謎の行き倒れ
ソルベの問題が片付いてからしばらく。
ヘルムート達も元の暮らしに戻り、ソルベはすっかり居着いてしまった。
そんな日に店の前で衰弱した女性を見つける。
何か面倒な事が起きなければいいが。
「おい、ヘルムート、店の前で行き倒れてる奴がいたから運んだんだが」
「行き倒れだと?その背中の奴か」
「まーた何か起きそうな気がするわね、とりあえず木花を呼んだら?」
「そうだな、二階にいるはずだから呼んできてくれ」
そうしてソルベが木花を呼んでくる。
行き倒れの女性の様子を見て、とりあえずは看病をする事に。
「しかしこいつはなんなんだ?浮浪者にも見えんが」
「命に別状はなさそうです、ただ衰弱していますね」
「小刀を持ってるわね、つまり密偵とかそんな感じかしら?」
「それに真っ黒なコートか、闇に溶け込むには最適な服装だぞ」
「う、ここは…」
どうやら目を覚ました様子。
とりあえず話を聞いてみる事に。
「お前、店の前で倒れてたんだぞ、そんなに衰弱するなんて何があったんだ?」
「お水です、とりあえず飲んで落ち着いてください」
「私は…あなた達は…んっ、はぁ」
「それにしてもなんで行き倒れ?」
「事情とかは話せるか?」
水を飲んで落ち着いた様子。
話せる範囲で話す事になった。
「私は…逃げてきたの、魔界で戦争があって所属する国が負けて…」
「魔界って、つまりあなた魔族なの?」
「だが戦争で負けて逃げたという事は兵士か?」
「いや、来ていた服などからして恐らく密偵や暗殺者の類だろうな」
「ええ、あんな真っ黒な服を着るとしたら闇に紛れる職業ですよ」
彼女は魔界の戦争で国が負けて逃げてきた、つまり亡国の生き残りという事になる。
追っ手は来ていないようだが、その様子からして長らく逃亡生活をしていたのだろう。
「それでどうするの?うちでなんとかするにしても追っ手の危険とかあるでしょ」
「いや、それは恐らく平気だ、ここまで逃げても体に傷がない、つまり戦闘はしていない」
「名前とか分かりますか」
「リヒア…リヒア=ムント」
「リヒアか、僕が作ったケーキならあるが食べるか?」
リヒアは警戒はしている様子。
とはいえヘルムートの推測通り追っ手はいないと見ていい。
木花も何か食べるかと訊く。
リヒアは辛いものが食べたいと答えた。
とりあえず木花が冷蔵庫にあったご飯を使ってチゲスープのお粥を作ってくる。
それを食べてもらう事に。
「どうですか?」
「ん、美味しい…まともな食事なんて20年ぶりぐらいね」
「は?20年?そんな逃げてたのか」
「20年も逃げ続けるって、どんだけなの」
「追っ手がいないのも当然だな、それだけ逃げてたら相手も諦める」
とりあえず今後について考える。
彼女を保護するのか、少なくとも追っ手の心配はなさそうなので平気だとは思うが。
「それでどうしますか?ヘルムートさんに従うので」
「そうだな、とりあえずうちで暮らすか?お前さえいいならだが」
「ええ…でも迷惑になるかもしれない…」
「そんなの気にしなくていいわよ、今までもそういうのあったもの」
「なんで僕を見る、だがヘルムートはそう言っているんだ、お前が決めろ」
リヒアは少し間を置いて、ここで世話になるという。
話はまとまったが、それはそうと今は回復させてやる事が先である。
「とりあえず今は休んでください、食べたいものとかあれば作りますから」
「すまない、とりあえず世話になる、よろしく頼むわね」
「さて、ならまずは体力つけなきゃね、お肉かしら?」
「アルって意外と脳筋なところがあるよな」
「これでも頭はいいんだがな、とりあえずあとは帰ったら話すか」
そんなわけで行き倒れていたリヒアという女性を保護した。
20年逃げていたという彼女の事は気になるものの、問題はなさそうだ。
魔界の話も聞いてみたいとは思うアルでもあった。