鍵を開ける
すっかりいつもの暮らしに戻っているヘルムート達。
そんな中ゾールが何やら頼み事にやってきた様子。
鍵がかかっていて鍵は紛失した謎の箱。
預かり物らしいが、それを開けられないかとの事らしい。
「どうだい、開きそうかい」
「一応やってるが、ワシは鍵屋じゃないからな」
「でもこの箱なんなのよ、預かり物とはいえなんで鍵を紛失してるのよ」
「中身は気になりますよね、何が入ってるんでしょう」
ヘルムートが鍵に悪戦苦闘しているところにリヒアが戻ってくる。
リヒアもその様子を見て声をかける。
「何してるの?その箱は何かしら」
「リヒアか、ゾールの奴が持ってきたんだが、ワシには開けられそうになくてな」
「中身は気になるのよね」
「でも鍵がないんですよ」
「流石にヘルムートでも無理かと思ってね」
それを見たリヒアは貸してみろという。
リヒアにそれを開けられるのか。
とりあえずやってみる事に。
その箱の中身は気になるところではある。
「ふむ、これなら…ここをこうして…こうね、開いたわよ」
「あっさり開けたわね…」
「リヒアは凄いね、そんな簡単に開くものなのか」
「それで中身はなんなの?」
「それで来たんだからな」
とりあえず箱の中を確認してみる。
箱の中には一本の万年筆が入っていた。
かなりボロボロなので年季が入っていると思われる。
そもそもこの箱はどうしたのか。
ゾールの話では客が家で見つけたものの開けられなくて困っていたらしい。
それでゾールに相談してきたというのが経緯のようだ。
「年季の入った万年筆だな、見る限り30年は前の代物だぞ?」
「この箱ってお客さんが持ってきたのよね?」
「ああ、無理ならいいが開けられないかと」
「もしかしてそのお客さんの家族のものとか?」
「これだけ厳重に保管されてるのを見るとそう思うわね」
わざわざ鍵付きの箱に入れられていた古い万年筆。
ゾールは一応そのお客に報告はするという。
とはいえヘルムートもやはり気になる様子。
この箱に入っていた古い万年筆にはやはり何かあるのか。
「でもリヒアって鍵まで開けられたのね」
「一応元暗殺者だもの、ターゲットを仕留めに行くのに使ったりしてたのよ」
「そりゃ窓を壊して仕留めに行ったりはしないだろうね」
「時には大胆に扉から暗殺に行くという事か」
「そういうやり方もあるんですね」
とはいえそんなリヒアも逃亡の末にここに辿り着いた。
今では魔界も変わってしまっているだろう。
ゾールとリヒア、二人の魔族が知る魔界は違うものなのだろう。
今を謳歌するゾールと過去に生きるリヒアはある意味対極である。
「なんにしてもこれは大切なものなんだろうな、そうでなければこんな箱には入れんぞ」
「ですね、それに鍵なんてかけませんよ」
「それに見る限り明らかにお高い万年筆だ、つまり高級品だよ、こいつは」
「贈り物とかかしら、これ」
「可能性はありそうね、大切なものだとしたら」
そんな理由がありそうな万年筆。
とはいえこれはその客にきちんと返すという。
売り物として持ってきたわけでもなさそうというのが理由らしい。
ゾールも人は意外といいようだ。
「それにしても万年筆か、やはりいい万年筆はよく書けるものだな」
「そこは安かろう悪かろうさ、高級品っていうのは品質を買うものだからね」
「商人らしいわね」
「でも品質ってそういうものよね」
「高級品は安心や安全を買う、ですね」
そうして開かなかった箱はリヒアが簡単に開けてしまった。
中身は古びた万年筆。
人の歴史なども箱にはあるものなのです。




