復活する暗黒の虹(1)
趣味で書き始めました。
「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・キモイ主人公。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。
緑区の市立病院のそば。
斎藤は見知った3人と歩いていた時、異様な風体の男とすれ違った。
褐色の皮膚、灰色に濁った眼。
気づいた4人は思わずギョッとし、潮が引くように道を譲る。
「怖ェー」
「なんだあのオッサン…」
「あれ、ゾンビじゃね?」
斎藤はちょっかいを出すか否か相談を始めた3人に注意し、自宅を引き続き目指す。
異能者ならぬ身では、この街では簡単に死ぬ。
好んで危険に首を突っ込む必要はないと思うが、6か月経って慣れてしまったのだろう。
この時、ちらと背後を振り返ったのは、斎藤の人生において大きな幸運の一つになった。
「おい、どけ!」
不潔な男が、連れに向かって右腕を振り上げていた。
斎藤は連れが羽織っていた上着を引っ掴み、手前に引く。
引き倒された1人は上ずった声を上げ、後の2人は一目散に逃げだした。
「怪我は!?」
「だいじょぶ!」
4人はゾンビめいた男の元から、走り去った。
男は4人を追い回すが、徐々に距離を離されていく。
5分近く経ってから、男は追跡を止めた。
男は身を翻し、やがて寂れたマンションに入っていった。
「1人帰ってきたよ、どうだった?」
それを向かいの家の2階から1人の男が見ていた。
男―険の無い坊ちゃん風は、背後に声を掛ける。
その後ろに寝転がっているのは、派手な格好の若者。ゾンビの主だ。
「おぉ、回収できたぞ」
「ふーん、殺した?」
「当たり前だろ?」
坊ちゃん風は特に追及せず、またマンションに視線を戻した。
嘘をついているのでは、とほんの少し考えたが、自分が損するわけではないので、変にほじくるのは止した。
彼が視線を向けているのは、区内に幾つも設けられた、ゾンビの巣の一つである。
後日、4人は同地区に住む異能者に報告をあげた。
同様の目撃例があちこちから幾つも寄せられており、同地区に住む異能者がこれらを掃討に向かった。
ゾンビらしき者達は攻撃を受けた途端に機敏さを増し、並み外れた膂力で異能者に攻撃を加える。
彼らの身体を調べた所、死後数日は経過している事が分かった。
午後2時、康一は闇の中で覚醒した。誰かに呼ばれたような気がしたからだ。
しかし、聞き耳を立てても話し声は聞こえない。
また眼窩には空洞しかない為、何も見えない。
それでも生きていられるのは、精神力が肉体を護る異能者ゆえだろう。
〈何だよ…、夢でも見たのか?〉
康一は再びどん底に落とされた。
本山の戦闘で維持局長、正史郎の拳を食らって倒れた。
拳がもたらす罰によって、所有していた異能が破壊されたのだ。
本来強化に回るべきエネルギーが生命維持に回されており、檻を破ることもできない。
隻腕盲目となった今、留置場で飼い殺しになる以外に出来ることは無い。
〈クソが…〉
心の中で、康一は毒づく。
『資格を持つものよ…、我を受け容れろ…』
〈何だ!?〉
康一の脳裏に、声が響く。
性別の判然としない声だが、発言の内容ははっきり理解できた。
『資格を持つものよ…、我を受け容れろ…。さすれば汝の魂は永遠となり、望みを遂げられる新しい肉体を得られる…』
〈あぁ!?誰だてめェ!!〉
声の主がどの程度離れているのか、康一には分からない。
『汝の悲憤が、怨念が我を引き寄せた…。』
〈うるせぇ!黙れ!!〉
聞きたくもない話を長々と垂れるとは、気に入らない。
康一は両足を使って立ち上がると、左腕を出鱈目に振り回す。
手応えは全く無く、謎の声は牢の中を行ったり来たりする康一に話し続ける。
『我を受け容れぬなら、それもいい…。だが、我より後、汝に手を差し伸べる者が現れるかな?』
〈……〉
声には呆れたような調子が滲んでいた。
康一もちょっと考えてみる。
今の自分には何もできない。異能者の怪力は発揮できず、牢は破れない。
腹は全く減らないが、周囲の様子がほとんど分からない。
何か変化を起こさなければ、いずれ自分はここで死ぬのだろう。
『これで最後だ。我を受け容れるか?』
〈……あぁウゼェ。よこせ!もらうぞ、お前の力!〉
康一は腹を括った。
裏があるのは分かっている。
相手が自分を利用するなら、こちらも利用する。
向こうが喰うより早く、こっちが相手を喰い尽くす。
『我が名は妄執。汝の願いを聞き届けよう…』
全身に巡る血液に、頼もしい熱が注がれる。
精神力が抑え込んでいた飢餓が、幻のように消え去る。
最低限の手当しか受けていない身体が、健常者同然にまで癒された。
「ンぐぅu…!」
欠けた右腕と両目が形成されていく。
悍ましいほどの痒みと熱さが患部を襲い、魔力が肉を形成する。
体感で20分、実時間で4秒経った後、康一は光を取り戻した。
「…!おっ、いよオっシャァッ!!」
全身汗まみれ、おまけに風呂に入っていない。
鼻が曲がるほど臭いが、跡形もなく消えた。
妄執を名乗った存在の魔力が、康一の身体を清めたのだ。
視力だ。そして、右腕。今まですっとそこにあったように、スムーズに動く。
再び五体満足になることができた。この歓喜に比べれば、体臭についての疑問など芥のようなものだ。
――!
乾いた足音が聞こえてきた。
まもなく、留置場に銀色の骸骨が入り込んでくる
銃や剣で武装した、髑髏の兵隊。
彼らは異変を察知した主人の命令によって、留置場に派遣された。
康一は右手を軽く開く。
異能者の力とは違い、会得した時点で宿った力を自覚している。
まもなく殺意が密集し、目に映る形で形成された。
現れたのは、一本の槍だった。
身長より長い柄の先、直剣型の穂先からは短い牙のような刃が、二対生えている。
牢の中で振るうには少々長すぎるのでは?
その疑問は、槍を一振りした時に霧散した。
腕の力だけで振った槍がしなる。
多節棍の要素を持つ槍が蛇のように動き、骸骨に襲い掛かった。
一薙ぎで鉄柵が割れ、2体の骸骨の胴が音を立てて砕ける。
留置場に殺到した骸骨達は、それを見ると全身を止め、檻から距離を取った。
前列の部隊は一斉にしゃがむと、近代的な銃身をずらりと水平に並べる。
そして後列。骸骨の一人が、太い筒を右肩に構える。
銃身から放たれた擲弾が檻に炸裂。爆炎が康一のいた檻を包む。
それが合図だったように、高速弾が康一に降り注ぐ。
ライフル弾のようなボトルネック形状に、800m近い銃口初速が合わさることで高い貫通力を発揮。
ボディアーマーを容易に貫通するシャワーを、康一は外出着で受け止めた。
針で刺されたような痛みを感じたが、足を止めるほどではない。
皮下出血によって全身を黒く染めながら、康一は突撃する。
「うっとおしいンだよ!どけ!」
康一は牢を小枝のようにぶち破り、留置場の出入口を目指す。
「妄執」と一体化したことで体調に余裕が生まれ、精神力が生命維持ではなく戦闘に向けられる。
彼は骸骨の群れに多節槍を振るい、足首を狙う刀を猫のように回避した。
空中から降下した康一は暴風のような乱舞でスクラムを破り、留置場を後にした。
全身の皮下出血は、既に消えている。
ありがとうございました。