで一旦終わりになります。
ですがヘルムート達の日常は終わりではありません。
物語はこの先も続きますが、その物語はここで一旦幕を引きます。
今までお付き合いいただき真に感謝いたします。
次からは背伸びギャルと少年魔道士を月曜日に更新していきます。
そちらもよろしくお願いします。




