魔女の上に雨が降る
趣味で書き始めました。
「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・キモイ主人公。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。
昼間、夏姫は浜松城跡前を歩いていた。
彼女は早苗に頼まれて現在、街の状況を調べている。
食人者の周囲をうろついている怪物、おそらく異能者が放ったものだろう、とは早苗の弁だ。
夏姫は怪しまれないよう、極力交通機関を使って、市内を移動していた。
現在、食人者以外に超常の気配は感じない。
産卵体――カブトガニもどきも街には見当たらない。
彼らは栄養をたっぷり摂取した食人者が産み落とす、繁殖用の生物だ。
人間に種を植え付けた後、数分で死に至り、死亡すると直ちに塵となって消える。
産卵体が見当たらない事自体は不思議ではない。その生成に必要な養分はかなり多く、産み落とした産卵体の寿命も3週間ほどと長くないのだ。
――可笑しなものは見当たらない…。
彼女は外見を変更したまま、近くにあった公園に入る。
ベンチに座って気配感知に集中する。
彼女の探知範囲は広い方だが、それでも食人者以外は感知できない。
夏姫はひとまず、この先の住宅街に向かうことにした。把握している限り、4体の食人者が集まっている。
住宅街に移動した夏姫は携帯を弄っている。
現在の彼女はビジネススーツに身を包み、髪の毛を丸く束ねていた。
夏姫は地図を見る振りをしながら、住所を把握している食人者の元に向かう。
連絡を入れようとした時、夏姫の知覚に異能者の気配が入り込んだ。
すぐそばに食人者の気配が重なるように存在。戦闘しているのだろう、と見当をつけた。
夏姫は1㎞近く離れた場所にあるスーパーの屋上に移動。
気配は動いていない。夏姫は室外機の陰に身を隠し、近づくべきか思案する。
――!
その時、不吉な予感を覚えたのは、夏姫にとって幸運だった。
彼女は己の直感に逆らうことなく、瞬間移動を実行。
夏姫が秘密基地に帰還した直後、道隆の放った50の杭がスーパーに襲い掛かったのだ。
彼女は一も二もなく早苗の元に駆け込み、黒い騎士の念視を行わせるよう、訴える。
「なにこれ……」
「爆弾でも落ちたみたいね」
夏姫が去ったスーパーからおよそ半径200mは、焦土の様になっていた。
駆けつけた数台の救急車に、次々と担架が運ばれていく。
付近に建つ大学の学生寮にまで被害は及び、窓ガラスが余波によって割れたらしい。
「どうだった?」
「成果は殆ど無し」
早苗は夏姫の報告を聞く。
手がかりらしい情報は、異能者の気配と画面に映るクレーターのような破壊痕のみ。
早苗は夏姫の話から、今池のダンジョンに出現したという、青い怪人を思い出した。
「前園君が言ってたヤツだね、同じ相手かな?」
「どうかしら?何を使ったのか、見てないの?」
「うん、すぐに移動したから見てないよ」
異能者ならば発現した能力次第にもよるが、愛知・静岡両県を行き来する程度は容易いだろう。
「それでどうする?もう一回出ようか」
「今日はもういいわ。ありがとう、ナツ」
夏姫が部屋から出て行くのを見届けてから、早苗は住宅街やスーパーマーケットを念視し始めた。
目ぼしいものが見つからないとみると、閲覧する対象を変更。
画面に能力を投射し、浜松市中区に住む食人者の周囲の風景を分割して映し出す。
午後3時を過ぎた。
さらに時間が経ち、高校の正門で動きがあった。
一人の男子生徒がに赤い外套の怪人が近づき、触れられた瞬間、地面に崩れ落ちたのだ。
赤外套の手にはいつの間にか黄色い薔薇が握られている。
――これは?
映像の視点をうごかしていると、霧が漂っているのがわかった。
薄い霧がかかった光景の中、赤外套が姿を消す。
それと同時に、映像が鮮明になっていく。赤外套に続いて、霧が晴れた一幕を見て、早苗はしばし考える。
――霧、破壊…!
早苗は興味深げに笑みを浮かべた。
浩紀の報告によれば、青い怪人は霧に変化する、とあった。
確定ではないが、一つ手がかりを得た。
食人者の汚染がどこまで広がっているのか、早苗は完全には把握していない。
だが、青い怪人が食人者を調べているとすると…?
「早苗さーん」
「!」
圭の声が聞こえた為、早苗は黒い騎士を戻し、彼女を部屋に招き入れる。
夕食に呼びに来たらしく、早苗はその時になってようやく空腹に気付いた。
早苗は圭について、食堂に向かう。
「昼からずっと部屋に籠ってたけど、何か見つけた?」
「えぇ。霧と薔薇頭の怪物が、男の子を襲っていたわ」
「霧?」
圭が怪訝そうにする。
早苗は黒い騎士の念写で得た情報を、2人と共有した。
「ふぅ…ん、その薔薇の怪物は、ええと霧の使い魔なのかな?早苗とか、浩紀君が使ってるような」
「今池に出たってのと同じだとして、何で封鎖の外に?」
「化け物を倒して、みんなを守ってるとか…?」
意見を出し合う二人だが、お互いの答えに釈然としない様子だった。
夕食を終え、早苗は浜松市内の監視を戻った。
今度は夏姫も一緒。黒い騎士が駅前を映した時、二人の目は画面に釘つけになった。
駅前では大勢の人が雪崩を打って四方に散っていた。
人の流れを遡っていくと、そこでは2体の怪物が殺し合いに興じている。
カジュアルな服装の青年が、腕を5本の節足に変化させた。
先端からは三日月型の刃が生え、さながら鎌のようだ。
10本のエッジを除けば、青年の外観は概ね、人間のそれである。
それを躱し、受け止めるのは明らかな異形。
人型をしているが顔は無く、紫色の皮膚の上を、朱色の蔦のようなラインが走っている。
朱と紫の異形は大きな翼で宙を舞い、掌から不可視のエネルギーを飛ばす。
エネルギーはアスファルトや乗用車を小石のように巻き上げ、射線上に建つビルの窓ガラスをたたき割った。
青年は魔物を認識していない。
出鱈目に斬撃を放っている為、無駄な被害が随分出ている。
手応えがあれば、そこに節足が殺到。刃が嵐のように吹き荒ぶ。
「何これ…、何考えてこんな大っぴらに戦ってるの!?」
「何も考えてないように見えるけど。思い切った真似するわねぇ」
早苗は他の場所の様子を確認するべく、映像を分割する。
小さな画面が規則的に並ぶさまは、昆虫の複眼を思わせる。
画面の群れには市内の現況が映されており、早苗はその中から青い怪人を見つけた。
青い怪人は霧に変化し、四足歩行の食人者の腕を切断。
再び気体化した後、光り輝く拳をサメ頭の巨獣に叩き込んだ。
――そして夜空に爆炎が上がった。
絶句する夏姫をよそに、早苗はほくそ笑む
早苗は黒い騎士に命じ、浩紀の携帯にこの情報を送信した。
秘密基地に外部の通信電波はつながらないが、外に出れば、何かしらの返事が来るはずだ。
その目の前では青い怪人が気体化し、姿を消す。
「これからどうするの?早苗…」
「前園君の返事待ちだけど。今後はBTDのついでに、エイリアンも調べましょう」
それから2人は、青い怪人とその下僕達による殺戮を見届けた。
夏姫は1時間ほど経ってから、早苗に一言断り、自分の部屋に戻る。
早苗もその30分後、身体をほぐすように伸びをしてから、自室から姿を消した。
ありがとうございました。