黒い馬の背に乗って(2)
趣味で書き始めました。
「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・キモイ主人公。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。
千種公園の目と鼻の先にある集合住宅地。
浩紀はここに、母と弟と三人で暮らしていた。
彼以外にも41名の異能者が住んでいるが、浩紀に並ぶ感知能力の持ち主は7人しかいない。
とはいえ、これだけの数の異能者の感知網に掠りもしなかった道隆は、かなり運がいいと言っていいだろう。
「おい、何か来るぞ…」
「何だ?」
日の暮れかけた頃、出歩いていた秋月が気付き、近くにいた佐藤に声を掛ける。
気配の印象は異能者ほど純粋でもないが、怪物の不快さとも違う。
例えるなら、無秩序な生ごみ箱のような、混沌とした――臭い。
「これ、維持局に出たっていう…」
「敵だ――!!維持局が探してる連中だ――!」
秋月が叫ぶより早く、気付いた者達は顔を出している。
その間に、気配の主――賢人と翔は集落に接近。
まもなく、空を裂く轟音があたりに響いた。
同じ頃、道隆はまぐろのサクを切りに掛かった所だった。
赤いブロックに出刃包丁を入れた時、結界の魔物が話しかけてきた。
(父上、以前殺害した連中の残党が近くに来ている…)
(あー、みたいね)
気配を感じ取っていた為、驚きはない。
(多分、前園が襲われてるんじゃない?)
気配の距離からいって、浩紀の住居になるのではないか。
(行かないのか?)
(ん~…、行きますかね)
行きたいとは思っていない。
行った方がいい、と判断したのだ。
近場に住んでいる分、浩紀が敵に回ったら面倒だ。印象を悪くしたくない。
助けに行かなかったら、次に会った時に険悪になっているかもしれない。
――つくづく小心者だよな、儂。
切り身から包丁を離し、ラップにくるんで冷蔵庫にしまう。
簡単に身支度を済ませてから、変身を行う――その時、ふと気づいた。
アイツ、変身した姿見たんだよな…このまま向かったらバレるのでは?
間をおかずに現れるなら、近くに住んでいる推測を立てるのは容易。
道隆は靴を急いで履き、玄関から飛び出した。
直後、内的世界から魔物を呼び出す。
青い瞳を持つ、黒い駿馬。
道隆が跨ると、馬は中空を蹴り上げて空に舞い上がった。
若水の交差点に辿り着いた道隆は、浩紀の気配を目指す。
公園が見える頃、広範囲を埋め尽くす微小な気配を感じ取った。
道隆は行先を変え、馬の腹を優しく蹴った。黒馬は後ろ足で立ち上がると、地上目がけてスピードを上げる。
地上では若水のマンション群から、都通にかけて長い人の列ができている。
行進する人々を連れ戻そうとする若い男が、黒馬に乗った道隆に視線を向けた。
(何の列だこれ?)
(魅了だ…操られている)
結界の魔物は、愛知県内で起きるほぼ全ての事象を把握できる。
道隆が仮に、直接支配していたなら同様の知覚能力を会得できたが、性格からいって有り難く思う事は無かったろう。
それを聞いた道隆は内的世界から、一体の魔物を呼び出す。
すっきりした顔立ちの女であり、身体を白いドレスで包み、金刺繍の施されたベストを羽織っている。
彼女は出現して早々、口を開いて歌唱を始めた。
「~♪」
ソプラノでカンツォーネを歌う。
歌声は半径200mまで届き、異能者一般人問わず、突如聞こえてきたその声に聞き入る。
30秒経過してから、変化が現れ始める。
「え…うわ」
「どこ、ここ?」
「寒!なんでこんなトコいんの?」
その能力は精神活動の正常化。
歌声によって、魅了や幻惑、恐怖や威圧など精神異常を癒す。
魔性を帯びた声は通常のそれより減衰しづらいが、30秒は歌い続けないと効果を発揮しないのが難点だ。
「ど、どうなってんの?」
「知らねーよ!とにかく降りるぞ」
高度300mから人の列を見守っていた翔と賢人は、発生した変化に戸惑った。
灯に吸い寄せられる蛾のように歩いていた彼らが立ち止まっている。
降下しようとした時、死角から何かぶつかってきた。
雅音である。維持局が彼らを捕捉したのだ。
「省吾!」
2人の傍らにいた真紅の異形が足場から落ちる。
急速に小さくなっていく姿に向かって、鳥人に変身した雅音は滑空。
変身したままの省吾を抱えるも、彼は身を捩って逃れようとする。
雅音は魅了されたままの省吾を抱えて、拠点に向かって飛んだ。
成長した事で二人の筋力は殆ど拮抗しており、雅音は彼を落とさずに済んだ。
12名の異能者が雅音と入れ替わるように、墜落する賢人と翔の元に殺到する。
いずれも翼の生えた獅子や竜、浮遊するバイクのようなものに乗っていた。
(もう帰って良さそうだな)
道隆は2人の不審者の元に向かわなかった。
13名の異能者が近づいてきているのが分かった為、放っておいても問題なさそうだと、彼は判断した。
黒馬の向きを変え、歌唱の魔物を呼び戻して自宅に帰還する。
その時、道隆は突き上げるような浮遊感に襲われた。
(え、家?)
いつの間にか、道隆は自宅のマンション前にいた。疑問に思って結界の魔物に水を向ける。
(可笑しなことではあるまい?ここは父上が張った結界の内側…貴方の腹の中のようなものだ)
(腹の中…、でも――)
(そして我もまた、父上から生まれたもの。自由自在ではないにせよ、ここは貴方が有利になる空間なのだ)
道隆は周囲の気配を確認してから、自分の部屋に入った。
便利だ、とは思う。それ以上の感想はない。
集落の住人を助けてやったし、これだけやれば後で文句を言われずに済むだろう。
道隆は趣味以外の、興味のないことをあれこれ気にするのが嫌いだった。
コミュニティの異能者達はこの時、道隆の追跡を試みていた。
集落の防衛やら、魅了された住民の追跡やらで外に出ていた彼らは、女性型の魔物を差し向けたと思しき異能者に見覚えが無かった。
変身して近づいた男が声を掛ける直前、彼は一瞬で姿を消した。
中年の女が居場所の探知を試みたが、それも徒労に終わった。
道隆が性質を自覚したことで、結界の隠蔽能力がさらに向上したのだ。
(捕まっちゃうう――!)
翔は掴みかかってきた異能者の男に触れると、能力を発動した。
その瞬間、身体から大きなものが抜けていくように彼は感じる。
翔が発現させていた能力は、異能の簒奪。
男の飛竜を奪い取り、翔は一気に上昇。
墜落する仲間に気を取られた異能者達の囲いを、翔は突破する。
(外に逃げよう)
もはや此処に自分の居場所はない。
本山にいた時は、あくせく働かなくても食べていけた。
状況は変わってしまったのだ。
アイツらに捕まったら、何をされるか分かったものじゃない。
逃走中、様々な怪物が現れ、翔の行く手を阻む。
両腕の代わりに翼を生やした女、10本の脚を持つ小学生並みの体躯の昆虫、光るサンショウウオのようなもの。
翔は飛竜を操りそれらを撃退していく。その度に活力が抜けていき、呼吸が荒くなっていった。
異能者の能力を無理やり操ることで、彼には少なくないペナルティが課せられている。
そして後方からは6名の追手。長くもたない事は、十分想像できた。
ありがとうございました。