永遠の治世を始める為に
趣味で書き始めました。
「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・キモイ主人公。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。
名古屋市西区にある庄内緑地は7月の異変以降、その姿を大きく変化させている。
時計塔周囲の芝生は一面森と化し、立ち並ぶ樹木には奇怪な色の果実が生る。
ガマ池には主が住み着き、目を付けた人間を自身の従僕に変えるらしい。
園内で死んだ市民の幽霊が、入り込んだ者を仲間に引き入れるのだ、とまことしやかに囁かれ、近隣住民で此処に近づこうとする者は絶えて久しい。
そこから北に5分ほど歩いたところにある、入母屋造りの2階建て。
塀瓦と松に遮られ、敷地の外から中を窺う事は難しい。
玄関を上がってすぐ右手にある、板張りのリビングにアルスラはいた。
彼女は座布団の上で正座したまま、騎士位の会員の報告を聞いている。
「多分、最後の前兆が始まったと思うッス」
「そう。ご苦労様」
此処まで長かった。
彼女が名古屋にやってきたのは、11年前。
65年ぶりの大寒波が街を襲った、まさにその日。
ハリマルド=アルスラ=コノドは、故郷ムナフ=ブーンから時空の歪みを通ってやってきた。
そして再び神として返り咲く日を夢見て、7月の異変が起きるまで、身を潜めていたのだ。
彼女は12人の王の一人だが、他の仲間たちとは違う点がある。
11人が個として強大な力を会得したのに対して、彼女は群れとなる事を選択した。
アルスラは男であり、女であり、獣であり、樹木であり、書物であり、器物である。
彼女は爆発力を捨てる代わりに、不死性と汎用性を伸ばした。
数多の化身を世界中に置き、それら全てが本体であるという特性。
それ故、彼女だけは生き残ることができた。
アトムの神々とコノドの神々の間で起きた戦いにおいて、ハリマルド達は敗れ去った。
戦いの余波は凄まじく、大地が消え去った時にはあらゆる宇宙が一つに繋がっていた。
繋がりが絶たれるまでの僅かな間に、ハリマルドは神力の全てを、"どこか"に送り込んだのだ。
そうして辿り着き、「ここにいるアルスラ」が誕生したのが名古屋だった。
――だが、雌伏の時は終わり。
ハリマルドとして持っている、「狂騒」の権能は実に有用だった。
正常な判断力を失わせれば、身元を引き受けてもらうのは簡単だった。
街にいたバンドメンバーを手駒に加えるのも簡単だったし、信者をかき集めるのも簡単だった。
彼らが復活すれば、アルスラも同時に完全となる。
「今日中に始めましょう。30分後で」
「15分で十分ッス」
"お迎え"の準備を命じられた会員は、速やかに辞去した。
彼女が儀式を済ませた後、12人の王が名古屋を「目印」にして、地球へやってくる。
――15分後。
予告通り、準備は15分で済んだ。
松の木で遮られた庭に、20名ほどの会員達が集まる。
その中には、BTDのトップにあたる森ケセドら数名も入っていた。
彼らはハリマルドの化身「夢魔」に憑りつかれている。
「アルスラ、始めてくれ」
「えぇ」
アルスラは胸の高揚を抑えつつ、口を開いた。
『栄光が蘇る』
如何なる言語にも属さない、地球外の詞が夕闇に溶ける。
『旧き城から、徳と調和が降り注ぐ。百億の冬を越し、百億の春を謳歌する、永遠の肉体を携えて』
他の会員達が、詠唱に参加した。これより独唱は合唱となる。
空が回転し、雲が目まぐるしく流れていく。
雲は名古屋市上空に開いた大穴の縁を回り、別の方向に去っていく。
それはさながら、台風の目の様であり、あるいはラウンドアバウトの様であった。
『武器を捨てろ、衣服を捨てろ、知恵を捨てろ』
南雲が空から近づいてくる。
このまま進めば、BTDの儀式場に突入するだろう。
『賎しい黄金は塵となり、人生の毒は拭い去られる』
『全ての怒り、全ての悲しみは清められ、徳と調和が地に満ちる』
詠唱が終わった。
その直後、庭の一角で轟音と土煙が巻き起こる。
視界を遮る煙幕を、喉が裂けるような叫びが掻き消した。
「B、T、D……!」
「あら、懐かしい。久しぶりね、南雲さん」
居並ぶ騎士達が、南雲に向かっていく。
彼らは外套を脱ぎ捨て、鱗に覆われた腕を晒す。
瞬間、彼らの腕が爆発する。
筋肉が裂け、硬質の刃や軟体生物のような触手が飛び出した。
「少しだけ抑えていてね」
アルスラの身体に、危うさすら感じる心地良さが満ちる。
彼女は化身を遣わす際のコストが、他の王に比べて格段に少ない。
集団心理を司る彼女が、「群衆」の属性を持っているからだ。
アルスラが指を一振りすると神力の洪水が一点に集束していき、血と肉と、眼に見える形を以て顕れる。
それは筋繊維を露にした人型。
両腕を伸び縮みさせ、三本の脚で歩く勇壮な姿を持ち、指には錨のような鉤爪が生え揃う。
何より見るべきはその頭部。
蛇の舌を思わせる首には顔が無く、不潔に動く先端が月を撫でようとするかの如く伸びていく。
それは口腔を持たないくせに、早暁に響く鐘のような声をあたりに轟かせた。
――何これ?こんなの知らない…。
アルスラの奥深い場所に、見知らぬ意識が侵入する。
その思考の鋭敏さは明晰を遥かに見下ろし、狂気に沈んだ白痴に等しい。
本質は霧がかかったように有耶無耶であり、それ故に好き勝手に己を偽ることができる。
アルスラは深く息を吐こうとしたが、身体が言うことを聞かない。
まもなく意識を失い、庭に崩れ落ちた。
無貌が一声鳴くと、その場にいた全員の顔が上下にずれた。
皮膚が裂け、衣を脱ぐように怪物が飛び出す。
BTD会員の中から現れた、三つの目を持つ双頭の蝙蝠人間達は、曲刀を握る中年男性に殺到した。
南雲は目の前の光景に心奪われ、呆然と立っていた。
精神の一部を削られたマーラの使徒の心胆すら震わす、理性無き叫び。
纏う神気は、足が竦むほどの断崖絶壁や遠大な山脈のような威を持つ。
南雲が己を取り戻したのは、ケセド達が蝙蝠人間に変じた後だった。
(BTDが何かしたのか?)
南雲は気絶しているアルスラに飛び掛かる。
白貌の死を阻まんと、蝙蝠人間達が突風となって押し寄せる。
南雲は下卑た蝙蝠のごとき肉体に向かって、白刃を幾度となく振るった。
それによって、僅かな時間が生まれる。
蛇の舌は複数人が出鱈目に囁くような、耳障りな音を放った。
南雲と、4匹の蝙蝠人間に不可視の拳が襲い掛かる。
惨烈な速度と圧力を持ったそれは、透明な大槌を想起させた。
強かに潰された彼らは四散し、赤い霧となる。
無貌の怪物が歩く。
一歩歩き、二歩歩いた時、その身体に変化が起きる。
皮膚が泡立ち、足が膨れ、肩の位置が凄まじく高くなった。
今やその体長は、およそ50m。
無貌は立ち上がると、濃紺に侵されつつある名古屋の空に向かって咆哮した。
ありがとうございました。