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新人類狩りと夜の空(1)

趣味で書き始めました。

「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。

読む前に、以下の注意に目を通してください。


【注意事項】


・ハーレムなし。

・デスゲームなし。

・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。

・キモイ主人公。

・読みづらい。

・残酷な描写や暴力表現あり。

・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。


 草臥れた中年男が深い緑色の瓶を傾ける。

甘い香りが鼻腔をくすぐり、体の芯が焼かれたようになる。

瓶の中身は既に1/3。男――南雲はかなりのピッチで酒を呷っていた。


――だから言ったじゃないか。


 あの…BTDは信用できないって。

アイツらは周囲を嗅ぎまわった奴をさらっているんだ。

殺したのか、洗脳したのか、さらった標的をどう扱うのか知らないが、とにかく危険なんだ!


「おい…」


 南雲は今池のディスカウントショップ前で、5人組の男達とぶつかった。

5人組の一人、背の低い金髪が、歩き去ろうとする南雲に声を掛ける。

この辺りは中々人が多く、複数の異能者が感知範囲に収めている。

周囲に気を付ければ一般人が非武装で歩ける、比較的安全な地域である。


「おぉ?だから言ったろうが!」

「いや、謝れって」


 南雲5人組に気づくと、大股で近づいていく。

金髪は困惑した様子で謝罪を促す。


「なんだ!?俺の言うこと分からないか!?」


 金髪の後ろに控える4人は目配せをする。

彼らは仲間をどかせると、大通りから路地に酔漢を引きずり込んだ。

目撃者は6名いたが、いずれも助けに入ろうとはしなかった。

酔っているとはいえ絡んだのは南雲の方、自業自得である。


「じゃあな、オッサン!」

「昼間っから酒飲んで、暴れてんじゃねーぞ」


 数十分かけて憂さを晴らした5人組は、その場から悠々と去っていく。

後に残ったのは、襤褸切れのような男一人。

原形をとどめないほどに顔を腫れさせ、肋骨が3本折れている。

胃や腎臓にも強い負担がかかっており、顔の周りには吐瀉物が広がっている。


『資格を持つものよ…、我を受け容れろ…』


―あ~?


 乱回転する思考の淵に、その声はよく響いた。


『資格を持つものよ…、我を受け容れろ…。さすれば汝の魂は永遠となり、望みを遂げられる新しい肉体を得られる…』


――おー、望みー?


