チョコレートはほろ苦く
いつものように店で仕事をしつつ暮らしているヘルムート達。
そんな中アルがヘルムートに一つ尋ねてくる。
それは東の国の風習の話。
西の国とは違うようではあるので訊いてきたようだが。
「ねえ、ヘルムート、チョコ欲しい?」
「なんだ、突然、ああ、そういう事か」
「東の国ではバレンタインにチョコを贈るんだろう?」
「そうなの?変わってるのね」
つまりはそういう事である。
メアはそれについて不思議に思っているようで。
「何を話しているのかしら」
「リヒアか、バレンタインについてな」
「東の国ではチョコレートを贈るらしいのよ」
「一応お世話になってるしね、気持ちぐらいは、まあ」
「アルも一応そういう事は考えているんだな」
アルも素直になれない年頃であるのは確かだろう。
とはいえ恩義は感じているので、気持ちは示しているようだ。
ヘルムートもそれについては一応返事はしておく。
好みなんかについても教えておいた方がいいとは思っているようだ。
「甘いものは嫌いではないな、ただチョコレートはビター派だ」
「そう、だとしたら…うーん」
「僕が良質なココアバターとか売ってる店を教えてやろうか?」
「ソルベにやらせるとカカオ豆から始めそうだから困るのよね」
「こだわりとか強いものね、そんなお店をどこで見つけてくるのか知りたいけれど」
メアもソルベのこだわりについては分かっている様子。
本当にそこからやりかねないのが困るところではあるのだが。
「アルはヘルムートにチョコレートをあげるの?」
「東の国の風習に合わせるとそうなんでしょ?」
「一応言っておくが、東の国のバレンタインはお菓子会社がチョコを売りたいだけだぞ」
「でもチョコレートは冬に食べるものよ、夏だと溶けるもの」
「そうなんだがな、だが僕は市販のチョコを溶かして固め直したものをチョコとは認めん」
ソルベも今やすっかり料理に対する並々ならぬこだわりがある。
ここに来た当初の壊滅的な料理の腕は今やプロにも負けないぐらいになっている。
ソルベなら本当にカカオ豆から調達しそうな勢いなのが困るところではある。
しかもそれを売っている店も知っているっぽいのがその凄さを感じさせる。
「チョコを作るなら良質なココアバターやカカオマスを買いに行かないとな」
「ソルベって割とガチ勢よね」
「上達が恐ろしく早いからな、そのうちウエディングケーキでも作りそうだ」
「それでヘルムートにあげるの?」
「私は甘いものはそんな得意じゃないし、辛党だから力になれないわよ」
ソルベの事は置いておくとして、アルも一応感謝の気持ちはあるのは確かだ。
不器用ながらも気持ちは示したいのだろう。
そんなアルを見るリヒアはすっかりお姉さんの目になっている。
ヘルムートも一応答えてはおく事に。
「別に無理にとは言わんが、くれるならもらうさ、気持ちを無駄にするほど馬鹿でもない」
「そう、なら期待してなさいよ、ソルベ、教えなさい」
「分かった、ではカカオマスやココアバターを買いに行くぞ」
「違うでしょ、でもそれはそれでいいのかしらね」
「アルも不器用だし素直になれないけど、根っこは本当にいい子よね」
そんなバレンタインについてはソルベのガチっぷりとアルの不器用さが面白い。
リヒアもそれを見て不思議と笑みが溢れる。
それは暗殺を生業にしていた時にはなかった表情だ。
リヒアも確かに、そして確実に変わりつつあるのだと伝わる。
「最高のチョコを作るぞ、いいな」
「ソルベ、あんたガチすぎてたまに怖いわよ」
「ふふっ、なんか素敵よね、こういうの」
「リヒアもそんな顔をするんだな」
「少し表情も緩くなってきてるのかしらね」
そんなリヒアの変化を感じつつもアルのバレンタインはガチになりそうな気がした。
ソルベの知っている店で本当にカカオマスやココアバターを買ったのも事実。
国の腐敗を見続けどこか荒んでいたヘルムートも自然と変わっているのだろう。