大迷宮はここに(1)
趣味で書き始めました。
「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・キモイ主人公。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。
再び夏になった名古屋で、道隆は荒子駅近くのスーパーにいた。
ここにはダンジョンに通じる裂け目が存在する。
道隆は30名の男女と共にスーパーの入口に向かい、見張りに挨拶して内部に入る。
裂け目が開いているのは、2階の立体駐車場。
その半ばから、続々と別位相のスーパーに移動する。
封鎖のほぼ全域で、質量保存含む諸々の法則を無視し、緩やかなペースで出現し続ける怪物達。
ダンジョン内ではそれらに加えて、様々な物品が生成される。
主に生産されるのは、缶詰や米等保存のきく食料、衣類や洗剤など日用品。
異界内で入手できる物品は怪物達とは違い、破壊しても霧のように消える事が無い。
これが知れ渡ると、飢えた住民達は胡乱な品々に飛びついた。
ダンジョンの総数は、明らかになっている限りでは40ほど。
入手できる道具には限りがあり、市民全てを癒す事はできない。
ダンジョンのある集落で食料を買い求め、それを売る者も中にはいた。
道隆は派遣ネットで生産品の回収の依頼を受注した。
ダンジョンの管理者にも、他にやる事があり、自らの箱庭にばかりかまけていられないのだ。
そして、主とはいってもダンジョン内の全てを自由にできる訳ではない。
内部の品々を検め、運び出すのは原則手作業で行う。
――怪物か。
店舗内、商品棚の陰に紫色の人型が蹲っていた。
それは馬に似た顔を道隆に向けたまま、座り込んでいる。
管理者が命令するだけで、内部の怪物達は犬や猫のようにおとなしくなる。
こちらを見つめているのは、監視役なのだろう。
物品をちょろまかそうとしたら、襲いかかってくるのではないだろうか。
(まぁ、どうでもいいがね)
入口で渡されたボストンバッグにカップ麺をしまう。
野菜や魚など、生鮮食品が生成されることもあるが、傷み具合によっては捨てられる事がある。
異界内で入手でき、市民にも利用できる品は全て死体だ。ダンジョン内に生き物はおらず、独りでに動くのは怪物のみ。
今の名古屋で新鮮な肉を食べたいなら、妖気の影響を受けた変異生物から採取する必要がある。
やがて、鞄が一杯になったので、道隆は裂け目に向かう。
ボストンバッグの中身を店舗前のバラックで吐き出し、道隆は再び店の中に向かう。
これを2度繰り返す。3回目の探索に出発するべく駐車場に足を踏み入れた時、茶髪の女が慌てた様子でこちらに走ってきた。
口をだらしなく開けたその顔には、近づいて来る男が見えていないのではないか。
彼女を見送り、道隆は再び異界に足を踏み入れる。
店内をしばらく歩いた時、あの女が何故あれほど動揺していたのか、理解することができた。
店舗内で立ち竦む人々の囁き合いを耳にし、鮮魚コーナーのバックヤードに辿り着く。
戸を開けてすぐ、調理台のすぐ前で口を開ける黒い穴が目に入った。
足を降ろす階段が伸びており、果ては見えない。
同じ仕事を引き受けた男女が、恐々といった様子で地下への入口を見下ろしている。
そのまま観察している気にもならず、道隆は店舗前に帰った。
騒ぎはまもなく、ダンジョンを抱えるコミュニティにも伝わる。
入口への対応で苦慮する住民達だったが、報酬の8000円は支払った。
直後に20名の男女、特に道隆含む異能者にダンジョン地下の探索を要請する。
考える道隆をよそに9名――全て異能者――が引き受けた為、断った。集団行動は嫌いだ。
(てかフットワーク軽い奴らだな…)
言い出したコミュニティの人もびっくりしてたけど。
受諾する奴がいるとは、思ってなかったんだろうなァ。
昼過ぎ、髪を後ろに撫でつけた男――黒岩周哉は9名と共に地下を降りる。
彼は7月の異変後に異能者として覚醒した、24歳の元漫画喫茶店員だ。
配電設備がしばしば断たれ、火力発電所が吹き飛んだ今の名古屋で、漫画喫茶の運営などできない。
職を失った彼は自宅の近所で働きつつ、派遣ネットで単発の仕事を受けて、小遣いを稼いでいた。
大荷物を持って物々交換などやってられないしな、と周哉は貨幣が価値を持っている現状に納得している。
地下を降りると、光源が全く無いことが改めて分かる。
とはいえ異能者の強化された視覚を持ってすれば、この闇でも問題なく行動できる。
「蛇灯篭」
柔らかい、少女の声を周哉は聞き取る。
その時、壁や天井に、光る蛇のようなものが走った。
触れてみると幅があり、生き物らしい事が分かる。
「あれ、あの…いけませんでした?」
「いや、大丈夫大丈夫!明るくなって見やすいよ、ありがと」
振り返ると、視線を集めている少女がいた。
髪をボブカットにした彼女――金高紗莉が、自信なさげな顔を向けている。
周囲の顔は紗莉に非難をぶつける事無く、通路の奥を目指す。
彼らが移動する度、光る蛇も通路を這って周囲を照らす。
やがて人工物めいた壁や天井が、風雨にさらされたような岩肌に変化した。
通路の先にあった洞窟は、かなり大きく作られている。
天井の高さが倍近くなっており、幅は大人5人が横に並んで歩けるほど広い。
しかし足元は未舗装の岩そのままであり、負担がこれまでより大きい。
紗莉が呼び出した蛇の微かな光を頼りに、9名は進んでいく。
「これ明暗はっきりして――」
周哉が小突いて黙らせる。紗莉の顔から、強い感情は窺えない。
「おい、これなんだろ?」
歩くうち、40m四方ほどの広間に出た。
部屋に入った時、新たな光源が出現する。
広間の隅でひっそりと生える、燃えるように光る橙色の水晶。
ぼさぼさした髪型の少年――蟲井俊樹が、茸のように突き出たそれを触れる。
仄かに暖かい。俊樹は掌に大振りの短剣を出現させると、刃で根元を掘り始めた。
――9名の知覚に、6つの妖気が侵入する。
周哉達がやってきた出入口前に、白い体毛で覆われた人型が4体。
体長5mほどの巨体が戴くその顔は髑髏の様だ。
奥にある3つの出入口前に、麻縄で首を吊られた囚人が2体。
いずれも舞うように浮遊しており、ピンと張った縄は途中で切れている。
その身体は半透明であり、周哉は幽霊ではないか、と思った。
「え、ちょっと待って!まだ取れてないんだけど!」
狼狽える俊樹をよそに、戦闘が始まった。
めいめい、保有している異能を発動させて応戦する。
周哉は握りがついた短剣――一対のジャマダハルを装備した。
垂直に伸びる刃が厚い外皮を裂く。
雪男の爪を避け損ねるも、周哉は気を張って精神エネルギーで身体を鎧い、ダメージを打撲のみで抑えた。
ありがとうございました。