逃亡者の今後
リヒアを保護してからしばらく。
少しはここの暮らしにも慣れたようで、体調も落ち着いている。
今後についても考えねばならない事もありそれについても少し考えていた。
とはいえアルはリヒアからいろいろ聞いているようで。
「そんなに訊かれても、一度には答えられないぞ」
「でも気になるのよ、魔界って交流が途絶えて長いじゃない」
「アルも興味はあるんだな」
「みたいですね、姫様は好奇心は旺盛ですから」
そんなアルの質問攻めに少し戸惑いもある様子。
とりあえずアルを落ち着かせる事に。
「だが20年も逃げていたというのは驚くしかないな、どうやって生きていたんだ?」
「サバイバルの知識はある、それで食べられるものを食べつつ山などに潜んでいた」
「そこはアサシン特有の能力って事なのかしら」
「生存術ですね、知識があれば意外と死なないのかもしれません」
「おや、もう体調はいいのですか?」
そこに子供達に剣を教えていた洵が戻ってくる。
そんな洵もリヒアの事については少し気になっているようで。
「リヒアさんはなぜ逃げたのですか?任務放棄という感じもしませんが」
「私の主に生き延びろと言われた、それでこっちの世界に逃げてきたんだ」
「それで今後はどうするんだ?うちで暮らすのはワシは構わんが」
「うーん、嘘は言ってないみたいだしそれは問題ないんじゃない?」
「そもそも20年も逃げてたのなら仮に仕事があっても対象が変わってそうですよね」
20年の逃亡生活、それは恐らく本当だろう。
つまりこちらの世界の誰かを暗殺せよという命令などは受けていない。
そもそもそれを受けていたらもっとマシな嘘を言うだろう。
ヘルムートも自分がリヒアの立場ならこう言う、そんな考えから嘘ではないと感じていた。
「リヒアさんはもう廃業でいいんじゃないですか?」
「しかし…私はそれしか取り柄がないからな」
「料理とかは不得手のようだからな、20年のブランクだろう」
「現代の機械とかは使い慣れないようですしね」
「意外と不器用よね、それしか知らずに生きてきたって感じ」
それでも暗殺者を続ける理由もあるとは思えない。
アルが懐いているという事もあり、少なくとも悪人でない事は確認している。
それに放っておいたら勝手に姿を消しそうでもある。
面倒になるのも嫌なのでとりあえずここで暮らすかもう一度訊く。
「それでここで暮らしませんか?もちろん無理矢理にとは言いません」
「私はあなたからいろいろ聞きたいのよ」
「…どうせ帰る場所などない、それに死ぬつもりもない、迷惑でないのなら」
「決まりだな、とりあえず何か仕事でも見つけてやらんとな」
「でもここ最近の不器用さを見てると何かいい仕事ってあるんですか?」
ベリンダの言う事も尤もではある。
家事などは不得手で対人関係もどうにも不器用なところがある。
人と接する事にも慣れさせないとならないが、それはじっくりである。
接客にしても裏方にしても適職がなかなか浮かばないものだ。
「とりあえずゆっくり考えればいいわよ、急がば回れってやつよね」
「だな、焦らずに慣れさせていくしかあるまい」
「すまない、人と接するのは昔から苦手でな」
「うーん…何かいい仕事とかないですかね」
「難しいものですね、特技とかそういうものも見せてもらってからでしょうか」
とりあえずリヒアの特技などを見せてもらってから考える事にした。
不器用な彼女に向いているものは何か。
その日の夜はみんなでそれを考えていたのだった。




