集まり始める冒険者
街の拡張工事開始から一ヶ月以上が経過した。
職人達の腕が優秀なのか、建物などもどんどん出来ていく。
冒険者向けの酒場はすでに完成し、あとは冒険者向けの宿泊施設の完成を待つのみ。
そして街も元の街より六割程度の拡張が終わっていた。
「もう一ヶ月なのね、早いものだわ」
「にしてもアル、あんたの手腕には驚かされる、あっぱれだな」
「ですね、あの頑固そうな職人達を見事に手綱を握っているんですから」
「ふふん、伊達に帝王学を学んでないわよ」
帝王学、それは人の上に立つ者が学ぶと言われる学門。
だがその実態は意外と知られていないようで、中身を知る者は意外と聞かない。
「それで少し見にいってみる?」
「そうだな、酒場の方はすでに完成しているはずだったか」
「では護衛として私も同行しましょう、少女と老人だけでは不安ですから」
「言ってくれるな、ワシと一回りしか違わんくせに」
「私だってゴロツキ程度返り討ちに出来るぐらいには強いわよ」
そんなわけもあり完成した酒場へと移動する。
そこは無骨な作りながらも必要な設備は全て揃っていた。
そして若い冒険者向けにジュースなどもきちんと完備されている。
そうしていると客と思われる人が入ってきた。
「へぇ、国が冒険者向けの拠点作りって言うから見にきたけど、いい感じね」
「あなたもしかして冒険者?」
「そうよ、ファーネっていうの」
「ファーネさんですか、この美しい女性が冒険者とは」
「あたしもまだ冒険者歴三年だから、駆け出しだけどね」
そんなファーネは冒険者として学者などの護衛をしているらしい。
また必要とあれば隣の大陸などにも護衛としてついていく覚悟はあるそうな。
「でもいろんな人が集まるのね、今後が楽しみだわ」
「この酒場の開店はまだなの?」
「いや、開店はしている、ただマスターは今は裏にいるはずだ」
「そっか、ならもう少ししたら改めて利用しようかな」
「ええ、我々は他を見てきますので、ご贔屓に」
そうしてヘルムート達は店を出る。
店を出ると他にも十人程度の冒険者が街に来ているようだ。
「ふむ、なかなか…」
「そこのあなた、あなたも冒険者なの?」
「私か?そうだ、ナナーシェという」
「見た感じ騎士っぽいな、騎士だったりするのか?」
「正しくは元騎士だな、今は自由騎士という名目でやっている」
元騎士の冒険者とは凄い肩書である。
そんなナナーシェにも話を聞いてみる。
「元々は北隣のフラロウス大陸の方で騎士をしていてな、今はこうしている」
「フラロウスって軍事大国じゃない、そこの騎士って高給取りなのに」
「軍隊として民を守るのも悪くない、だが私にはこっちの方が合っているようでな」
「ふむ、つまりあえて薄給なこの道を、と」
「ああ、そうだ、おっと、もう少しルールを覚えねばならんから失礼するよ」
北の軍事大国の元騎士様までもが来ているという驚き。
やはりこの街の拠点化は大きな意味を持ちそうだ。
「あっ、あなたも冒険者なのかしら」
「俺か?そうだが、あんた達はここの関係者か?」
「都市開発の責任者だよ、あんたもここを拠点にするのか?」
「ああ、俺はマイク・ウッド、マイクでいいぞ」
「ふむ、まさに多国籍という感じになっていますね」
マイクも冒険者としては長いらしい。
そんな熟練のマイクでもこの国の拠点は嬉しいという。
「なんにしても仕事は契約の分だけこなすよ、必要とされればね」
「ははっ、頼もしいな」
「うん、俺も命を懸けてる以上働かないとな」
「なら頼むわよ、期待してるからね」
「ああ、任せろ」
そうして少しずつではあるが冒険者達がこの街に集まりつつある。
国の計画の方もこの様子なら成功と言えるだろうか。
腕利きの職人達による仕事の速さもあり、街はどんどん広がっていく。
ただし無尽蔵に受け入れられる事ではないときちんと理解させる事。
その上での拠点化が本格的に始まっていくのである。




