復活する暗黒の虹(2)
趣味で書き始めました。
「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・キモイ主人公。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。
「本邦初公開、俺を退屈させるなよォ!」
康一は足元に沈殿する、黒い戦意を解き放った。
闇が維持局本部内を包んでいく。正史郎に殴られた後、彼の中に残ったのは身体強化のみ。
気配感知は劣化し、視界と同程度の距離にしか機能しない。そして保有していた力は3つとも失われた。
これはその代わり。これから命を預ける、彼の武器。
新たな能力の発動は、たちまち局員達の知るところとなった。
本部内が闇に包まれると同時に、困惑が建物を満たす。
蛍火ほどの光すらない、完全な黒。
視界が暗転した直後、闇の中にいた全員の身体を焼けるような痛みが包み込んだ。
「ひィッ…!」
異能者の男は視力を強化して、自身に起こった変化を見てしまった。
右手の皮膚が溶け落ち、骨まで露出していたのだ。
身じろぎした拍子に衣擦れが起こり、痛みが体中を駆ける。
服の下でも同様の変化が起こっているのではないか、と男は連想した。
慄然とした彼は失禁。それがまた激痛を催したが、強化された精神は彼を眠らせてはくれなかった。
「ぐぅ――ッ…」
建物の一室、眼鏡をかけた若者――館石省吾は変身を行う。
白い燐光が弾けると、省吾と入れ替わりで、赤い異形が出現した。
筋骨たくましい、ささくれた赤い外皮を持つ人型。
8本の角が生えた、ワニのような口から声が漏れ、暖かな炎が蹲る局員を包み、天井を舐める。
「うぅ…すまない」
「俺は外の様子を確かめに行く!どこか、安全な所へ!」
省吾は廊下に出ると、出会う局員の傷を片っ端から治癒する。
異能者は自力で歩ける程度に耐えていたが、一般局員は異変が始まった時点で動けなくなった。
皮膚が溶け落ち、筋肉が潰したイモのように崩れていっているのだから当然。
彼らも異能による強化を受けていたが、それで埋まるほど、異能者と一般人の差は小さくない。
省吾は力を授けてくれた友人に何度目かの感謝をしつつ、破壊音に向かって走る。
変身するのが遅れていたら、彼らと同じ運命をたどっていただろう。
床を叩き割り、下の階層に落下。巻き込まれた仲間がいたなら、炎で治す。
「おォほッ――!結構、やるなぁ!」
2階に降りた時、戦闘音が耳に入る。
闇に身体を喰われながら走っていた省吾だったが、視界の確保をかねて治癒の炎を纏って対処。
破壊力が無い為、燃え移る心配はない。
2階に入ってすぐ、3名の局員を相手取る革ジャンの男が目に入った。
彼は長い槍を振るっていたが、それは時に杖のように固く、鞭のように柔らかい。
省吾は局員達の元に駆け寄り、彼らの負傷を癒す。
「面倒くせぇのが来たな…」
「ありがと、省吾」
「あぁ、気にするな。これはお前だな、梅崎!」
緑色の鳥人――雅音は己の武器を取り出した。
右手に出現したのは、前腕ほどの大きさの刃を生やした小振りな鎌。
見るからに凶悪なフォルムをしており、雅音はこれの使用を好まない。
しかし、今はそんな我儘を言える状況ではない。
雅音は軽やかに距離を詰め、康一の脳天目がけて鎌を振り下ろした。
康一は雅音の右手を切り落とし、続けて刺突を繰り出す。
動作を終えて硬直したところに、火線が6本飛んできた。
康一は上半身を思い切って倒し、宙返りで間合いを離す。飛んできた炎は槍で払う。
着地する直前、ボストン型メガネをかけている女局員が3発撃った。
そのうちの1発が康一に命中。弾丸は右鎖骨を砕き、通路の彼方に抜けていく。
シングルアクションの回転式拳銃だが、その威力は見かけ以上。
僧帽筋が抉れ、右腕が殆ど千切れそうになっている。
康一は多節槍を落とし、笑っているような怒っているような表情を浮かべた。
「いい気になってんじゃねぇ!」
康一が4人に吼えた直後、黒い杭の群れが両者の間に出現。
それを見た瞬間、省吾は変身していない2名を抱えて、左手の壁に突撃する。
壁は真紅のタックルであっさり砕け、彼らは2階にあるオフィスに飛び込んだ。
その時、右足がふらついた。
(もう燃料切れか!?)
省吾の友人の異能者――松岡健介は親しい相手と能力の共有を行う事が出来る。
一般人に異能者の能力を使わせることができるが、自由自在とはいかない。
能力を使用する度に相応の体力を消耗し、その激しさは異能の使用頻度に比例する。
計算を誤ったのか?
――どうする?
抱えた2名と自分の傷を癒しながら、省吾は思案する。
この闇の中では闘わずとも負傷していく。
異能者ですら傷つくのだ。一般人からは、既に犠牲者が出ているかもしれない。
「おーい!!外だ―!」
省吾が悩んでいると、遠くの方から声が聞こえた。
「外は無事だぞー!!外に出てこーい!!」
省吾は、声の主が和成であると思い出した。
外?ちょっと思案したが、蘇った痛みがそれを打ち切らせた。
省吾は治癒の炎に包まれた二人を抱えて全力疾走。戦車のようにデスクを吹き飛ばしていく。
真紅の異形は壁を突き破り、雲のかかった青空に身を投げた。
「省吾か!怪我は!?」
「俺は平気だ。だが、矢上がまだ中に…」
力の限り跳躍した省吾が落下した地点は、敷地の端に近い。
砲丸のような重量感をもって地面に激突。
その直後、省吾の変身が解けた。脱出まではもったが、もう一歩も動けない。
省吾は横になり、冷たい路面の感触を肌で味わう。
本部の外、植込みのあたりに立っていた和成が落下した省吾に駆け寄る。
省吾は抱えた二人を離し、闇で満たされた建物内に這って戻ろうとした。
雅音がまだ戦っているはずなのだ。
「市村!」
「あー、局長…省吾は無事っ――あ?」
外にいた局員の何割かが、同じ方を向いた。
――新手か?
維持局での活動経験から、省吾は連想した。
いや、それより矢上の方だ。
新手は、外にいる所長たちに任せればいい。
建物内に戻ろうとした省吾の耳に、轟音が近づいてきた。
午後2時過ぎの空の向こうから現れたのは、若い男の2人組だった。
彼らは戦闘機とバイクを混ぜたような、奇妙な物体に乗っている。
物体には車輪が前方に2つ、後方に1つ備えられているが浮遊している現在、それらは動いていない。
フロント部分は黒と銀の2色で塗られ、形状はクジラを思わせる。
「ねぇー、ついたよー」
「んー?」
飛行物は複座式であり、前方の席に座る30近い男は、リラックスした様子で省吾たちを見下ろしている。
運転席の後ろでは、ぼさぼさ髪の少年が船を漕いでいた。男より若く、高校生くらいだろう。
男は背後に顔を向け、少年の身体を前後に揺らす。
少年は身体をビクッと震わせ、二度三度目を瞬かせてから男を見た。
「あれ、いっぱい外に出てるけど…」
「んー?中で何かあったんじゃない?」
少年は席から身を乗り出し、地上の局員達をしげしげと観察する。
両者の距離は徐々に近づいており、この時点でおよそ30m。
この間、後輪の両サイドで羽を広げたようなスラスターが、炎を静かに吹き続けていた。
ありがとうございました。