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30分――蛇の舌

趣味で書き始めました。

「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。

読む前に、以下の注意に目を通してください。


【注意事項】


・ハーレムなし。

・デスゲームなし。

・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。

・キモイ主人公。

・読みづらい。

・残酷な描写や暴力表現あり。

・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。


 12柱の王――コノド神族降臨は、市内の異能者全員が認識していた。

千種から帰還していた維持局員達は、直ちに久屋大通公園に集結。

気の早いものは既に、庄内緑地方面に向かっていた。

夜の名古屋を進む超人の群れを、空の大穴が睥睨する。


「うぇ――」

「なに――」


 西区の住宅地を闊歩する、三本足の異形の周囲に出来る人の囲い。

維持局員だけでなく、近隣に住む住人もその場に集まってきた。

それが視界に入った瞬間、異能者達は茫然としたように動かなくなる。

一般人の局員はこの場にはいない。


 物見高い群集もいて、彼らは一様に涙を流して、三本足を眺めた。

いやらしく動く頭部に視線は釘つけになり、もつれるような足取りで巨神に近づいていく。

踏みつぶされるのも構わず、母親を求める幼子のように、その足に縋り付いた。


「…!しっかりしろ!」

「住民の避難、済んだか!?」


 一部が弾かれたように走り出し、それに一部が続く。

彼らは三本足に魅了された市民をその場から引き離し、あるいは掛けられた暗示を解いていった。

もっとも、蛇の舌本人にそのつもりはない。

内部であらゆる感情が湧きあがり続ける今、名古屋市民を屈服させる余裕などない。


「ゴメン、遅れた!」


 鳥人と化した雅音が滑空してその場に現れる。

空からやってきた彼女は、鉄の両腕を頭部目がけて振り下ろす。

不可視の斬撃を受けた巨大な触腕に、亀裂が入った。

しかし、体液に当たるものは一切漏れない。断面にはただ、底知れぬ深淵のような黒があるだけだ。


 集った異能者達も、雅音に負けじと攻撃を加えていく。

幽体の刃や紫電の槍、吸盤のついた拳が夜に吠えるものに降り注ぐ。

それに反応した三本の足が、まとわりつく小兵を狙って振り下ろされる。


 巨神は追撃する雅音に爪を振り下ろし、頭部の切っ先を突き出した。

彼女がそれを躱した時、蛇の舌が震え、鐘の音が響く。

音が終わるか終わらないかの間に、人の囲いが崩れた。

集った異能者の身体が黒く、炭のように変化したのだ。

変身していた人々の身体にも、あちこちにヒビが走っている。


 唯一、影響を受けなかった雅音が鎌を出現させる。

飛び掛かった彼女は、以前より大降りになったそれを左胸に叩きつける。

大怪獣に突き刺さったそれを抜き取り、さらにもう一振り出現させる。

両手に持った鎌を、雅音は素早く投擲した。

風車と化したそれらは、左足と触手状の頭部に切り刻んでから、手元に戻った。


 ハリマルドは痛みを介することなく、爪を突き出す。

動かした指が勢いよく伸び、槍のようになる。


「ねぇ!」


 追加された頭部の刺突を避けつつ、雅音は変身した異能者の一人に声を掛ける。


「誰かテレポートとか、使えない!?」

「あ、俺…」


 異能者の一人が声をあげた。

彼は今、エイのような体躯を持ち、背中からは20本の触手を生やしている。

並びは不均等で、その配置に人間らしさは無い。

腹から甲殻類のような腕が一対伸び、鋏がカチカチと鳴っていた。


「アンタ、皆を安全な場所へ運んで!」

「あ、わかった」

「俺も行く!」


 エイのような異能者は100mほど移動してから、能力を開帳した。

微かに呻く黒焦げ達の姿が消える。

次に現れたのは、エイの近く。

彼は指定した物体を、自分の近くに引き寄せる事が出来る。

まもなく落下を始めた負傷者達を水の網で抱え、治療可能な場所を目指して離脱した。


 その場に残った20数名の異能者が攻撃を開始する。

光弾が降り注ぎ、鈍く光る刃が皮膚の無い身体に浴びせられる。

その身体に小さいながら、焦げ目や切創、銃創が刻まれていく。


――蛇の舌は、夜空に向かって吠えた。


 直後、巨大な右足を斬りつけた中年の男――洞木は違和感を覚えた。

腕に伝わる手ごたえが、先ほどとはまるで違う。

咆哮の前が1本の竹だとすると、今は巨大な岩石くらいに感じる。

二度三度斬りかかるが、厚い扉を隔てたように虚しい。



 洞木は刀のギミックを展開した。

刀身に刻まれた筋に、黒いラインが走っていく。

洞木の刀は斬りつけた相手の生命力を毒に変換し、内側から腐食させる効果を秘めている。

毒を帯びた刀を、洞木は横薙ぎに振るう。

巨神は防御行動をとることなく、刀はその足に命中した。しかし、それだけだった。


「ちょっと、どいて!」


 派手な髪色の少女――如月が前に出る。

外見13~15歳程度の彼女が近づき、蛇の舌に手をかざす。

自身の異界内に閉じ込めようというのだ。

まもなく、対象を巻き込める10m圏内に入ろうという時、頭部の先端が如月に向けられた。


 雅音はふと、胸騒ぎを覚えた。

飛ぶように走る如月に近づくと腰に腕を回し、さらう様にその場から連れ出す。

同時に頭上から声が響き、地面にいくつも深い陥没が生じる。

轟音と共にアスファルトが浮き上がり、底知れない大穴がぼんやりと口を開けた。


「大丈夫!?」

「え、あの…」


 その瞬間、巨神の姿が庄内通駅前に移動した。

筋肉を晒した体がノイズのようになり、音も無くズレる。

速度はかなり早く、軌道を辛うじて目で追える程度。

周囲が暗い事もあって、移動先の認知が遅れてしまった。


「あぁ、クッソ!うざってぇ…」


 両手に剣を持った骸骨が駆けてゆく。

変身した極彩色の雪崩が、蛇の舌に向かい、その巨体を転がさんとする。

しかし、呪力による膜で包まれた体に大した傷はつかない。

それを膨張させた腕と鋭い爪で捌く傍ら、ハリマルドは声を発した。

鐘のような轟音ではない、調子はずれのフルートのような細い音。


――その瞬間、雅音の内側で大噴火が起こった。


 なぜ、自分はこんなところにいるだろう。

通っていた学校の校舎は半壊、クラスメイトも1/3が7月に亡くなった。

母親はミュータントと化し、家を出てしまった。

これまでに"悲しい"と感じた出来事が次々と思い出される。


 やがて、雅音はさめざめと泣き始めた。

意図したわけではないが、変身が解けてしまう。

泣いていたら不味い、という理性は、噴き出した悲しみに潰された。

周囲の異能者も一様に泣いたり笑ったりしている。

中には近くにいた初対面の相手と、流血沙汰の殺し合いを始めた者もいる。


「…局長、助けてください―」


 辛うじて無事な維持局員が端末を取り出し、震える声で正史郎に報告する。

その目の前で、触手めいた首がもたげた。

声を詰まらせた伝令役を、嗤笑するように巨神は背を向ける。

蛇の舌はそのまま、何処かに歩き去っていった。


ありがとうございました。

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