黒い馬の背に乗って(1)
趣味で書き始めました。
「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・キモイ主人公。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。
アルスラは秘密基地から去っていった。
残りの、ケセドなど主要メンバーと合流して体制を立て直すためだ。
早苗達は、彼女らを引き留めるようなことはしなかった。
居場所を捕捉できる以上、手元に置いておく謂れはないし、向こうもそれは承知の上だろう。
その後、銀河がゾンビの群れを街に放った時、早苗達は死体を攫っていた。
あまり関心は無かったが、修児に頼まれたのだ。
一宿一飯の恩義、でいいのだろう。
10体ほど夏姫に生きたまま―生命活動をしているのとは違う―転送を頼んでから、2人は秘密基地に帰還する。
「何か分かった?」
「運ばれてきた10体は、完全に死んでいた」
翌日の昼、早苗は修児に尋ねた。
死体は全て検査にかけたが、心拍も呼吸も無し。血圧もゼロ。
角膜が完全に混濁している為、死後四十八時間は経っているはず。
外部から、何らかの力を供給されている事が確認できた直後、一斉に活動を停止。
おそらく10体の主人が死亡したのだろう、と修児は推測した。
「…脳波はどうだった?」
「脳波計も反応なし、だが動いていた。観察した限りでは、自分で思考している様子はなかったね」
「ふーん…」
早苗は考え込むような素振りをする。
「妙な武器を振るう、3人組…」
「マーラっていうのは――」
「仏典に出てくる悪魔だね、比喩なのか…あるいは本物なのか」
「まさか」
早苗が疑わし気にすると、修児は不敵に笑った。
「わからないじゃないか。異能者が現れ、名古屋がこうなったんだ、悪魔がいても可笑しくないと思うけどな」
「……」
「もしいるなら、一目会いたいね」
悪魔と一口に言っても、いろいろだ。
考察するならまず、定義をハッキリさせなくてはならないだろう。
彼らは今の人間を肯定するだろうか、それとも否定するだろうか?
早苗は胸の奥を、不安と期待の混合物が満たしていく。
★
一夜明けた後、賢人は天白区の隠れ家にやってきていた。
彼を眠たげな眼で見つめる、恰幅の良い丸顔の男は風間翔。
飢渇の担当者である。翔は維持局本部が壊滅してから、暮らしていた本山を抜け出して、新聞店の隣に建つ豪邸に潜んでいた。
帰宅する者はなく、翔は家主が死んだものと決めてかかっている。
2人は前の通りを見渡せる、2階の寝室にいた。
賢人はベッドの端に腰かけ、翔はテーブルに座る。
「風間君、お願い!僕と協力して…」
「え~、やだよ。維持局の連中から追い回されるじゃん。却下」
「そんな――!」
「銀河と…えーと恐怖?殺されたんでしょ?無理無理!」
賢人は瞳を潤ませ、俯いた。
「他の奴に頼めよ」
翔は面倒臭そうに顔を顰め、目の前の書き物机に開けられたポテトチップスを掴む。
それを口までもっていき、無遠慮に音を立てて咀嚼する。
この手の劣化が遅い菓子類は、今の名古屋では喜ばれる品の一つだ。
栄養価は期待できないが、とりあえず腹は膨れる。
「他って…」
欲望、疑惑、嫌悪、強情、妄執、そしてこの場にいる飢渇と怠惰。
このうち、確認されていないのが嫌悪と強情。
マーラ復活に意欲的な者は賢人と康一。
康一には、あまり声を掛けたくない。
振る舞いが粗暴なのもあるが、彼は自分を軽く見ているフシがある。
「誰もいないよ――!?」
一切の予兆なく、邸宅が強烈な圧迫感で覆われた。
立ち上がった2人はとりつくように窓に近づく。
表にいたのは、アサルトスーツに身を包んだ数十の人影。
彼らは一様にサブマシンガンを携行し、こちらに油断なく目を配っている。
名古屋市中に散っていた維持局のメンバーである。
「おまえ!!連れてきたな…?尾行にも気づかないで、ここまで案内したんだ!」
「ち、ちがう。僕そんな」
翔は賢人の胸ぐらをつかむ。
賢人が反論しようとすると、床に投げ飛ばして蹴りを入れる。
1mほど吹き飛んだ彼は、悲しげな顔で立ち上がった。
「違わねーだろ!!あれ見ろよ!どうすんだよ、コミュニティにいられねーから、逃げてきたのによォ!!」
「ごめんなさい…」
「ごめんじゃないよ!あー、もう!」
叫んだ直後、壁が爆発した。
反応する間もなく、翔は何かに身体を掴まれてしまう。
顔を逸らした先にいたのは、ささくれた赤い外皮を持つ人型。
目も鼻もない顔で、そいつは人の言葉を発した。
「一人確保!」
「やば~い!!」
翔は己の武装を形成しながら、脱兎のように逃げ出した。
鱗のような無数の金属板が首から足まですっぽりと覆い、胸の前と背中に取り付けられた丸い円盤が急所を覆う。
桃の果実に似た帽体を、錣がすっぽりと包み込む。顔を覆う面甲は、猪を象っている。
この鎧こそ、翔が命を預ける武装。
「離せ!!」
「うるさい!大人しくしろ!」
赤い人型――省吾は鎧の出現に狼狽える事無く、身体を掴む力を強める。
しかし殆ど痛みはない。飢渇の鎧が、その圧力を無効化しているのだ。
賢人は部屋の出入口に向かいながら、左見右見する。
赤い怪人が作った壁の裂け目から、若い女が侵入した。
「おい、賢人!助けろ!」
身を竦ませた賢人は、赤い人型と女に己の能力を放つ。
省吾は手を放し、その場に棒立ちになる。
女は首を傾げたが、思い直して攻撃に移る。
床に沈んだ彼女の頭上を、真紅の拳が横切った。
「え」
振り仰いだ時、腕を突き出した省吾の姿が目に入った。
自分の頭があった辺りを彼の拳が通過しており、潜らなければ諸に食らっていただろう。
「何やってん――」
赤い怪人が顔を傾けた時、女は不吉な予感を覚えた。
胸まで沈んでいた身体を完全に沈めた時、省吾は床を踏み砕く。
女は一階の玄関に姿を現すと、居並ぶ局員達に急を告げた。
「よ…し、おい、このままいくぞ」
「うん!」
賢人の能力は魅了。
普段は殆ど使い物にならないが、その本領は防戦時。
自分に近づいてきた相手に対しては、出力が倍増する。
女は異能者であったが故、まるで効き目が無かったが省吾は別。
異能を扱えるとはいえ、彼は一般人でしかない。
「どこに行くの?」
「とりあえず…どっかコミュニティを襲うぞ!」
「え!?」
豪邸から飛び出し、飛行物に乗った賢人は耳を疑った。
維持局に取り囲まれた状況で、さらに在野の異能者すら敵に回そうというのか?
「一般人だけ襲えばいいだろ!異能者を相手にする必要なんかない!」
「でも」
「名古屋の外に出たら殺されるんだろ?まず力を付けて、それから突っ切りゃいい!」
翔にどやされ、賢人は飛行物の舵を切る。
その判断に疑問はあるが、これ以上口を挟むと手を飛んでくるかもしれない。
一方、翔はというと、自信たっぷりの表情で空を眺めている。
この判断に間違いはない、頭から決めてかかっているのだ。
彼らにもし、異能者のような精神耐性や、魔女の囁きを無視する頑なさがあれば、辿る結末は違ったものになっただろう。
ありがとうございました。




