伽藍洞の街(1)
趣味で書き始めました。
「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・キモイ主人公。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。
茜色に侵されつつある交差点に、人の渦が出来ていた。
集まった人々は老若男女問わず、一様に薄汚れた衣服と疲れた顔を身に纏っている。
彼らの中心にいるのは、若い母子を背中に乗せた、羊頭の獣。悪罵を暁が正面から打ち返し、騒ぎが膨れ上がってしまった。
この街で一般人が暮らす場合、最も重視されるのは安全である事。
如何なる悪党であろうと、己の生命を保護してくれるなら、そのものは跪くに値する。
封鎖の外に逃げればいいのだが、生活再建の当てがないとか、同行してくれる異能者を見つけられない等といった理由で、名古屋に残る一般人は殊の外多かった。
政府も救助の手を回してはいるが、愛知県全域に出現する怪物と、五本の柱が形成する障壁に阻まれ、名古屋市内への侵入は上手くいかない。
ここに集まっているのは、つまりボスに養われていた人々。
彼とその配下に搾取されていた女性達や少年は暁の肩を持ち、身内が被害に遭っていない者は暁を糾弾する。
道隆は交差点が見通せる駐車場前から、群衆を眺めていた。ざっと数万規模の人が集まるイベントを、彼は初めて見た。
(めちゃめちゃ揉めてる。帰ろ)
彼らが責められていようと、自分には関係ない。
3人以外の全員を吹っ飛ばせばスッキリ解決すると思うが。帰ろうとした道隆のすぐ後ろで声がした。
集まりつつあった住人の三人組が、3名と話し込んでいた彼の顔を見ていたのだ。
掴みかかってきた男の腕を掴み、空き缶のように投げ飛ばしてしまう――交差点に向かって。
その場にいた全員の視線が、道隆に集まる。
道隆は視線から逃れるように、暁たちの傍によった。厄介な展開になったが、背中を向けられる状況ではない。
こいつらを追い出して、この騒ぎを終わらせよう。殺すのは止した方がいいかな――牧野親子の目を思い出す。
「アンタら人に文句ばっか言って、脱出するなり、守りを固めるなり、自分でどうにかしようって気は無いの?」
杏子が文句ばかりの住人を詰ると、群衆は更に言葉を荒げた。
このような修羅の街で生きていたくは無いが、出ていくのも怖い。異能者、化け物……そんなものさえ出てこなければ、自分達は平穏に暮らせたのに。
「どうしようって、こんなもんどうにもなるか!!」
「子供が異能者だからって、偉そうにするな!!」
「お前らが追い出したんだから、お前らが何とかしろよ!」
道隆にも、彼らの言い分が理解できた。
要するに彼らは、面倒を見て欲しいのだ。自分の代わりに考えてくれる頭を置きたい。
感情的か、理性的かといった差はあれど、根にあるものは変わらない。一般人では、この事態に対処する事は不可能。
はやばやと諦めた彼らは、自分の代わりに考えてくれる頭を求めたのだ。
道隆は急激にフラストレーションが溜まっていくのを感じた。
こんな連中と顔を合わせて生きていたくない。名古屋崩壊前ならともかく、無償で面倒見てやる謂れはない。
一度深く息を吸い、気持ちを固めて口を開く。無理やりにでも集まっている連中を追い出す。飛蝗頭にプランを示すと、可能だろうと返事が来た。
「あのー!」
声を張り上げると、辺りは水を打ったように静かになった。
群衆はこの時まで、道隆に全くと言っていいほど、関心を向けていなかった。
何を言い出すのだろう?全員が注目する。道隆の胸が緊張で裂けそうになるが、ここで引いてはダメだ。
「もし良かったら、封鎖の傍まで送るけど…」
群衆の声が一段階、大きくなる。
疑いの声が弾幕のように浴びせられ、道隆は内心怯む。肩を縮めた道隆の隣で、3人が目を瞠った。
あまりにも都合がいい提案に訝る3名だが、初対面の時に経験したテレポートに思い至ると納得した。
(そういや、最初いきなり川に飛ばされた…)
道隆が希望者を募り、大曾根四丁目交差点まで南下。
暁達の側に残った3名は、降って湧いた希望に縋る2万人強の群衆の背中を見送った。
道隆は煩わしい視線に耐えつつ、飛蝗頭に命じる。
(父上なら、放っておくものと思ったが)
自分だって関わりたくない。
だが暁達は街を出ていかないと思うし―出ていくならそれでいいが―この醜い連中を自由にしておいても、迷惑にしかなるまい。
苛立ちを堪えて、さっさと集落から追い出す事に決めた。もし此方にたかってくるようなら、二、三発小突いてやろう。
ありがとうございました。