割を食う
相も変わらずいつものように暮らすヘルムート達。
そんな中アルはまたしてもヘルムートに尋ねてくる。
すっかりヘルムートが相談役になってしまったものの一応は答えてやる。
もはや知恵袋状態である。
「ねえ、昔から馬鹿っていたの?お店のアイスケースに入るみたいなあれ」
「…またそういう事を聞くのか」
「アルはインターネットに毒されているのか」
「それにしてもずいぶんな話題を振ってきましたね」
アルが言いたいのはふざけた行為をネットに投稿するあれだろう。
ヘルムートも一応答えてやるわけだが。
「馬鹿自体は昔でも普通にいたな、ワシはそれも見てる」
「また姫様がヘルムートさんに聞いてるんですか」
「だって年寄りに聞いた方が分かる話もあるでしょ」
「言いたい事は分かりますよ、私もそういう人は昔に見ていますし」
「洵もなのか」
ヘルムートや洵曰くそういう馬鹿は昔から普通に存在したという。
今は技術の進歩により可視化されただけに過ぎないという。
「昔はそれを隠すのも簡単だったが、今では袋叩きだからな」
「そういう意味では頭を抱えてそうだな」
「燃え上がるだけならまだいいんですよ、問題はその馬鹿のせいで他が割を食う事です」
「他の人までその馬鹿みたいに見られるって事?」
「それは偏見なんじゃ」
ヘルムート曰く悪目立ちする奴のせいでまともな奴が割りを食うらしい。
国でもそうだったらしく、馬鹿な政治家のせいで他のまともな政治家が割を食うとか。
つまり一人の馬鹿が組織などのイメージを悪くしてしまうらしい。
馬鹿はそれだけ厄介という事のようだ。
「悪い奴っていうのはそれだけ目立つからな、一人の馬鹿は他のまともの印象も悪くする」
「厄介ねぇ」
「結局そういうものなんですよ、馬鹿が目立つほど組織のイメージに繋がってしまう」
「もちろん中の人達は馬鹿ではない、ただ馬鹿の影響力は侮れないという事か」
「そんな事があるものなんですか」
ヘルムート曰く対応を誤って印象を悪くするケースを思い浮かべればいいという。
馬鹿への対処で大体は分かると言いたいのか。
結局馬鹿一人粛清出来ないような組織は対応力が低いのだろう。
イメージを悪くしないためにはきちんとした対応が求められるらしい。
「国でも飲食店でもそうだが、馬鹿っていうのは付ける薬がないもんだぞ」
「辛辣ですね」
「よく馬鹿は死ななきゃ治らないと言いますが、犠牲が出てはじめてなんでしょうね」
「それだけ馬鹿は厄介という事か」
「なんでそんな馬鹿ってどこにでもいるもんなの?」
結局は何もしないというのはなめられていると相手に思わせる。
きちんとした対応をして粛々と断罪してやるのが一番の慈悲だとも。
それこそ裁判ぐらいしてやらないとそういう奴は分からないのだろう。
ヘルムートも洵も可視化されている現代の方が馬鹿には効くと思っている。
「少なくとも昔ならそういう馬鹿がいても表に出ないまま消えてただろうな」
「やっぱりいたのね、馬鹿って」
「犠牲を出すぐらいの事をして、やっと馬鹿に伝わるって凄い発想だな」
「差別と言われるかもしれませんが、馬鹿というのはそういう生き物なんですよ」
「洵さんが珍しく辛辣ですね」
ヘルムートも洵もそういう人を見た事があるからなのだろう。
少数の馬鹿が多くのまともの印象までも悪くする。
そんな事をしているという事らしい。
組織とは難しいものである。
「なんにしても馬鹿は昔からいた、こいつ大丈夫かと思う奴は普通にいる」
「そしてそんな馬鹿のせいでまともな人が割りを食うと」
「波風立たせてでも対応しないと悪いイメージに繋がる、だな」
「ええ、世間がそういうイメージになってしまいますしね」
「一度ついた悪評は簡単には消えない、世の中って怖いわね」
ヘルムートも洵も知っているのだろう。
馬鹿の行動一つで大打撃を被る事を。
可視化された時代だからこそ波風を立てでも毅然としなくてはいけないのかもしれない。




