力を得た先
新年度も始まりニュースにはそういったニュースも目立つようになった。
ヘルムート達は相も変わらずな日々を送る。
そんなアルは今日もヘルムートに気になる事を聞いている。
ヘルムートもなんでも答えられるわけではないが、一応答えている様子。
「ねえ、なんで人って偉くなったりすると人が変わるのかしら」
「だからワシだって明確な答えを持ってるわけじゃないぞ」
「でもそういうのには詳しそうよね」
「言われているわよ」
アルが言いたいのは、人は権力などを手にすると変わってしまうという事。
それは当初の目的を忘れてしまうのかという事である。
「おい、ホットケーキが焼けたぞ、ってまたアルはヘルムートに質問攻めか」
「それでなんでなのよ?」
「そうだな、こう言えば分かるか?力を手にしても欲した理由を忘れるな」
「それはまさにその通りね」
「そこはまさに初心っていうものよね」
ヘルムートの言うその言葉。
つまり人は力に飲まれてしまうから変わってしまうとの事。
最初は何かを変えたいと願い力を求める。
だがその力を手にした時からその人が暴君へと変わってしまう、そんな話だ。
「つまりね、貧しい聖人君子が政治家になっても聖人君子でいられるか、って事ね」
「そんなのいられるだろう、最初はそうやって変えたいって願うんだ」
「だが現実はそう簡単な話でもなくてな、人っていうのは極端にも走りやすい」
「なんでよ、変えたいなら腐ってる政治家とかを切ればいいじゃない」
「それをやったら人材がいなくなる可能性がある、かしら」
ヘルムートが言うには力とは人の心を反映する鏡なのだという。
どんな力も人の心次第で白にも黒にもなる。
正しく使えるかはその人の心次第。
力を得た先にあるのは己との戦いなのだと。
「何かを変えたいと願うなら仲間を集める、これは基本だぞ」
「そりゃ個人で組織を変えられたら苦労しないわよね」
「自分より有能な人間を後継者にする事は決してしない、神輿は軽い方がいい、よね」
「上が無能だからこそ下が腐る、か」
「そう、組織っていうのは必ず上から腐るの、これは絶対なのよ」
リヒアの言う組織の腐敗は上からという言葉。
それはヘルムートも見てきたもの。
とはいえ王族は腐敗とは遠いのも知っている。
真の腐敗は議会なのだという事も。
「だからな、変えたいと願うならまずはどこから手を付けると思う?」
「あ、そうか、腐ってる人達…」
「そう、でもそれを切ってまともになる保証なんてないの」
「それを切ったところで新しい人達が暴君になってしまう可能性、だな?」
「それが力は人の心を映す鏡、という事ね」
リヒアもヘルムートもそれはよく知っている。
そしてメアの言う神輿は軽い方がいい、それもまた改革を難しくする話だ。
「結局は力を得ても個人ではほとんど無力なんだ、そんなもんだぞ」
「全てがそうではないけどね、でも人って大きな力に飲まれやすい生き物なのよ」
「つまりは馬鹿に権力や地位を与えてはいけないっていう話にも繋がるわね」
「何かを変えたいと願うからこそ先を見て行動しないと駄目という事か」
「ヘルムートもリヒアもそれは正しいのよ、それが力っていうものだから」
それが力を得るという事。
人は権力を手にしたら変わってしまう。
権力に限らず力は人の心を変えてしまう。
それが白になるか黒になるかはその人の心次第たと。
「結局は燃やし尽くしたあとでこう言うんだ、ここまで燃やすつもりはなかった、とな」
「でも燃えてしまったものは戻らない、力を得て何かを変えるっていうのはそういう事よ」
「でも変えなければ最後には腐り落ちるだけ、難しい話ね」
「なぜ自分は力を求めたのか、それを忘れてはいけないだな」
「こればかりは難しい話よね、明確な答えなんかないもの」
それでもアルは少しは納得してくれた様子。
聖人君子が力を得ても聖人君子のままでいられるか。
人は力を手にしたら変わってしまう生き物なのだから。




