鉄の騎士と復讐の拳(2)
趣味で書き始めました。
「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・キモイ主人公。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。
昼過ぎの上名古屋地区。
住民たちは小学校やスーパーを中心に、集団生活を営んでいた。
異能者や体力のある若者が警備し、怪物や犯罪者に目を光らせる。
自宅で寝起きできないものは、簡素なバラックを立てて寝起きする。
僅かばかりの平穏は、爆音によって引き裂かれる。
雪崩れ込んでくる革ジャンの男達――レインボーズに対処するべく、区内の異能者が押し寄せる。
その中にいた髪をツーブロックにした赤いシャツの中年男――水瀬和幸は手にした弓を構える。
放った矢がギャングの頭部を穿つと、制御を失ったバイクが横転する。その傷口は膿んだように悪化し、不愉快な黄色の液が死体から広がる。
「来たぞォ!上っ!!」
和幸は顔を上げた時、強い既視感に襲われた。
空に浮かんでいたのは、下半身と両目を持たない、異形の天使。
天使は両腕を力強く掲げると、虹色の光弾を十数本出現させた。
(あれは…)
初見ではない。しかし、どこで見たのだったか。
和幸が答えを出すより早く、光弾は地上に放たれた。
それぞれの判断で避け、あるいは得物で払う。和幸は後退った。
正答は間もなく明らかになった。
光弾が着弾した路面が直径1m前後で霧散する。
接触した武器は溶けるように消え、不運にも杭で貫かれた住民は霧のように消滅した。
触れた物質を分解しているのだ。身を翻す隣の男を横目で見送った時、通りの向こうから歩いてくる青年を和幸は捉えた。
向こうも気づいたらしく、サングラスの青年はちょっとの間立ち止まった。
「久しぶりだなァ!!元気だったか!?オッサン!」
「?」
親しげに話しかけてくる。
「印象薄いのかな、俺って」
青年――梅崎康一は左手でサングラスを取ると、背後に放った。
「これでいいか、パーキングエリアで一緒に闘ったろうが?」
「お前…」
和幸は既知感の正体を知った。
悟り、慄いた。殺害したと思っていた男が、今目の前にいる。
この後の展開が容易に予想できる。
2人は夏の異変時、同じパーキングエリアで立てこもっていた。
トラブルで揉めた際、康一は和幸の手で右腕を切り落とされ、視覚を失った。
矢が放つ毒気に侵された眼窩には今、機械の眼球が収まっている。
「生きてたのか」
「生きてたぜ…お前に会いたかったからなぁ!」
康一の右腕があるべき空間に、ノイズが走る。
直後、装甲で覆われた巨大な義手が顕現した。
義手は左前腕並みに太く、重機のような手首は路面に接している。
パーキングエリアから逃げ出した康一は、何度となく死を覚悟した。
傷は翌朝には塞がったが、負った障害が彼の足を引っ張った。
近づくチンピラを四苦八苦して倒し、掴んだものを口に入れる日々。
盲目隻腕で3か月強過ごした時、康一は第3の能力を発現させたのだ。
それを見た瞬間、和幸は逃げ出した。
康一もそれを追う。重心がややずれているが、速度は和幸と同等以上。
和幸は振り返った時にそれを認め、弓から矢を放った。
義手で軽々と払われた矢は勢いを緩めること無く、康一を狙う。
走る和幸は名古屋高速清州線の下まで逃げる。
追いかける康一の周囲を矢が飛び回るが、その度に撃ち落とされる。
矢が身体を二週三週した時、康一は左手でシャフトを掴んだ。
鏃に触れていない為、毒気は効果を発揮しない。
「な!?」
矢を握りつぶした康一を見て、振り返った和幸は内心腰を抜かした。
鉄の右腕の装甲が展開され、砲身が露になる。康一は腰を落とすと、砲口を目の前の男に向けた。
砲口が朱色に輝き、拳大の熱弾が撃ちだされる。熱弾は轟音を響かせて、家屋の壁を貫いていく。
枇杷島地区まで飛んでいった赤熱球を、和幸は横っ飛びで躱す。
すれ違った瞬間に衣服や毛髪が発火し、胸部の皮膚が黒く焦げた。
和幸が熱と痛みに悶えている間に、康一は距離を詰める。
猟犬のように近づいた康一は、応報の鉄槌を振り下ろした。
火に巻かれた和幸は斧を取り出して迎え撃つが甲斐なく、アスファルトの中に沈む。
二度、三度と叩き続けて、路面に小さなクレーターができた。
「…呆気ねェな、こんなんじゃスッキリしねぇんだよ」
義手を持ち上げると、クレーターの中心が露になった。
人間の出来損ないを見下ろしながら、康一は呟く。
背後の上名古屋地区からは銃声や悲鳴、卑しい叫びが引っ切り無しに聞こえてくる。
鉄柱のような右腕を引きずりながら、康一はバイカーが暴れている町に足を向けた。
上名古屋地区では、レインボーズに参加したチンピラが略奪を繰り広げている。
康一が首魁に収まる少し前、組織は壊滅寸前だった。
絡んできたバイカーを瞬く間に黙らせた彼が加わってから、往時の勢いが戻ってきた。
1か月が過ぎる頃、ギャング達はレインボーズと呼ばれるようになった。
★
2時を回る頃、上名古屋から嵐が去った。
今はグレーの制服に身を包んだ男女が、現場検証や救助活動を行っている。
彼らは治安維持局。街の治安回復を目的にしたコミュニティであり、夏の異変で壊滅した市警の代行として、今は認識されている。
「ひでぇなあ、無事なトコがねぇーぜ」
髪を逆立てた不良風の男は呟く。
それを10代後半の少女は見咎めた。筋肉の引き締まった精悍な体型。
鼻が高く、顔の凹凸がはっきりしている。
「サボってないで、手伝ってよ!」
「サボってねぇよ!」
走っていく不良風を見送る、30歳代のやや頬のこけた男。
維持局のトップに座っている清水正史郎は、惨状を目の当たりにして表情を厳しくする。
壁と言わず、塀と言わず、弾痕だらけだ。
黒煙が街中で昇っており、街路には死体が散乱する。
焦げのある銃創、強い衝撃を物語る陥没、鋭利な刃物によるであろう切断。
損壊度合いはバラエティーに富む。
レインボーズとの付き合いは長い。
現在ほど人手の無かった頃から、正史郎は彼らと戦っている。
10月に大規模な掃討作戦を済ませ、ほとんど壊滅したものと思われたのだが。
その1、2週間後から、被害報告が段々増えてきた。
――虹色の天使。
現在、彼らのリーダーと目されている男の召喚する怪物。
30名ほど捕縛、40名近くを殺害したが、肝心のリーダーは取り逃してしまった。
何としても捕らえねばならない。この男さえ無力化すれば、今のレインボーズは瓦解するはず。
正史郎は憤懣を奥に隠し、被害住民の救助に当たった。
ありがとうございました。