30分――地上に落ちた恒星
趣味で書き始めました。
「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・キモイ主人公。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。
千種公園近くから帰った宵のうち、道隆は私室の窓を勢いよく開けた。
床に就いていた彼は自宅マンションを取り囲む不吉さを知覚し、飛び起きたのだ。
勢いよく窓を開け、ベランダに飛び出す。
夜気に触れると同時に不吉さは影を濃くし、道隆は水中で溺れるような息苦しさを覚えた。
(おい、どうなってる!?)
(空に開いた穴から、怪物が降りてきている)
(穴!?)
道隆は上空の穴――コノドの霊廟への入口を見ていない。
(なんか、塞げないのか!?)
道隆は部屋に戻る。
(既に塞き止めているが…5体、封鎖の内側に降りた)
(あぁ、今日はツいてないな)
道隆の身体を白い燐光が包み込む。
変身を終えた道隆は霧に変じて空に昇ると、怪物の気配を目指して飛ぶ。
降臨した怪物が5体きりなのは、飛蝗頭が環境改変の能力を応用して食い止めたからだ。
さらに現在、愛知県内には道隆がいる。
造物主のバックアップを受ける事で、出力が大きく向上。その結果、旧き城と名古屋市の衝突を防ぐ事ができている。
――田原市の漁港に、塔ほど巨大な半魚人が上陸する。
鱗に覆われ、エラやヒレを備えたその姿はまさに魚類。
彼が上陸した辺りは人家がまばらで、それ故被害が少ない。
全長50mほどの半魚人は碧色の霧を纏いながら、内陸部を目指す。
――一宮市の浅井町に、巨人の炎が降り立つ。
炎は摂氏4000度の熱波を体表から10m先まで放っており、歩く度にビルも街路樹も全てが蒸発していく。
また、燃え輝く全身に照らされた市内は昼間のように明るく、一足早く日の出がやってきたようだった。
――豊明市の中京競馬場を、白い蛇のようなものが圧し潰す。
正確には蛇ではない。もっとずんぐりとした、生理的嫌悪感を催す造形をしている。
人家よりも巨大な、その芋虫に似た物体は、頭を持ち上げると目に痛い程の白い光線を放った。
光線が通り過ぎた箇所には一瞬で霜が降り、それに触れた生き物の体組織は直ちに凍り付いた。
白虫の周囲の気温があっという間に下がり、豊明市を雹の嵐が包み込む。
――犬山市の天神に、暴風が出現する。
屋根をめくり、街路樹を小石のようにまき散らす大嵐。
その中心に座すのは、てらてらと滑る触手の塊。
触手の隙間から、白く細い腕が伸び、指は何かを掴もうとするように蠢いている。
触手塊はゆっくりと、確かめるように街を破壊しつつ、南に進んでいく。
――名古屋市の庄内川沿いに、無貌の怪物。
怪物は円錐形の頭部を揺らしながら、川を踏み越えて名塚町に足を踏み入れる。
その姿を見た一般人は陶然とした顔から涎を垂らす。精神波の威力は高く、直視したなら、異能者ですらしばし立ち竦んでしまう。
蛇の舌はそのまま名古屋城方面に向かって、のしのし歩き始めた。
彼らは一様に鳴いていた。
生まれてきた苦しみを訴えるように。
身体を苛む激痛に悶え、それを忘れる為に巨神どもは滅多矢鱈に暴れる。
道隆は5体のうち、一宮の炎神のもとに向かった。
家族が暮らす、香川県にもっとも近い位置にいる為、最優先で撃破しなくてはならない。
逆に、県の東側に現れた者達は、後に回しても良いだろう。
3分弱で到着した道隆は、固体化して見た現場の光景に息を呑む。
道路、線路、周囲の全てを蒸発させて歩く、燃える人型。
