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それはきっと愛じゃなく(2)

趣味で書き始めました。

「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。

読む前に、以下の注意に目を通してください。


【注意事項】


・ハーレムなし。

・デスゲームなし。

・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。

・キモイ主人公。

・読みづらい。

・残酷な描写や暴力表現あり。

・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。


 夕刻、銀河は賢人と"恐怖"こと山内匠やまうちたくみを引き連れて津島市に入った。

維持局など異能者の目を掻い潜って移動したので、こんな時間になってしまった。

賢人の馬で突っ切る手もあったが、相手の能力次第では潰される。

手持ちの軍団を名古屋に放っておいたし、これだけやれば安全に行方を眩ませられるはず。

"飢渇"も引き込もうとしたが、返事は芳しくなかった。


――やらないよそんなの!別に今困ってないし。


 そんな風に返されたら、流石にどうしようもない。

右隣をゆく匠を見ながら、思った。

整えた短髪に、黒縁の眼鏡。丸っこい鼻梁のどこか愛嬌のある顔立ち。

パーソナルはともかく、聞いた限りでは中々頼もしそうな能力を得ている。

口には出さないが、銀河は匠の異能を、かなり当てにしていた。



 日光川を越え、県道68号を進む3人の頭上から、破壊の雨が降り注ぐ。

青いエイリアン――道隆が放ったそれは数百を超えており、瞬き程の間に半径100mを更地に変える。

長さおよそ2m、直径50㎝の杭達は、道隆の成長に合わせて速度を増し、今や毎秒2500mで目標地点に向かっていく。


「高橋君!、山内君!」

「アッ…うぅ、があァ――ッ!!」

「なんすかこれ、敵?」


 3人は散り散りに吹き飛ばされた。

土手に落下した銀河は特に損傷がひどく、下半身が完全に吹き飛んでいる。

上半身にも強い衝撃が加わり、失神しかけた。即座に復帰できたのは、ひとえに強化の賜物だ。

都市伝説の妖怪のように公道に這い戻る銀河は、高空から降りてくる怪物を見る。


 それは青い皮膚を持つ人型。

装甲で覆った口元と、仄かに光るオレンジの複眼はそいつの心情を窺わせない。

全身を夜色の甲殻が鎧のように覆っている。

寒色系のカラーリングの中、灰白色の手足はよく目立った。

両肘、両膝のあたりが、青から白へグラデーションを描いている。指からは赤い爪が生えており、まるで紅を引いたようだ。


「うわわ…」

「てめぇら闘え!!そいつは俺達を逃がさねぇ!逃がすわけねェんだ!!」


 銀河は発破をかけるが、半分出任せである。

彼らに逃げ出されたら、生き残りの目が完全に潰える。

せめて身体の修復が終わるまで、彼らには生き残ってもらわねばならない。


 川にいた匠は弓を出現させ、金属製の矢を番えようとした。

呼吸が浅くなり、弓矢は取り立ての魚のように手の中で動く。

やっとこさ構える頃には道隆は、匠の元に後一歩のところまで迫っていた。

攻撃に入る直前、賢人の愛車が横から突っ込む。道隆は攻撃ではなく、回避を優先する。

飛行物と道隆はほぼ速度で動いていたが、それは平時の話。


「大丈夫、山内君!?」


 スピードを倍にされれば、青い異形はもう対応できない。

道隆は、ミサイルのような体当たりを喰らい、飛行物もろとも彼方に飛んで行った。


「どうも、サンキュっす…」


 賢人は匠を伴って、銀河の元に駆け寄る。

一旦、街の側に逃げる事を進言すると、銀河はあっさり頷いた。

青いエイリアンは封鎖の外に向かって飛んで行ったので、逃げるなら内側の方がいい。

賢人は下半身を修復中の銀河を背負って、ついさっき来た道を戻る。


――死ぬ訳にはいかない。


 賢人は兄の蘇生を、マーラに願うつもりだ。

優しく、落ち着きのある兄貴。

7月の異変で死んでしまった兄が帰ってきてくれるなら、無辜の人々の命を刈り取るくらい訳ない。


――俺頑張るからさ…、待っててね、兄ちゃん。


 その兄が弟の振る舞いを知って喜ぶか、という部分には意識が巡らない。

マーラの力の一部が取りついた際、賢人の一部を削り取って自分の場所を確保してしまったので。

彼らの魔力によって精神が汚染されていないのは、異能者の残滓によって強い抵抗力を持つ、康一ぐらいのものだった。


 3人の動きが止まる。

全身の血液が石に変わったように重くなり、賢人は思わず倒れこんだ。

魔に近しい肉体は息を止めておらず、痛みを無視すれば行動は可能だろう。

背後から空気を裂く音が迫り、彼らは困惑する。

しばし考えた後、匠が一番先に結論に達した。





 道隆が帰還したのだ。

目方の違いによって吹き飛ばされた彼だったが、霧となって逃げ去ると、速やかに追跡を開始したのだ。

飛行物は空の彼方に飛んで行った。制限距離を超え、彼の内側に戻るまで後10分。

道隆は棒立ちになっている匠を引き倒し、背中から踏みつけた。

ストンプの度に、匠の周囲に波紋のようにヒビが走る。道隆はそれを六回繰り返した。


――コイツ、結構固いな。


 匠は胸の苦痛に苛まれながら、戦慄していた。

このままでは死ぬ。踏み砕かれて死ぬ。

匠は恐怖の中、己に与えられた力を放った。

普段はあまり意味を成さないのだが、今なら十分使いものになるはず。


(止まれ……)