 いっぱいあるぞー。

竜二に会いたいしな、あぁさっきのチンピラどもに仕返ししたいな。


『我が名は嫌悪。汝の願いを聞き届けよう…』


 脳髄がかき混ぜられる。

眼球の裏がじんじんと熱を持つが、不快ではない。

絶頂にも似た、蕩けるような甘さ。

南雲は思わず失禁し、口からは唾液が零れる。


 ややあってから南雲は立ち上がる。

その顔はしゃっきりしており、先ほどの酔漢と同一人物には見えない。

それもそのはず。今の彼は人間ではなく、マーラの魔力を受けた超人なのだ。

南雲は澄み切った思考で大通りに目を向けると、ミサイルのように跳躍した。








 熱田区の神宮前。

ここにはミュータントの集落が築かれている。

熱田区役所や文化センターなど、神宮前駅の周囲およそ300mにある建物は全て彼らが抑えている。

それ以外の通行路も瓦礫の山で塞がれており、建物にも目張りされ、一帯はちょっとした城郭都市と化していた。

そのうち、神宮東門交差点、三本松交差点、熱田駅前交差点には関所らしきものが作られている。

熱田神宮も無論、彼らの支配下だ。森に不用意に立ち入ろうものなら、悍ましい姿の男女によって、即座に捕らえられるだろう。


 彼らの主な食糧源は、文化センターのすぐ北にある。

幹の幅およそ40m、高さおよそ100mの大樹。

そこの枝に成る、極彩色の果実達。

ミュータント達は食事の選り好みなどしない。味は悪くないし、これと変異動物で十分だった。


「あの、普通の料理は食べないんですか?」


 午後1時近くの旧熱田神宮前商店街。

ここでは数名のミュータントが、集落で手に入った食材を調理し、住人に振舞っていた。


「はい?……ありがとうございます。体調に問題はありませんし、僕はこれで大丈夫です」

「そうですか」


 千晃はスティックパイを齧りながら、答えた。

生地に使う牛乳やグラニュー糖は、敷地内で発見されたダンジョンで生成したものだ。

中には大樹からもいだ、青いリンゴを詰めている。

青と言っても爽やかな緑ではなく、ペンキで塗りたくったような毒々しい青色。

生食でもパイでもなぜか酸味が強いままだが、果実群の中では比較的癖が無く、城壁内では食料として用いられている。


――それもミュータントの肉体あってこそだが。


 彼らの肉体は人間よりずっと融通が利く。

しかし、その外見は悍ましいほど無秩序。

彼らが怪しげな果実を平気で口にするのは味覚の劣化に加えて、いつ死んでもいいという、無鉄砲さからだ。

だが、自分達は人間であり、獣ではないという自負がある。

それが彼らに衣服を纏わせ、料理や繕い物をさせるのだ。


「涼葉さんは大丈夫ですか?僕に付き合わなくてもいいんですよ」

「え、あぁ、うん。大丈夫…。平気だよ~」


 千晃は一人で食事を摂っていた、山岸涼葉の隣に座った。

彼女には大しては、常に申し訳なく思っている。

ミュータント云々に関心はなく、自分への付き合いでここに残ってくれているのが、千晃には分かっていたから。


「あの…千晃さん!侵入者が」

「解りました。どこですか?」


 一体のミュータントが急を告げる。

食べかけのパイを口に押し込み、千晃は立ち上がった。


「あ、千晃君!」

「なんですか?」

「……無理しないでね」


 愛想笑いで応えてから、千晃は踵を返した青年―声音は若い男のそれだった―に同行する。

案内された先は、熱田神宮の文化殿前だった。

そこでは4人の若い男女が、両手足を縛られたまま転がされている。

いずれも顔中赤く染まっており、半死半生と言った様子だ。


「彼らですか…」


 男女を囲むように立っている5名の一人が、憤然とした様子で頷いた。

カメレオンのようにぎょろりとした目が、千晃を射抜く。

先ほどから鳴っている擦過音の出所は、背中から突き出た10本の突起だ。


「目的は…盗みですか?」

「それとミュータント狩りですよ」


 カマキリのような下半身を持つ女が、右腕で指し示す。

そこにはナイフや金属バット、中身の入ったポリタンク等が雑然と並べられていた。

いずれも日常―厳密には、7月以前の日常―で手に入れられる、凶器だ。


「へ…へめぇは」

「?」

「へめぇひはいのはひふはは、ほいふはふへははんだはお」


 歯を折られた男が、恨みがましい目をしながら言った。

千晃は彼の言わんとする所を察し、溜息を吐く。


「どうします?」


 カマキリ女が千晃に尋ねる。

その両腕には間接がなく、さながら蛇のようだ。

本来あるべき場所に首は無く、彼女の頭部は両手首に存在する。同じ顔が2つ。


「そうですね。…両手足の腱を削いでから、声帯を取ってください」

「いつも通りですね。了解」


 5名の男女が聞くに堪えない罵倒をまき散らす。


「はいはい、す~ぐ楽になりますからね~」


 一人のミュータントが猫撫で声で近づく。

彼は背中から生えた6本の触手を男女に突き立て、そこから麻酔液を注射した。

3つ数えるうちに彼らは静かになり、まもなく糸が切れたように動かなくなった。

これから日が沈むまでは、彼らは起きないだろう。これまでの侵入者も、みなそうだった。


(けど…これは対症療法だ)


 本音を言うと、ミュータントと人間達が和解すればいい。

同じ市民なのだから、助け合える――憎み合う以外の選択はできるはずだ。

しかし、人間達はミュータントをないがしろにし過ぎた。

この憎悪を収めるには、どちらかが武器を捨てなければならないのだろう。

だが、ミュータントの方から先に心を開けとは、千晃にはどうしても言えなかった。


ありがとうございました。

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