――歩いていた。それは足を上下させて進んでいる。
道隆は10本の杭を放った。
成人並みの鉄串は炎に包まれ、巨人の体表に着弾する前に燃え尽きた。
吹き上がる紅炎が、杭が巻き起こす暴風によって僅かに揺れる。
道隆は内心で、口元を歪ませた。
道隆は精神世界から、巨大な烏を呼び出す。
旅客機並みの体躯を持つ、祝福の魔鳥。
烏が一声鳴き、黒羽の魔力が追い風となる。
道隆は再び、10本の杭を出現させた。
大鴉の強化を受けたそのサイズは、長さ4m、直径1m。
軽自動車より少し小さいくらいの、金属塊が秒間6㎞で宙を駆け抜けた。
半径数㎞内にある全てを吹き飛ばす暴威は、解放される前に蒸発する。
(マジかよ…、これでも駄目かよ)
落胆しその時――巨人が右足を高々と持ち上げた。
道隆の視界が、至近距離から強い光を当てられたようになる。
目が眩んだその時、超級の熱と重圧が、道隆に頭上から襲い掛かった。
炎神は目の前の蟻を踏みつぶし、歩き出し――その右足が爆発する。
右足に大穴が開き、紅蓮の人型は膝をついた。
それと同時に道隆が、地中から飛び出す。
突き上げた拳が破壊の波を起こし、巨神の足をドリルのように穿ったのだ。
青い身体は土に汚れているが、ヒビすら入っていない。
街を溶かす数千度の熱に耐え抜いた道隆は、炎神の顔の前まで飛んだ。
意味ありげな閃光の塊から、熱波が放たれる。
風で舞い上がる木の葉のように、道隆は吹き飛ばされた。
気体化と固体化を交互に行い、燃える頭部に前蹴り、回し蹴りを浴びせる。
火神の頭が殴られたように傾ぎ、一部が削り取れた。
顔から放たれた茜色に燃える洪水が、道隆を再び押し流す。
炎神はゆらりと立ち上がると、右足を引きずって歩き始めた。
その様子を見るに、ダメージは入っているらしい。
道隆の身体を覆う外殻は、超高温をものともしない。
その性能を当てにしつつ、攻撃を重ねていく。
道隆は精神世界から、魔物を引っ張り出す。
白い毛で覆われた身体のあちこちから、象牙のような突起を生やした、2tトラックほどある狼。
狼は口から青い炎を吐き出すが、巨神に応えた様子はない。
しかし、この狼は炎熱を自身の活動エネルギーに変換する性質を持つ。
回避に重点を置くよう命じて、道隆は攻撃に参加させる。
巨神の攻撃を潜り抜けて、両者は攻撃を加え続ける。
振るわれる腕を躱し、熱波で吹き飛ばされたら、直ちに体勢を立て直し接近する。
道隆はミミズのような頭部を持つ、怪鳥を呼び出して戦列に加えた。
怪鳥は物体を錆させる能力を扱うが――案の定、通じない。
例によって炎熱を無効化する為、これも攻撃に参加させる。
しばらくして巨神が損傷の重さ故、移動を止める。
既に頭部が吹き飛び、左腕が落ちているが巨神は活動を止めない。
生ける炎は攻撃を受けつつも直進し続け、稲沢市の井堀中郷町まで到達していた。
その間に存在した道隆とその分身達以外の全ては、もれなく姿を消した。
果てしなく続くと思われた攻防もやがて終わり、道隆は安堵する。
それと同時に、鋭敏な聴覚がプロペラの回転音を捉えた。
高度を上げて見回すと、数台のヘリが近づいてくるのが見える。
救助か、空撮か、判断はつかなかったが、道隆は胸のむかつく思いがした。
その時――。
(なに!?)
倒れ伏した炎神の身体がぐぅっと膨らみ、次の瞬間、一気に膨張する。
まもなく眩い閃光と、山津波のような突風が道隆を押し流した。
やがて視界が戻り、道隆は冷たい虚無を目撃する。
その場から半径およそ2㎞が、炎神の断末魔の爆炎により、完全な更地となったのだ。
ありがとうございました。