表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ボール

作者: 狭山茶太朗

キーン


鋭い金属音が響く。


小さな白い球が、空へと舞いあがり…雲にとけこむ。

そして白球がだんだんと大きくなり、僕の後ろにポトリと落ちた。


緑色の芝生を転がるボール、慌てて走って追いかける。そして捕まえた頃には、ランナーは三塁へ向かっているのが見えた、僕は急いでショートへ送球する。


走者一掃のスリーベースヒット。


僕のいる小松馬場高校硬式野球部は、ここ十年近く公式戦で勝った事がない。


そんな弱小野球部の僕らは、夏の県大会予選で昨年の優勝校・聖教学園とあたってしまった。


試合は下馬評通りに、聖教の攻勢で進んだ。一回表に立ち上がりからワンアウトもとれずに10-0。

その後もひたすら打たれて、今は四回表。スコアは53-0。もう嫌だ。早く、早く終わってくれ。


そんな僕の願いを打ち砕くヒットがライトに飛ぶ。僕ら外野は走ってばかり。これじゃあ公開ノックだ。

結局ツーベースヒット。54-0。どこまで広がるんだろう。



「ボール」

審判のコールが耳に響く。

54-0

という屈辱的なスコアでも、あいつはマウンドからおりない。


部員11名しかいないウチの野球部に、控え投手はいない。

「まぁ…仮に控えがいても、アイツは替わらないだろうがな」


あいつは、球は遅い、球種は少ない、フォームはバラバラ。だけどウチ唯一のサウスポー。


「ボール。フォアボール。」

肩で息をしている。

さっきからストライクが入らない。


それでも、アイツは投げ続ける。正直、誰が投げても打たれるんだから、替わればいいとは思う。


だけど絶対に譲らない。

俺はそんなアイツにサインを出す。ストライクになってくれと願いながら…



あの夏の暑い日。

照りつける太陽。

セミの鳴き声。

ボールがミットにおさまる音と金属音。

様々な歓声と吹奏楽の演奏。



僕らはあの日結局71-0で初戦敗退した。


あれから三年がたった。

あの時のメンバーは、みんなバラバラになったし、みんな野球を辞めた。


それでも僕は、野球を続けている。大学の野球部では控えだけれど、あの日以来試合に出れないけれど、それでも僕は…


今日も白球をおいつづける。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 変わったお話で面白いと思います。
[一言] ストーリーのアイディアと内容はいいと思います。 その中で、ちょっと“??”という部分があります。 “僕”と“俺”は同一人物ではないのですか? “僕”は外野手。ピッチャーにサインを出している“…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