英雄の末路
リヒアもヘルムートの家の暮らしに馴染んできたいつもの日々。
アルも王族としての勉強をしつつリヒアやヘルムートにその言葉を聞く。
そんな今日もアルはヘルムートに質問をぶつける。
大人に訊くのはやはりいいものなのだろう。
「ねえ、ヘルムート、なんで善人ってみんな早死にするの?」
「またそういう事を訊くのか」
「僕としても気になる話ではある、歴史上でも英雄は先に死ぬ事が多いしな」
「それなら私もある程度の考えは持ってるけど」
アルが言いたいのは善人の多くはなぜ早くに亡くなるのかという事。
ソルベも歴史が好きなので、そういう事には触れているようで。
「ただいま」
「む?メアか、おかえり」
「それより教えてよ」
「僕としてもそれは世の中の不思議ではあるんだ」
「それはたぶん英雄は恐れられるから、そんな感じじゃないの?」
リヒアの言う英雄は恐れられる、その言葉はヘルムートもなんとなくは分かる。
英雄とは対立する勢力からすれば憎むべき敵なのだ。
自分達から奪ってしまった、そんな憎悪を燃やすものだろう。
それだけでなく民衆からも恐れられるのが英雄だ。
「英雄ってのは恐れられるもんだ、創作の世界で英雄の末路まで描かれた作品を読め」
「つまり何が言いたいの?」
「魔王を倒せるような勇者が恐れられないわけがない、そうよね?」
「なんでよ、国を救ってくれた英雄を追放するっていうの?」
「だが分からなくはないな、僕の国の王になった人間の多くは最期は辺境の村で死んでる」
ヘルムートが言いたいのは力を持つというのは同時に恐れられる存在という事だ。
善人が早くに亡くなるのは、そんな力を恐れるからではないか。
そしてそれを憎む相手に謀殺される事もなくはないという。
善行を成すというのは同時に多くの敵を作る事でもある、そういう事らしい。
「結局は正しい事をしようとすると敵は自然と多くなるの、それと戦うのが善行よね」
「なんで正しい事が嫌われるの?犯罪を肯定するの?」
「そうだな、僕の国の話だが悪い事っていうのは善行よりも金になるんだ」
「ソルベの言う事も間違いではないな、英雄の末路が悲惨なのは正しさ故に嫌われたからだ」
「正しい人が嫌われる世の中なんておかしくない?」
ヘルムートが言うには清貧なんてものは都合のいいまやかしでしかないという。
リヒアも幼い頃は貧しかったらしく、貧しい人達は多くが犯罪に手を染めていたという。
ヘルムートは国で仕事をしていた時も裕福だからこその余裕を見せる人を多く見ていた。
人はケチに走った時点で堕落してしまうのだとリヒアもヘルムートも言う。
「会社なんかでも人件費を削った会社は落ちるだけだ、裕福というのは余裕なんだよ」
「でも貧富の差は選べないし、どうにか出来るものでもないわよね」
「僕もそれは思う、僕は王族だから余裕があるのだと自分でも思ってるからな」
「でも私が幼い時に見たのは清貧とは真逆の世界、全部とは言わないけどね」
「なら国民にお金を配れば幸せになるって言いたいの?」
ヘルムートが言うには貧民に現金を配ってもどうせ貯金になるだけだと言う。
リヒアはお金は使ってはじめて価値があるものなのだと言う。
使わずに溜め込まれたお金は紙クズと変わらないとも考えている。
経済とはそういうものだし、お金は循環させるものだとも知っている。
「結局善行を成すにも金がいるんだ、それが裕福な人間だから嫌われるのさ」
「世の中お金持ちが嫌われるのは現実でも創作でも変わらないのね」
「それが善人の多くが早死にする理由か、正しさ故に敵を多く作り嫌われると」
「そういう事、全部がそうとは言わないけどね」
「やっぱり世の中は理不尽だわ、正しいから嫌われる、悲しいものね」
ヘルムートやリヒアが見た世界はそんな世界だった。
それはその目で見た真実であり現実。
英雄は正しさ故に嫌われる、それは力を恐れ英雄はそれを奪うからなのかもしれない。




