若さの秘密
リヒアが暮らし始めてからしばらく。
少しは馴染んできたようだが、まだどうにも固さがある。
そんな中洵も相変わらず東の国の食べ物を布教している様子。
アルやソルベもそれに興味を示したようで。
「ねえ、洵、前から気になってたんだけどその飲んでるやつなんなの」
「それは僕も思っていた、なんか緑色の液体のようだが」
「そいつは青汁だろ、洵は好きだからな」
「ええ、一日一杯飲むようにしています」
洵が普段から飲んでいる青汁。
それは東の国では比較的ポピュラーな飲み物らしい。
「すまない、補充するものはどこに…何をしているの?」
「ん?リヒアか、洵の青汁についてな」
「なんでも健康にいいんですって」
「リヒアさんも飲みますか?」
「美味しそうには見えないけどな」
洵が言うには牛乳などで溶いてもいいらしい。
水で溶いた場合苦味も強いので、好みでいいらしい。
とりあえず各自好みで飲んでみる事にした。
アルは苦いものは苦手らしいので、牛乳で溶いて飲む事に。
「…苦いわね、でも牛乳で溶いてるだけマシなのかしら」
「そりゃ簡単に言ってしまえば野菜汁だからな」
「野菜なの?これ」
「ええ、ケールが主原料です」
「だが良薬口に苦しというのだろう?健康にいいならそんなものではないか?」
ソルベの言う事もあながち間違いではない。
ヘルムートも今まで仕事で様々なものを食べているが、美味しいものは大体塩気が強かった。
良薬口に苦し、健康食品なんてそんなものだとヘルムートは分かっている。
健康にいいと言われたものが美味しかった試しはほとんどないらしい。
「野菜汁だから野菜の苦味も強いのね」
「そうだな、青汁ってのは基本的には苦い飲み物だぞ」
「僕としてもヘルムートに同意する、料理を作る際も塩や油が多くなるしな」
「美味しいものは基本的に健康にはよろしくないですよ、人の味覚なんてそんなものです」
「洵ですらそんな事言うなんてね、東の国の食べ物は健康的なんじゃないの?」
そこで洵が一つサンプルを言ってみる。
それは東の国ではよく食べられているという朝食のメニューだ。
「白米、焼鮭、味噌汁、納豆、それに醤油…味噌汁の具材は豆腐とか油揚げ…」
「大豆と塩分の割合が酷いな」
「これが美味しいと言われるわけです、東の国は元々塩分摂取量が多いんですよ」
「だからワシとしても至った結論は健康に悪いものは美味いという事だな」
「その結論に至ったくせにバリバリの健康体よね、ヘルムート」
洵も青汁を健康目的で飲んでいるわけではないようだ。
青汁は栄養価が豊富なので、そっちが主な目的らしい。
アルもヘルムートや洵の健康体を見ると健康なんか気にしなくても長生き出来るのかと思う。
寧ろ好きなものを好きなだけ食べた方が長生き出来るのではとすら思っていた。
「私としても青汁を飲んだ程度で健康になれるとは思っていませんよ」
「それはそうだけどね、でも健康食品だけ食べても健康にはなれないんじゃない?」
「食というのはバランスだからな、ダイエットだって食事を減らしただけでは意味がない」
「健康の話は難しいものね」
「ヘルムートの言う事も間違いではないな、なんにせよ人の味覚はそんなものだと思う」
ソルベもそれは思っているようだ。
料理上手になった身としては美味しいと感じるものは油や塩が多くなるらしい。
食材を選ぶにしても塩分カットなどの調味料は選ばなくなったという。
美味しいものは大体高カロリーという結論なのか。
「それよりぶぶ漬けが切れてるから補充したかったんだけど」
「それなら今持ってくる、少し待ってろ」
「ヘルムートですら結論に至っていたとはな」
「美味しいものは体によくないもの、それが真理なんでしょうね」
「若さの秘密が分かった気がするわね」
健康の秘訣は好きなものを食べる事。
そんな結論に至ったのもアル達は複雑な感じに見ていた。
健康食品は健康より栄養価を目的に摂取しているのもそんな秘密なのか。




