ボール
キーン
鋭い金属音が響く。
小さな白い球が、空へと舞いあがり…雲にとけこむ。
そして白球がだんだんと大きくなり、僕の後ろにポトリと落ちた。
緑色の芝生を転がるボール、慌てて走って追いかける。そして捕まえた頃には、ランナーは三塁へ向かっているのが見えた、僕は急いでショートへ送球する。
走者一掃のスリーベースヒット。
僕のいる小松馬場高校硬式野球部は、ここ十年近く公式戦で勝った事がない。
そんな弱小野球部の僕らは、夏の県大会予選で昨年の優勝校・聖教学園とあたってしまった。
試合は下馬評通りに、聖教の攻勢で進んだ。一回表に立ち上がりからワンアウトもとれずに10-0。
その後もひたすら打たれて、今は四回表。スコアは53-0。もう嫌だ。早く、早く終わってくれ。
そんな僕の願いを打ち砕くヒットがライトに飛ぶ。僕ら外野は走ってばかり。これじゃあ公開ノックだ。
結局ツーベースヒット。54-0。どこまで広がるんだろう。
「ボール」
審判のコールが耳に響く。
54-0
という屈辱的なスコアでも、あいつはマウンドからおりない。
部員11名しかいないウチの野球部に、控え投手はいない。
「まぁ…仮に控えがいても、アイツは替わらないだろうがな」
あいつは、球は遅い、球種は少ない、フォームはバラバラ。だけどウチ唯一のサウスポー。
「ボール。フォアボール。」
肩で息をしている。
さっきからストライクが入らない。
それでも、アイツは投げ続ける。正直、誰が投げても打たれるんだから、替わればいいとは思う。
だけど絶対に譲らない。
俺はそんなアイツにサインを出す。ストライクになってくれと願いながら…
あの夏の暑い日。
照りつける太陽。
セミの鳴き声。
ボールがミットにおさまる音と金属音。
様々な歓声と吹奏楽の演奏。
僕らはあの日結局71-0で初戦敗退した。
あれから三年がたった。
あの時のメンバーは、みんなバラバラになったし、みんな野球を辞めた。
それでも僕は、野球を続けている。大学の野球部では控えだけれど、あの日以来試合に出れないけれど、それでも僕は…
今日も白球をおいつづける。