人生のやり直し
正月もすっかり明けていつもの日々に戻った。
そんな今日もいつもと変わらぬ暮らしを送る。
アルは今日もヘルムートにいろいろ訊いている様子。
何を訊いているのかといえば。
「ねえ、ヘルムート、人生のやり直しって出来ると思う?」
「なんだ、突然、人生のやり直しな」
「アルさんは相変わらずですね」
「そうだな、それがアルらしさだが」
アルが聞きたいのは人生のやり直しについて。
それは生まれ変わるとかそういう意味ではないようだが。
「何か面白そうな話をしてるわね」
「あら、せっかくだから話に混ざる?」
「それで人生のやり直しという事だったな、ワシは出来ると思っているぞ」
「私もそれには同意します、やり直しは出来ますよ」
「大人二人が言うなら出来るんだろうな」
ヘルムートも洵もそれは出来るという。
その理由についても訊いてみる。
「やり直しって例えばどんな風に?」
「そうだな、分かりやすく言うとリセットは出来ない、だがコンティニューは出来る、だ」
「つまりなかった事には出来ないけどやり直しは出来る、そういう事ね」
「ええ、人生におけるコンティニューは出来るものですよ、それが人生です」
「コンティニューという事は途中からやり直しか」
ヘルムートと洵の言うコンティニュー。
それはリトライという意味でもあるだろう。
一度レールから外れると戻るのは難しいが、戻る事は出来て当然。
挑戦に遅いという事はない、そういう意味でもある。
「確かにヘルムートもお爺ちゃんになってからこのお店始めたものね」
「そうだな、だから人生においてコンティニューはあるんだ、これは当然の権利だぞ」
「第二の人生とかそういう意味でもかしら」
「はい、リヒアさんもそんな感じだと思いますよ」
「コンティニュー、僕も若くはあるがコンティニューしたのかもな」
この家で暮らすメンツの大体はコンティニューしている。
新たな暮らしを始めた時点でそれはコンティニューなのだろう。
目標に向けてのスタートではなく、環境を捨てての出発。
それがコンティニューという事だろう。
それはメアもアルもベリンダもソルベもリヒアもそうだ。
今ここで暮らしているほとんどは新たな人生を歩んでいるのだから。
「人生におけるやり直し、それはリセットではなくコンティニューだ、いいな」
「ええ、覚えておくわ」
「ヘルムートさんもコンティニューしてますよね」
「元外交官で今は漬物屋、確かによね」
「だな、ヘルムート自身がそれを証明している」
コンティニュー、リスタート、そんな言葉が人生のやり直しなのだろう。
他にもリトライなどもそれに含まれるか。
人生やり直すのに遅いという事はないとヘルムートが証明している。
アルもそんな説明に今回は満足げだ。
「人生ってのはやり直すのに遅いという事はないんだ、欲ってのはいくつになってもある」
「その欲が行動原理って事だな」
「生き残れるのは賢い者ではなく変化を遂げられる者、それが人生なのよね」
「リヒアさんの言う通りですね、だからこそ人は成長し続けられるのです」
「洵の言う事もその通りよね、納得だわ」
ヘルムートも洵も結構な歳だ。
それでも今が楽しそうなのは第二の人生を満喫しているからだろう。
それは遅いという事はないという事の証明。
やはり人生においてコンティニューはあるという事である。
「第二の人生、それはどこでも出来るという事です」
「ここで暮らしてる連中は大体そうだからな」
「私もそんな感じね、拾ってもらった事が第二の人生よ」
「コンティニューは人生における権利だ、覚えておけよ」
「ええ、そうするわ」
ヘルムートなりの持論だが、それでもアルは満足そうだ。
人生にリセットはないがコンティニューはある。
そんな言葉はここで暮らす者達の今でもある。




