紅蓮の海、暴風の剣
趣味で書き始めました。
「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・キモイ主人公。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。
康一は怠惰と別れて、中村公園で一泊した。
夜が明け、正午過ぎに起床した彼は寝ていた家から出ていく。
人目を忍んで歩き、適当な相手を狩る。
狙い目はミュータントや、身なりが極端に汚い人間。
――羽音が聞こえた。
姿勢を低くし、頭上や左右に油断なく視線を向ける。
5秒ほどしてから、成人並みに大きな鳥が4羽、上空を通り過ぎた。
康一に気づいた様子はなく、異能者ではないらしい。
(どうにかして中心部にいかねぇとな)
守山のアイツは封鎖の中にいる。
しかし、愛知県内から1人を探すとなると困難を極める。
人探しに適した異能者に頼むか――マーラに居場所を探ってもらうか。
となると狩りを進めつつ、封鎖の中を捜索するのがよさそうだ。
20分ほどかけて名古屋駅付近にあるビルに辿り着く。
店名が白地に堂々と記されているのは、7月以前と何ら変わりない。
駅前はあの頃には想像もできない程、静かだ。
閑散としたバスターミナルを横断し、康一は名古屋駅ビルに足を踏み入れた。
暗い中央コンコースを闊歩する彼の元に、風切り音が飛来する――3つ。
康一は長槍を取り出し、飛びのいてそれを打ち払った。
現れたのは、畝のような皮膚に覆われた猿の怪物。
飛んできたのは、彼らの指だ。醜く肥大化した両手から、刃の連なりが伸びている。
康一は槍を構え、右の1体に飛び掛かる。
柄の関節が外れ、発芽するようにリーチが伸びた。
胸を貫かれた猿は悲鳴を上げて、奥に後退する。
康一は柄を回転させて、逃げていく猿を強かに打ち据えた。
舞い上がった怪物の脇が裂け、赤い飛沫が上がる。
左側から、蛇腹剣のような指が振りかかった。
康一の手の中で槍が3度回転し、連なりを弾き返す。
(ほとんど足しにならねぇな…)
痛めつけても欲望を回収できた感覚が無い。
人間並みの知性を持っていない相手をいくら喰っても、強化は為されないらしい。
康一は早めに決着をつける事にした。
足元から闇が広がり、黒いドームを形成する。
映像が巻き戻るように闇が引っ込むと、猿型の身体はぐずぐずに崩壊した。
構内から外に出た際、康一は2体の異形に出くわした。
黒いローブに身を包んだ、骸骨のような顔の天使。先端に五角形の突起を設けた杖を携えている。
4本の腕を持つ、巨大な口を持つ人型。
康一が声を発するより早く、4本腕は生え揃った歯の間から、山吹色の光球を吐き出した。
光球が炸裂した瞬間、柱が蝋燭のように解け、石畳が崩れ落ちる。
身を翻した康一は、木っ端のように吹き飛ばされた。
巨大な拳で殴りつけられたような衝撃が背中を襲うが、康一は立ち上がり走っていく。
衣服と皮膚が癒着していたが、痛みは感じていない。
(冗談じゃねぇ…冗談じゃねぇ!)
背後から立て続けに眩い光が迫る。
直撃の回避に成功したのは、視覚に頼らない動作に慣れていたからだろう。
横っ飛びで左手の通路に落下した彼が見たのは、金時計と大きなエスカレーターが、熱したバターのように跡形もなく崩れていく様だった。
視界を覆う火炎の海が、康一の肌に熱い吐息をかける。
康一が顔を向けた時、4本腕は既に黄金色の爆弾の投擲を終えていた。
康一は蹴られた小石のように吹き飛ぶ。
壊死した筋肉は黒く染まり、指一本動かすことはできない。
眼球の水分も蒸発しきり、周囲は懐かしい盲目の世界。
とはいえ、康一はこの程度で死ぬ男ではない。
45分もすれば、立ち上がれる程度には回復できる。
4本腕は崩落した足場を飛び越え、火炎の絨毯を歩いて渡る。
彼らは巡回中の維持局員だ。
康一の怪物とも異能者ともつかない気配を察知し、戦闘態勢を整えて彼を待ち構えたのだ。
首尾は上々。死んではいないようだし、このまま局長たちの元に持ち帰ればいい。
その時、背後に康一とよく似た気配が出現した。
その遙か後方から、飛来する男がいた。
交差点の路上に着地し、弾丸のような勢いで彼はビル内に突撃する。
男は風を纏っていた。
一歩進むだけでアスファルトが舞い、窓が粉雪のように砕かれる。
彼は瞬間的、それも直線に限定すれば、康一以上の高速で動くことができた。
4本腕は全ての腕に鉤爪を装備しつつ、再び大きな口を開いた。
天使は宙空を飛行し、康一に接近する。
骸骨顔は戦闘を仲間に任せ、焦げた死にかけの回収を優先したのだ。
彼の殺傷力は局内でも指折り。自分などいてもいなくても同じだろう、天使はそう考えた。
男――南雲は黄金の輝きを放つ口目がけて突撃する。
崩れかけた天井を割りながら進み、南雲は手に持った剣を一閃した。
柄頭に金緑石を飾った、湾曲した片刃の刀身から歪みが放たれる。
歪みは断裂となって進み、4本腕の身体で止まった。
発射寸前のエネルギーが弾け、人型の頭部を爆弾のように吹き飛ばす。
南雲は右手の店舗前に着地すると、驚愕する天使に向かって跳躍した。
間合いに入った瞬間、曲刀を天使目がけて振り下ろす。
技術の冴えを感じさせない、チャンバラめいた動きだが、そこに乗せられた筋力は児戯では済まない。
天使は抱えていた南雲の身体を放り、杖を両手で掲げて防御する。
両者の得物が交差すると同時に、吹きおろしのような暴風が天使に襲い掛かる。
天使は口を開く。
正面からの打ち合いでは叶わないだろう。
精神干渉を試みたその時、表情の窺えない骸骨の内側が、驚愕に歪んだ。
「ひっ」
自動車と競り合える金剛杖が、音も無く2つに裂ける。
南雲は力を緩めず、剣を振り下ろす。
骸骨の顔に刀身を沈んだ直後、天使の身体が縦に割れた。
足元に内臓や血液がぶちまけられる。
南雲は2人の異形には目もくれず、廃材のように転がる康一に歩み寄る。
むんずと首根っこを掴み、顔の高さまで引き上げた。
「お前、BTDかぁ?」
「……」
南雲は康一が口を利かないとみると、その場に放り捨てた。
太閤通口から外に出た時点で、先ほどの一幕は頭から消えている。
彼はBTDのメンバーを求めて、物寂しい空気に包まれた駅前に走り出ていく。
――何やってんだろうな、俺…。
康一の身体は、生きる事を諦めてはいない。
だが、今怪物に襲われたなら……最悪の結末を迎えない為に、康一はビルの床を這って進む。
少しでも安全な場所に隠れて、復活までの時間を稼ぐのだ。
頼めるものは、己の幸運ただ一つ。
ありがとうございました。