天使が来る(1)
趣味で書き始めました。
「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・キモイ主人公。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。
庄内緑地の付近に建つ、入母屋造りの2階建て。
その一室の中央に、傷一つ無い卵が立っていった。
蹲った身長2mの男性がすっぽり収まるほど大きく、凹凸のない表面。
それは静寂の中、微塵も揺るがず立ち続ける。
★
道隆は熱田区にある国際会議場を訪れていた。
近在のコミュニティの住人が十数名、敷地に入ったきり行方を眩ませてしまった為、連れ戻してほしいとの事だ。
既に6人ほど探索に出発したが、連れ戻せたのは1人。
入った人々曰く、ダンジョンのような裂け目は見当たらず、また中から普通に歩いて外に出る事はできない。
しかし外観に比べて内寸は異常なほど広い。異空間に入ったら、出鱈目な構造物に出迎えられ、人1人見つけ出すのは極めて難しい。
迷宮化した内部では、死体をしばしば見かける。
殆どは一般人だが、異能者の死体が発見される事もある。
怪物どころか、一切の霊的気配は感じられないが、人を襲う者がいるかもしれない。
探索に入った6名の内、戻ってきた異能者は4人だ。
――異能者なら、異空間からの脱出は容易。
――異能者ですら死ぬ。
矛盾する情報を得た道隆は、受ける方に決めた。
彼は何というか……自分が死ぬイメージを抱いた事が無いのだ。
中学生の頃、猛吹雪の日に30時間ほど遭難した事があったが、その時も恐怖は感じなかった。
ただ、苦しみたくない。死ぬなら安楽の中で死にたい、と思ってはいるが。
道隆自身はこれを、特異に思っていない。
国際会議場など入ったことが無い。依頼報酬をもらって、観光もできるなんて良い待遇である。
道隆は広々としたエントランスに入り、あたりをゆったりと見回す。
見上げると骨組みの向こう、三角形を連ねたような天井板が無数に連なる。
小さな―近づけば、もっと大きいのだろう―ライトは、死んだように点灯を止めている。
5m歩いた時、空気が変わったように感じた。
怪物が現れる前の気配とも、まだ街が現在のようになる前の窒息しそうな空気とも違う。
――自分以外の息遣いを感じないのだ。
閑散とした名古屋以上に、生命の気配がしない場所。
墓場のような?道隆は、墓地には縁が薄い。
エレベーターも、エスカレーターも動いていない。
窓から差す日光と強化された視覚だけを頼りに、道隆は左手から上層に伸びる階段を上る。
扉を手動で開け、現れたのは200mほどの廊下。
右手側に、判子で押したように同じデザインの扉が並ぶ。
道隆がそのうちの一つを開くと、中は物置らしかった。
やや埃っぽい小部屋の中、10もの段ボールが積まれている。
その内の一つを、道隆は手に取る。ガムテープで封がされているが、それはまだ開けない。
抱えた段ボールを、出口の側で降ろす。
空っぽにしては重く、中に物が入っているのは確かだ。
封を手に取る前に、道隆はちょっと考える。
宝箱と一口に言っても――タダで中身をくれるものばかりではない。
怪物の擬態だったり、罠が仕掛けられていたり…。
――魔物に開けさせるか?
