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それはきっと愛じゃなく(1)

趣味で書き始めました。

「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。

読む前に、以下の注意に目を通してください。


【注意事項】


・ハーレムなし。

・デスゲームなし。

・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。

・キモイ主人公。

・読みづらい。

・残酷な描写や暴力表現あり。

・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。


(なら、こっちに来れば良い)

(ヤダよ。ここ、かなり居心地良いもん)


 本部が壊滅した当日。

午後10時過ぎ、擬態道隆は道隆と交信している。

結界の維持を魔物に託したなら、自分が香川にいる必要はないはずだ。

なぜ、愛知県にいたがるのか?彼は造物主の判断に疑念を抱いた。


(封鎖の中なら働かなくても生きていけるし、改めて説明するのも面倒だ。この3LDKこそ我が黄金郷エル・ドラドよ!)

(…家族が嫌いなのか?)

(いや、嫌いじゃないけど)


 道隆は困惑した。いきなり何を言い出すのか?


(家族を守るならそばにいるのが一番だろう。愛しているのではないのか?)

(愛…。うーん、愛じゃない気がするんだよな)

(どういうことだ?)


 愛、と言われても道隆はピンと来ない。

家族の存在があるから、軽挙に走ることは無かったが、支えや励みになった訳ではない。

能力的にはともかく、精神的に彼らが必要だとは、道隆には思えなかった。

ただ自分は、自力で生命を維持できるほど強くない。自分は甘ったれの、自己中なフリーターでしかない。

その評価は異能者になった今でも、大して変化していない。


(多分、この気持ちは感謝なのだろうと思う。ろくでなしの自分を守ってくれていた借りを返したい、って事)

(同じ事だろう。守りたいなら、側にいればいい)

(それとこれとは別。儂の負担を軽減するために、お前らそっちにやったんだぞ?)

(親父…!)


 擬態道隆の声に怒気が混じる。


(おいどうした?なんかトラブルでもあったか?)

(そういう訳じゃないが…)

(問題が起きたなら言えよ。それじゃ、切るぞ)


 5秒程静寂が続いた後、交信が途切れた。

明日は朝食を摂ってから……結界の調整はしなくていいんだ。

なら、アニメマラソンでもやろうか?

そこまで考えた直後、道隆は眠りの淵に滑り落ちていった。







 道隆は人間関係が長続きしない男だった。

特に非常識な言動をとっていた訳ではないが、学年やクラスが変わると、途端に付き合いが途切れてしまうのだ。

当時はみんなそんな物なのだろう、と疑問に思わなかった。

人間関係には継続する努力が必要なのだ、と気づいた時には道隆は既に高校生となっていた。

おかげで友人はいなくなったが、それはいい。校内での時間潰し以上の意味を、彼らに求めてはいなかったから。


 ただ今の社会は、向上心もなく協調性もない人間がやっていけるように出来ていなかった。

おかげで他人とかみ合わないことしばしば、腹が煮える事はしょっちゅう。

だが、そんなものだ。努力を怠った自分が招いたものだし…彼らは自分ではない。

自分の中には、「自分」さえあればいい。自分が咀嚼した「他人」さえあればいい。



――道隆は気付いた時、高校で授業を受けていた。


(なんだ…!?ここは、学校!?)


 30人ほどの教室を、世界史の講釈が満たす。

周囲には既視感のある顔ぶれが、自分と同じように座っている。

靄のような印象しか残っていなかった、高校時代の授業風景であった。

真面目に聞き入っている者もいれば、近くの席の生徒と小声で無駄話をする者もいる。


(お、落ち着け。儂が卒業したのは、大分前だ…)


