30分――異界の城
趣味で書き始めました。
「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・キモイ主人公。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。
世界の壁を越えて街に現れたディエゴ達は、栄2丁目にいた。
彼らは柱の外にまで聞き込みをし、帰還する為の情報を集めていたのだ。
封鎖の外に出るか否か?
この夜に至るまで、結論は出ていない。
「おい、いきなり何!?」
「何かあったんでしょうか?」
「さぁな…誰か捕まえてみるか」
夜空が突然、菫色に染まった。
来訪者達の拠点のビルに帰る途中の3人も、茫然と淡色の天蓋を眺める。
彼らは帰路を逆に辿り、異能者を探す。
しばらく走って、魔獣を駆る若い男女と遭遇した。
「ちょっと待て!」
「なに!敵!?」
「えーと…異世界人の」
フレデリクが切り出すと、女は納得した様子を見せた。
「あぁ、何?今、急いでんだけど」
「わかりました。貴方達はどこに向かってるんですか?」
フレデリクが指を差す。
「知らない」
「知らない?目的地――」
「分かんないだろうけどさ、街中もの凄い気配がしてんの…てか、もう行っていい?」
男女はそそくさと去っていった。
ディエゴとフレデリクは、今後の方針を固めるべく額を突き合わせる。
その時、機械人形が素っ頓狂な声を上げた。
「なんだよ」
「戻ってる!」
「あ」
「"漂流する銀扉"が起動した。今、帰れるよ!?」
3人は打ち合わせるでもなく、直ちに帰還する事にした。
ここではヨアンの点検や修理を行う事が出来ないのが、なによりの決め手だ。
名古屋には移動手段を確立してから、また改めて来ればいい。
★
金属カードのような通信端末を手に、正史郎は眉間の皺を深くする。
彼は、拘束している者達の監視も兼ねて、本部に詰めているのだ。
本音を言うと駆けつけたかったのだが、複数の局員がそれを制した。
嘆息する彼に、怜悧な顔つきの女――小宮山岬が声を掛ける。
「今夜は弱り目に祟り目ですね。私の人生で、一番長い夜になりそうです」
「まったくだ」
「…原因はあの穴でしょうか?」
「おそらくな」
ここからは見えない、上空に鎮座する青い円を2人は思い浮かべた。
局員が数回調査に向かったが、辿り着けなかったそうだ。
姿を消したBTDが広めていた予言は、ついに現実のものとなった。
「私の都市をぶつけてみましょうか?何かわかるかも知れません」
「できるのか?」
問われた岬は、小さく肩を竦めた。
「…わかった。異常があったらすぐに中止しろ」
「承知しました」
岬が会得した能力を展開する。
その瞬間、菫色の天蓋が名古屋のほぼ全域を覆った。
彼女は一礼してから、部屋の中から姿を消す。
岬が次に現れたのは、天蓋の向こう側。
そこではコノド神族の眠る旧き城が、菫色の空に照り輝く壮麗な都を擁する大地に食い込んでいた。
岬は宮殿の屋根から、かの霊廟を眺める。
彼女の視界に移るのは都を囲う城壁と、勾配なだらかな平原。
そして彼方の木立の奥、険しい岩肌を突き破りそびえる、彫刻が施された石柱に挟まれる厳めしい門。
門を抱く石壁には、尖塔が百は群がり、さらにそれを土台として、突き出た石壁には迫持造の窓が、見える限りで三十も口を開ける。
人知を外れた建築物は現在、異形の群れによって蹂躙されていた。
緑の石壁を突き破って出てきたのは、蹄のついた足。
突き出た触手が壁を崩し、黒雲のような粘つく体がゆっくりと森を侵す。
木立の右手の湖から、二足歩行のカエルやブタを思わせる、肥満体の怪物が上がってきた。
墨色の毛で覆われた巨大な蜘蛛が平原を闊歩し、鬼灯の果実を思わせる目を街に注ぐ。
――気持ちが昂る。
岬は7月の異変が終わってから、異能者への変化に気づいた。
あの時は迫りくる怪物に脅え、親しい人々の喪失に心を痛めるばかりだった。
今は脅威を打ち払う力があり、志を同じくする同僚達がいる。
手にした異能の規模ゆえに、振るう機会に恵まれなかったが、今は違う。
(加虐趣味らしいですからね、私…)
思索を打ち切り、岬は第二の異能を展開する。
その時、瑕疵なき石畳が陰影に曇った。
都市の住人達―彼らもまた、岬の能力の一部だ―が、一斉に空を見上げる。
そこにあったのは、緑色の鱗に包まれた城壁。
巨大生物の首が幾重にも交差し、菫色の光を遮っているのだ。
空中に走る回廊がもたげ、爬虫類めいた頭が、墓地から這い出た神々を見下ろす。
牙の生え揃った堰が開き、みなぎる力が銀色の奔流となり、霊廟に侵された稜線までを埋め尽くした。
1秒経ち、蹄の生えた黒雲が崩れ落ちる。
大蜘蛛の脚が枯れ枝のように折れ、身体を覆う外套が風に吹かれてちぎれていく。
――時間が急速に経過しているのだ。
老いを司る翠龍の吐息は、主の世界に侵入した異物だけを正確に狙い撃つ。
直立するカエルの身体から潤いが抜け、やがて倒れ伏した。
まもなく三体の巨神が滅び去るが、浮遊する木乃伊が意にも介さずに近づいてくる。
全員に通じる訳ではないらしい。
――多少は耐えてくれないと、面白くありません。
そうはいっても、遊ぶつもりはない。
緋色の尾根が前触れなく出現し、影絵のような太陽を遮る。
尾根は二度三度とカーブし、龍の頭が居並ぶ巨神どもに吼え狂った。
天を衝くほどの龍と比べれば、地獄めいた影が小人にしか見えない。
緋色の龍が、木乃伊を一喝する。
ただの咆哮であるが、特級の威を孕む身体から放たれたそれは、戦略兵器の域に達する。
木々がちぎれ、大地が砕けると共に、木乃伊の身体のあちこちにもヒビが入る。
合流しつつあった二足のブタは、呻き声にもならぬ音を発して、頼りない地面にしがみつく。
彼らは都への侵入を、諦めてはいなかった。
木乃伊は己の時間流を加速させる。
瞬く間に距離を詰め、岬が立つ、宮殿の屋根に手を伸ばす。
干からびた腕が屋根を崩すも、掌には何もない。
木乃伊が彼女を掴むよりも早く、岬は翠龍の頭部に移動した。
ここ――彼女の為の空間ゆえに、あらゆる場所に現れる事ができる。
巨人の根城から、肥満体の怪物が歩み出てきた。
同じように膨れた腹を持つが、這いつくばっているブタとは容姿が異なる。
首に当たる部分は無く、両手首の肉塊には、人の口腔が存在している。
肥満体は身体を赤熱させながら、足場の体を成していない地面を進む。
しばらく戦いは続いたが、最終的に岬の勝利で終わった。
やや物足りない物を感じたが、彼女は速やかに忘れ、街に帰還した。
自分は子供ではないし、他にもしなければならない事が多々あるのだ。
ありがとうございました。