復活する暗黒の虹(3)
趣味で書き始めました。
「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・キモイ主人公。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。
「何だアイツら…?」
和成が声を漏らすと同時に、本部の壁が炸裂。
そこから人影が2つ飛び出してきた。
影が交差する度に暴風が吹き荒れ、本部の壁面が砕けていく。
屯していた局員達は散り散りになり、和成も省吾を抱えて逃走。
轟音が止んだと見て、2人は本部を振り返った。
その場に立つ影の片方は康一。
肩の傷は癒えており、衣服が欠けた分素肌が晒されている。
しかし右上腕と右膝に穴が開き、左腿と脇腹に深い切り傷。首から鎖骨にかけて一文字。
全身から出血しており、ゼエゼエと息を切らせている。
もう片方は女のような人型。
頭部は巨大な嘴だけしかなく、ベージュの体毛に覆われた上半身は惜しげもなく晒されている。
その代わり、下腹部には孔雀のような五色の羽がスカート状に並ぶ。
篭手は両腕と融合し、肥大化。
前腕部は笹の葉のような形状の装甲と鋭い爪を備える。
「おっと!」
鳥人が右腕を振り上げると、路面に亀裂が走った。
闘志が波動となり、アスファルトにヒビを入れる。
康一は転がるようにその場から離れ、不可視の爪撃を躱す。
局員達が遠巻きに見守るなか、康一の後方およそ20mにいた男の頬を風が撫でた。
「ゴメン!」
「だ、大丈夫!」
鳥人は男に詫びながら、康一に向かって飛ぶ。
それと並行して、翠色の刃を放つ。
刃が生んだ突風が車線を区分する柵が曲げ、街路樹が吹き飛ばす。
「後ろだ!」
身を屈めたまま拳銃を取り出した和成が叫ぶ。
建物に留まっていた闇が飛び出したのだ。
闇は粘液のように動き、無数の弧を描いて雅音に殺到する。
鋭いエッジを持つ両脚によって切り裂かれた影は、音も無く康一の足元に吸い込まれていった。
そこに2人組の飛行物が突進。
スラスターが噴き出す炎の勢いが増し、康一と雅音目がけて降下。
まき散らす突風が近隣の家屋を撫で、窓ガラスを揺らす。
雅音は念力で生み出した風に乗って、その場から急速離脱。
康一は2人と視線を合わせた後、低空を滑る飛行物に飛び乗った。
「てめぇら…、妙な気配がするが何なんだ?」
「話はあと。撤収~」
康一が乗り込むと、飛行物はその場から飛び去った。
その速度は時速1200㎞。
局員達の誰よりも早く、鳥人――雅音が反応した。
アスファルトと強風はカタパルトであり、射出される彼女は戦闘機。
滑空する雅音は見る見るうちに距離を縮める。
「マジか、追いついてきた!?」
「面倒くせぇな」
「立たない立たない。橘~」
少年の席に身体を押し込んでいた康一が立ち上がろうとする。
それを少年が両手で抑えこんだ。
橘、と呼ばれた男が舵を切ると、飛行物は空中で反転。
露になっていた座席を、肋骨のようなアーチが包み込む。
飛行物は迫りくる雅音に向かって、突撃した。
「うそ…!?」
橘は愛機の枷を外しており、その速度は先ほどの3倍。
飛行物は空気を爆発させながら進み、眼前の鳥人を轢く。
一瞬の邂逅で皮膚がちぎれ、雅音の筋繊維が悲鳴を上げる。
橘は落下する雅音を一瞥することなく、向きを変えてそのまま逃走した。
20分ほどしてから、康一は中川区にあるパン屋にやってきた。
二階から上は店主らの住居らしいが、今は出払っている。
その隙に、橘らが自分達の寝床にしてしまったのだ。
康一が通された部屋は2LDK。
玄関を上がった左手に洗面所があり、その奥が浴室。
右手には洋間が2つ。
居間にはソファと脚の低いテーブル、液晶テレビが置かれている。
「ここがお前らのお家か?」
「そんな感じ~☆ま、ここだけじゃないけど」
ソファに座って煎茶を飲んでいた大柄な男がこちらを振り向いた。
「ここ、電気通ってんのか?」
「通ってないよ。カセットコンロパクってきたから、それ使ってんの」
少年は高槻亮と名乗った。
特徴のない顔立ちだが、逆にいえばそれだけ整っているという事。
軽い笑みを浮かべているその顔には、どこかアンニュイな雰囲気が漂う。
身長は、外見年齢を鑑みれば平均程度だろう。
それから身なりの小奇麗な30手前の青年が橘賢人、煎茶を飲んでいた大柄な七三分けが池崎輔と続く。
「君、顔見たことあるよ。バイク乗りの中にいたよね?」
「おぉ、知ってんのか。アタマ張ってたんだよ」
「へー、レインボーズの。暴走族だったんだ?…だから捕まってたのか」
康一はふと、レインボーズの部下達に思いを馳せた。
本山で別れたきりだが、彼らは健在だろうか?
