鉄の騎士と復讐の拳(3)
趣味で書き始めました。
「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・キモイ主人公。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。
ギャング達が上名古屋に襲撃を掛けていた頃、道隆は足の向くままに歩いていた。
暇だからだ。年末の祭典まで、道隆は予定がない。
定まった職は無く、食うに困ってもいない。人材派遣ネットに顔を出す気も、今のところない。
(久しぶりに、行ったことのない場所まで行ってみようかな)
インドアな道隆だが、旅行は好きだ。
といっても、資金も時間もないので、これまでは長旅に出かけることはできなかった。
結界を維持するために県外には出られないが、県内だけでも出かける先はたくさんあるだろう。
「お兄さーん、どっか行くのー?」
「……」
媚びるような声に振り返ると、華奢な少年が近づいてくるところだった。
髪を耳に掛かるくらいに伸ばしており、目つきがやや鋭い。
夏に知り合った異能者の少年――前園浩紀は小狡そうな笑みを道隆に向けている。
その傍らには、巌のような大男が佇んでいる。
電柱を思わせる太い腕に、筋肉が影を作る。
いつか見た、褐色のスポーツ少年とは違う人物だ。
「ねぇー?」
「あー…散歩だな」
「散歩!ジジイみてーだな!」
浩紀はからりと笑った。
「そっちは何してんの」
「ボスからお呼び出し。一緒に行く?」
僅かに間をおいて、道隆は肯いた。
「おし。じゃー、行こうぜ」
二人は連れ立って、名古屋大学を目指した。
10mほど歩いた時、浩紀がごね始める。
道隆が「空間を無視する魔物」を召喚する。
「おぉー、いいじゃーん!乗せてくれんの?」
「あぁ」
浩紀はキャラメル色のクラシックカーを見ると、上機嫌になった。
曲線で構成された車体が可愛らしい。運転席には暗い色の詰襟を来た、白い顔の男が座っている。
2人が乗り込む。浩紀の使い魔も乗車しようとするが、入り口が狭い。
車の横でああでもない、こうでもない、と言わんばかりに体を上下させる。
「上に乗せれば…」
「えー、走って来させるからいーよ」
浩紀が言うと、大男は2人の前から走り去る。
道隆も己の使い魔に車を発進させるよう、命じた。
20分ほどして、2人は名古屋大学の東山キャンパスにやってきた。
およそ70万平方メートルの広大な敷地を運営するのは職員達と、在学生が組織したコミュニティ「名大学生会」である。
各学部が使用している施設は研究のほか、怪異への対抗手段を模索するために使用され、12月現在、キャンパスは一個の街と化していた。
道隆らがやってきたのは、名大附属図書館。
7月以前から変わることなく、外部に開放されている施設である。
館内の喫茶店。
グリーンを基調とした制服が、カウンターで若者達に応対している。
ここでは7月以前と同じ光景が展開されていた。
店を運営しているのは、名古屋大学と、喫茶店愛好家の集まり「人生を変える一杯」である。
オープンテラス席には三人の若い女が座っていた。
手を振るショートヘアの女は、原田夏姫。
無愛想なロングヘアの女が、貴嶋早苗。
黒髪にグリーンの瞳の、ハーフを思わせる少女が君原圭。
「あれ、全員集合?」
「違うけど、集まるのはこれで全員。早苗?」
道隆達も注文を終えると、近くの席に腰を下ろした。
周囲には、5人を遠巻きに眺める者がちらほら見受けられる。
分かる人間には分かる。全員が異能者であることを。
学校の関係者は良からぬ相談をしているのではないか、と気が気でない。
「気になる?」
「え、あぁ…動物園の動物みたいだなって」
「…確かにそんな感じね。この状況」
尋ねた早苗だが、気にした様子はない。
「で、なんか用?」
浩紀が口を開くと、夏姫が小声で説明を始める。道隆達は顔を寄せて聞く。
早苗が突き止めたところによると、港区で今夜、秘密の取引が行われるらしい。
彼女はやり取りされる品物に興味があり、現場に駆けつけたい。
場合によっては、品物を強奪することも在り得る。その協力を要請するため、浩紀にメッセージを送ったのだ。
それを聞いた男2人のリアクションは薄い。
浩紀は危険そうなので、道隆の返事を聞いてから参加するか否か、決めようと思った。
仮に参加してもリスクの方が大きい様なら、4人を置いて逃げる事も視野に入れている。
道隆は即座に了承。日時と待ち合わせ場所を、早苗達に訊ねた。
好んで仕事を入れない限り、年末まで身体は空いている。
「乗り気だね。本当に参加するの?」
「ああ」
戸惑ったような表情だった夏姫は、意外そうに道隆を見た。
自身の増長を自覚しつつ、道隆は肯く。
動機は物欲と好奇心。
怪しい取引でやり取りされる品物、有用な道具かもしれない。
無駄足だったとしても、一つ思い出になる。
「前園君はどうする?」
「えー、じゃー俺も」
浩紀は道隆をちらりと見てから、夏姫に言った。
「つーか、いいのかよ?こんなトコでこんな話してて」
「異能者に察知されたら、一大事でしょうね」
「おい」
「別に平気よ」
不安がる浩紀とは対照的に、早苗は少し楽しそうだ。
口の端がうっすらと吊り上がっている。
話し合うべきは話し終わったので、その場はお開きとなった。
浩紀はキャンパス入口で待たせていた使い魔を伴って、自宅に帰る。
途中で別れた道隆は帰宅の後、夜に備えて一眠りした。
ありがとうございました。