1時間――蛇の舌(2)
趣味で書き始めました。
「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・キモイ主人公。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。
蝙蝠人間が姿を消した後、アルスラは目を覚ました。
その皮膚には赤みが差し、頭髪は黒く染まっている。
以前と比べれば、目立ち難い容姿だ。
彼女はあたりの様子を確かめてから、敷地の外を目指す。
周囲に漂う濃密な気配から、容易ならざる事態が起きているのは分かる。
鉄を詰められたように頭が重い。
蹲り、息を整えていると不意に気配が現れた。
そちらに顔を向けると、若い女が散歩するような足取りで近づいてくる。
纏うドレスの上で、植物の文様が繋がったように繰り返す。
両手足には、青い宝珠で飾った黄金の輪が嵌めている。
「アトム」
アルスラが生まれ育った世界の原初神。
人間から生まれ変わった彼女達とは違う、初めから神であったもの。
コノド神族は彼女とその眷属を追い出し、頂点を握っていたのだ。
女は足を止めた。
サンダルのような履物は、今の名古屋には似合わしくない。
アトムは半歩ほどの差で美人になり損ねた、愛嬌のある顔をしていた。
肩で波打つ長い髪は、南国の海のように青い。
しかしこれが、本体の切れ端でしかない事を、アルスラは了解している。
「なんで、ここに…」
「…この街の誕生は知っていたよ。今に至るまで、お前を見つけられなかったけど」
彼女の創造主は、日本語で話しかけてきた。
「復活は――」
「失敗した。知性を保てたのは、君だけだ。聖体を再現したつもりらしいが、ユダと比べると、拙い業だったね」
アルスラは立ち上がった。
骨に文字を刻み、彼らを転生させたが、肉体が頑健になる程度だった。
神格の器にできればと思ったが、当ては外れたようだ。
歯痒く思うアルスラだったが、目の前の女も残念がっているのが不思議だった。
「私を始末しに来たのではないの?」
「始末などするものか。己が身を通って生まれた子を、手にかける親などいない」
アトムは黒髪の女を見つめる。
「裏側に追いやられてなお、私達を子と呼ぶの?」
「無論。まぁ、私の子供と呼ぶには、不純物が相当混じってしまったらしいが。心苦しいが、この――地球の住人にお前の処分は任せるとしよう」
今のアルスラは、純粋なコノド神族ではない。
這いよる混沌――地球に伝承される神格の一体と融合している。
彼女は流入した情報と共存し、共喰いによる自滅を防いだのだ。
「貴方の心に慈悲があるなら、私の問いに答えを賜わして欲しい…」
「そう卑屈にならなくてもいい。教えられる事なら、教えよう」
アトムが鷹揚に頷くと、アルスラは口を開いた。
「…この街の異能者達は、なんなのかしら?」
「君達の子供だ。この街の住人たちは、灰と化した聖体を受け取ったのだ。こちらにも何人かいて、"骨食い"と呼ばれている」
「……骨食い」
アルスラは目を見開いたまま、呟く。
「気付いていなかったのか。零落していたのだろうし、あれからすぐやってきたのなら、当然かも知れないね。質問は終わりかな?」
「……ええ、ありがとう」
「わかった。…我が息子の探求は、遠い異国に大輪の花を咲かせた。転生術は人が生んだものの中で特に優れている。賛美する相手が既にいない事を、心から残念に思うよ」
旧知の相手のように親し気に、アトムはアルスラに別れを告げて去っていった。
アルスラは重くなった肩を上下させる。
彼女は象のように大きな面長の鳥を呼び寄せると、慣れた手つきで跨り、菫色の天幕を避けるように飛び去った。
――疲れた。
再び神の座に就き、全ての人の魂を握る望みは絶たれた。
アルスラは封鎖の中にいる、同胞の気配を感じながら、彼らに見切りをつける。
霊廟に眠っていたのは、抜け殻だったのだろう。
辛うじて全滅を免れただけで、既に消える間際だったのだ。そして自分がトドメを刺した。
アルスラは唯一の聖体を自ら捨てた為、同じ結末を辿らなかっただけに過ぎない。
自身に限って言えば、復活は成功した。
無貌の神に送られる想念を我がものに出来る為、かつてと遜色ない力を振るえる。
しかし、その引き換えに「蕃神のメッセンジャー」という役割に完全ではないにせよ、縛られてしまう。
手放しで喜ぶ気にはなれなかった。
ありがとうございました。