 意識を引きずる手の感触を振り切り、道隆は現在を取り戻す。

そうすると見える。妖気を発するものが。

発生源は廊下側から数えて、2列目。真ん中の席の生徒。

名前は憶えていない。


「どうした、紀里野?」


道隆が座っているのは窓際から数えて2列目の最後尾。

席を立ち、椅子の背を持つ。

そこからバネ仕掛けのように発生源の生徒に飛び掛かる。

教師が叫び、周囲の生徒も立ち上がる。


――間に合わない。


 殴りかかる前に妨害されそうだ。

道隆は空中で上半身を引き、ブーメランのように投げつけた。

椅子は独楽のように回転しながら発生源の生徒に迫り、その後頭部を掠める。

その直後、周囲の景色や生徒達、教諭が写真がちぎれるように消え去る。

後には、白一色の空間が残された。


 道隆の身体は高度を下げ、しばらく落下感を味わう。

床をイメージすると足元に確かな感触が生まれ、落下が止まった。


「資格を持つものよ、我を受け容れろ」

「あ?」


 声の方に顔を向けると、草臥れたスーツののっぺらぼうが立っていた。

道隆は相手に歩み寄り、その頭髪を掴む。無貌は必至で逃れようとあがくが、右腕1本動かせない。

顔に指が当たり、爪が頬を引っかくが道隆は拘束を緩めない。


「我を受け容れろ…。さすれば汝の魂は――」


 のっぺらぼうは口の無い顔で、そこまで言い切った。

無貌が言い終える前に、道隆の右足がはねた。覚者に挑んだ、天魔の片鱗。

それが成って1年足らずの魔人に屈服させられようとしている。

道隆は空いた左手で顔に爪を立てた。指には肉をちぎり取りかねない程の力を籠っている。

スーツ姿の足が滅茶苦茶に動くと、道隆もローキックを繰り出す。


 此処は現実ではない。異能者の力は関係ない。ただ、彼は閉じていた。


――我と彼は違う。


 家族だろうと他人は他人。"自分"に代わるものなど、どこにも存在しない。

道隆は自分の都合以外に、確固とした価値観を持ち合わせていない。

自分のみ支えとし、自分を敬い、自分を愛おしく思う。


「我を受け容れぬのか!お前に栄光をもたらす――」


 のっぺらぼうは道隆の両脇を抱え、投げ飛ばさんとする。

しかし持ち上がらない。巨岩のように道隆は重い。


――?


 道隆は両手を離し、のっぺらぼうの首に指を回す。

そのまま指先が白くなるほど、力を入れた。

のっぺらぼうが足を踏みつけようと、顔を引っ掻こうと決して離さない。


 彼が自分にさらなる力をもたらす事は、道隆も承知している。

道隆は、降って湧いた異能者の力を振るう事に違和感を覚えない。

彼は今の自分を肯定するから。

25歳のフリーターでもいい。ある日突然異能者になってもいい。

過去でも未来でもなく、今の自分こそ第一。今どうしたいかが大事なのだ。


「お前がどこの誰だか知らないがな?儂の心に踏み込んで、生きて帰れると思うなよ!」


 道隆が吼えた直後、のっぺらぼう…"強情"の首が折れた。







 道隆が意識を取り戻した時、そこは自宅から5分ほど歩いた、大通りだった。

交信した翌日の朝。手荷物は無事…といっても新調した財布くらいだが。

そう、段々思い出してきた。今日は朝から、封鎖の外にある同人ショップに向かおうと思っていたのだ。

戸締りは改造した錠前を使っているし、そもそも結界による隠蔽を区切りぬけて侵入する空き巣など滅多にいない。


(そしてこれはなんだ?)


 道隆の左手にはいつの間にか、一冊の本が収まっていた。

革表紙を開くと羊皮紙のページが現れ、そこには英語らしき文字が規則的に並んでいる。

もっとも、道隆の英語レベルは高校で習った切りなので、書いてある内容を読み取ることはできない。

表紙を閉じようとした時、本は白い粒子となって崩れ、風に吹かれて跡形もなく消え去った。

道隆の鼻腔を、甘い桃の香りがくすぐった。


――もう行こ…。


 道隆は自宅から離れ、封鎖の外に移動するべくクラシックカーの出現場所を探す。

異能者である事は派遣ネットの関係者なら知っている。

しかし、悪目立ちはごめんだ。不要なトラブルを招くくらいなら、鼠のように人目を忍ぶ事も辞さない。


(父上…)


 驚き、道隆は立ち止まった。

結界の魔物の声がする。ほとんど覚醒状態なのに何故?

その疑問には、魔物自身が答えてくれた。


(どうやら貴方は成長したらしい…、私に供給される力の量が増えている)


 道隆は脇道に入り、手近な建物の壁に背中を付ける。

交信中は多少、五感が疎かになるが問題にするほどではない。

道隆は妄想に耽り、注意力散漫になる事がしばしばあった。

7月以前ならともかく、今の名古屋ではそれが命取りになるかも知れないが。


――何の用だいきなり?


(良くない報せだ。異能者ともミュータントともつかぬ者どもが、街を出ようとしている…)


 あぁ、本当に良くない報せだ。

道隆は異能持ちとは、極力戦いたくない。

保有する能力次第では殴り合いの喧嘩を超え、即死技の撃ち合いになるかも知れない。

自分一人ならまだいい、戦端を開いた自分が未熟なだけだから。

しかし今死ぬと、身内――家族に累が及ぶ。となると無暗に戦ってはいられない。少なくとも後50年は。


ありがとうございました。

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