ボス、と呼んで縋りついてきて、顎で扱き使える男達は何のかんの言って便利だった。
それに、僅かだが情も湧いている。元気ならいいが…。
「で、こりゃ何の集まりなんだ?」
「記憶の深い部分に刻まれているはずだよ?よく思い出してごらん」
「あ…?」
康一は気を落ち着け、情報を引き出そうとする。
まもなく、意識の深層から断片が次々と浮かんできた。
「マーラの軍勢?」
マーラ・パーピーヤスあるいは第六天魔王。
他者を欲望に沈め、その快楽を我がものとする煩悩の化身。
かつて、瞑想に入った覚者に襲い掛かった強力な魔性。
その力を受けた、9人。
「俺が"欲望"。橘が"怠惰"、池崎が"疑惑"」
「他は?」
「あとはー、"虚栄"と"飢渇"、で"恐怖"。あ、アンタは何?」
「…"妄執"」
亮は納得した様にうなずくと、奥の部屋に引っ込んだ。
「おやすみ~」
「おい!」
「あ、後は私が引き継ぐから、怒らないであげて」
輔のなよっとした調子に、康一は棘を抜かれてしまう。
瞳は犬のように潤んでおり。怒鳴りつけようものなら泣き出しそうだ。
「亮君は寝るのが好きなんだよ、食事したり、エッチするとき以外は、大体寝てるんだ」
「……ハァ」
康一はげんなりとした顔で、小さく息を吐いた。
亮が康一の元に現れたのは、顔を確認する為だ。
どんな人物なのか?それを確かめた時点で、一気に興味が失せたのだ。
康一は気持ちを切り替え、輔に向き直る。
「で、マーラ?を復活させろってことだけど」
「うん、でも強制じゃないよ。高槻君は興味ないみたいだし、私もあんまり乗り気じゃないんだ」
「なんで?」
「凄い魔王らしいからね、マーラって。話が通じるかどうかわからない相手を、下手に蘇らせなくてもいいと思わない?」
"虚栄"や"怠惰"はマーラ復活に意欲的だが、封鎖の外で行動を起こすつもりらしい。
本人達曰く、わざわざ名古屋で復活させなくてもいいだろう、とのこと。
異能者がわんさといるこの街より、外の方が動きやすいはず、という意見なのだ。
「橘だったか?」
「なに?」
「外に行きたいくせに、なんでここにいるんだ?」
「あー、仲間増やしたいからさ。皆乗り気じゃないし、一緒に行動してくれる仲間は一人でも多い方がいいよねって高橋君と話したんだ」
賢人はしまりのない微笑を浮かべた。
康一は静観か行動か、どっちにするか考え…
――お礼参り済ませてねぇもんな。
と思い至った。
パーキングエリアを破壊した何者か。
男か女すら分からない誰かを捜索したい。
その過程で、マーラが復活するならそれもいい。魔王なんぞ別に恐ろしくもない。
ありがとうございました。