 その瞬間、星々は動きを止め、風は凍り付いた。

匠は時間を止める事が出来る。

持続時間や出力は、匠自身がストレスを感じるほど長くなる。

恐るべき未来の到来を阻む為なら、時間よ止まってくれ。

この拘束を抜け出し、異形の身体に矢を撃ち込めるだけ撃ち込んでやるのだ――その耳に小さな呟きが入り込んだ。


「なんだ今の?……ま、いいか」


 道隆はぶつぶつ言うと、ストンプを再開した。

周囲が静かになったが、そもそも7月以前から恐ろしく静かな町で暮らしている為、特に違和感を覚えない。

近くに人がいれば、何が起こったか正確に把握できただろう。


 同じ頃、和成は薄暮の街の中で、湧いて出たゾンビの群れを処理していた。

召喚したバイクを駆り、栄の観覧車前を疾走。

その時、居並ぶ一般局員やゾンビ達が石像のよう動かなくなり、和成ほか数名の異能者は狼狽えた。

彼らは世界から少しだけ独立している為、時空間による干渉を受け付けないのだ。


 道隆は背中から足を離すと、後頭部目がけて右足を繰り出す。

回収した欲望で踏みつけを耐えていた匠だったが、既に限界を迎えている。

鈍器で殴られたような衝撃が匠を襲い、それが最後の知覚となった。

匠の意識が死ぬと同時に、時間の凍結が溶ける。


――!!?


 賢人は背後に濃密な気配を感じて、震えあがった。

背中には銀河の脈動を感じる。相変わらず息苦しいが、死んではいないだろう。

匠はどうなのだろうか?

粘つく音を聞き、賢人は胴体が裂かれ、ゴミ箱のように内臓をさらした匠の姿を思い浮かべた。

逃げなきゃ殺される!!


 賢人の目と鼻の先で、飛行物が地中から飛び出す。

彼は全身の皮膚が裂けるのも構わずそれにしがみつき、その場から逃走した。

賢人の意識を占めているのは、兄への情と死への恐怖。

銀河の事など、頭からすっぽり抜け落ちている。


(あ、やべ)


 道隆は賢人を追おうとしたが、思い直して銀河に近づく。

銀河はまだ生きており、今や下半身の修復は膝上3㎝まで完了している。

トドメを刺すべく、彼の脳天目がけて踏みつけを繰り出した。

足を離した時、銀河の頭蓋は赤い染みとなっていた。


(父上…、一人逃がしたな)

 

 結界の魔物が見ていたように言う。

それも愛知県全域に己の能力を行き渡らせているのだから、当然だろう。


(その通り。場所は追跡できている)


 道隆は霧に姿を変え、賢人の追跡を開始。

もし封鎖を突破する気なら、殺さなくてはならない。

だが愛知県内で縮こまっているだけなら、見逃してもいい。





 康一が扇川に差し掛かった頃、賢人が慌てた様子でやってきた。

彼は飛行物から降りると袖に縋り付き、早口で何か捲し立てる。

銀河の姿が無いことを訝しんだ康一は、ひとまず彼を落ち着かせた。


「それでね、川を渡ってた時に上から何か降ってきて、みんな吹き飛ばされたんだ。それで高橋君の下半身が無くなっちゃったんだ」

「……続けろ」


 康一は固い表情で、話の続きを促した。

上空から青い怪人が出現、賢人の愛機で吹っ飛ばしたがそいつはすぐに戻ってきた。

原因は不明だが賢人含む3人は身動きが取れなくなり、確かめてはいないが匠は恐らく死んだだろう。


「高橋君置いてきちゃったよォ…、きっともう――」

「泣くんじゃねぇ!!それより、速く案内しろ」


 声を震わせる賢人を、康一は叱責する。

彼の言葉を聞いた賢人は、この世の終わりを見たような表情をした。


「え、ヤダよ!怖いよ、やだやだ」

「だったら俺置いて、てめぇは逃げろ!はやく車を出せよ、俺が殺すぞ?」


 小突かれた賢人は渋々、飛行物を出現させる。

それに乗った2人は、10秒ほどで夕方に戦闘があった地点にやってきた。

あたりは無数の陥没で抉られ、日光橋は使用不能。

屯しているのは、恰好から察するに巡回部隊だろう。

康一はその景色に懐かしさを覚えると共に、身体の芯が熱くなるのを感じた。


「あれって、外から来た連中だろうな……、クソ!」

「蹴らないでよ!」

「うるせぇ!」


 康一は不貞腐れたように顔を逸らす。

だが、間違いなく前進している。あいつはここにいる。

苛立ちと歓喜を持て余し、康一は背もたれを蹴る。

衝撃を受ける賢人は口を尖らせたまま、Uターンして名古屋に帰還した。


ありがとうございました。

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