道隆は覚悟を決めて、封を破る。
魔物に開けさせた方が安全だとは思うが、如何にも惰弱だ。
過信しすぎると、土壇場で不味い状態になる気がする。
より良い結果を導き出せるかもしれないが、必要ではあるまい。
テープを剥ぎ、簡素な蓋を開く。
中に収められていたのは、液体で満たされた褐色の瓶。
表面にはプリントが施され、達筆な字で名称が記されている。
道隆にはあまり馴染みない――清酒だ。
道隆は次々と段ボールを開けていく。
触ると静電気が走ったように痺れる石、簡単な処置に使えそうな救急箱などを取得。
開封し続ける道隆の前に、掌3つ横に並べた程の大きさの包みが出現する。
包みの中から出てきたのは、豚の干し肉。元に戻し、魔物に所持させる。
全て改めた道隆は、物置を後にした。
道隆は部屋を一つずつ調べていく。
物置は先ほどの一部屋のみ。
がらんどうの部屋や、オフィスのように机でいくつかの島を作った部屋があったが、目ぼしい道具は見つからなかった。
まもなく、センチュリーホールに足を踏み入れた。
3,000人収容できる劇場空間には、道隆の他2名の男がいた。
座席の列の間、隠れるように横たわる中年の男。
全身を淡い青色に染めた彼は、胸が引き裂かれたような苦悶の表情を浮かべている。
精神エネルギーでショックを和らげていた為、錯乱することは無かった。
道隆は2階部分で、木乃伊のように痩せ細った男を見つける。
枯れ枝を思わせる腕を口に突っ込み、嘔吐寸前の表情を浮かべたまま、椅子の陰に隠れていた。
この木乃伊は異能者だ。異能者特有の、強烈な妖気を読み取ることができる。
迫り出した突端から飛び降り、椅子に腰かけて2つの死体について考え込む。
――彼らは、自然に死んだのだろうか?
道隆は己の問いに、内心自嘲する。
一般人ならともかく、異能者なら即座に脱出可能だろうに、なぜこんなところで死んでいるのか?
ひっくり返して、表裏を目視しただけなので、服の下がどうなっているかは分からない。
何者かの死体遺棄、異常な空間に迷い込んで、怪物に襲われて――現在、道隆の知覚に引っかかるものはいない。
結論を出せないまま、道隆は不安に駆られて、ホールを後にする。
ホールを後にしてから1時間以上経ち、道隆は展望レストランにいた。
本来なら富裕な人々で賑わっているのだろう、華美な店内に人気は無く、道隆にはわびしく感じられる。
広く作られた窓の近く、高齢の女が倒れていた。
一呼吸ほど間を置いてから、道隆は分身たる魔物を呼び寄せる。
(死んでるように見えないんだが…生きてるか?)
(生きている。間違いない)
緩いパーマのかかった髪の下、巨大な眼球が老女を観察する。
眼球の報告を聞いた直後、道隆は次なる従僕を召喚。
道隆の背後に、トランプの山が滝のように降り注ぐ。
それらは床に落ちると同時に、自立し、老女を――道隆がそれを制止。
――こんなモン、入れたくないな。
道隆はトランプの魔物を呼び戻し、思案する。
これまで選り分けてきたとはいえ、依頼を失敗した事は無い。
達成しようとすれば容易いが、こんな老女なんて触りたくもない。
捜索を続行して、別の奴にしようか?
(一旦、保留)
道隆はレストランを脱出。
さらに探索を続ける内、30代前半の女性を発見する。
中庭の騎馬像前で横たわる彼女は目を閉じ、眠っているように見える。
こちらはホールの死体とは異なり、全身に砂粒が付着している。
道隆はやや考えてから、心の中から魔物を呼び寄せた。
現れたのは、薄緑色のカブトガニ。
お椀のような身体が胸部の中央に張り付くと、2本の長い尾を脇から背中に回す。
十数の節に分かれた尾は、すぐに脊椎の上で結合した。
痒いような落ち着かなさを覚えた道隆の身体を、濃緑色のゲル質に覆っていく。
ゲル質は衣服の上から25歳の全身を包み込むと、硬化し始め、まもなく金属のように変化した。
まもなく、道隆の表面に「生きた甲冑」が出現した。
頭部や脛、肩を覆う外殻は繋ぎ目が少なく、防御力を優先した造りになっている。
逆に関節や首回りを覆ったゼリーは細かな鱗状になり、可動域の確保を優先する。
道隆は右手を持ち上げ、拳の具合を確かめる。手の甲や、指を小さな外殻が覆っている。
手袋を嵌めている時に似て、伝わる感覚がやや鈍い。灰色の掌を見つめながら思った。
ありがとうございました。