怪奇の幕が開いた(2)
趣味で書き始めました。
「先日、僕らの街が終了した件について」の続きです。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・キモイ主人公。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名、団体名とは一切関係ありません。
冬彦が次に大輔を見かけたのは、怪しげな器物を鑑定した晩から3日後の正午だった。
そっと近づき声を掛けると、肩をびくっと上下させ、彼は振り向いた。
「何だ?」
「何だじゃない、仕事か?」
「仕事…ああ」
大輔の顔からは血の気が引いており、頬を滴が伝った。
素人目だが、人探しができるような体調には見えない。
期限が無いなら一旦、保留にして医者に診てもらった方がいいように思う。
何なら自分が代行しても良い。そのように伝えたが、大輔はゆるゆると首を振った。
「医者はいい、誰にも知らせないでくれ…」
「公穂さんにも?」
「うん。それじゃ、もういいか?」
大きな溜息を吐くと、大輔は去っていった。
あの晩以来、サイコメトリーの映像が、冬彦の心の隅に引っかかっている。
冬彦は大輔が追っている事件の顛末が気になっていたが、病人めいた彼をこれ以上追求するのは遠慮した。
それから1日経った後の朝、冬彦は中日ビルに足を向けた。
受付から右に折れ、PC端末が並ぶ一角に入り、受諾可能依頼を眺める冬彦の視線は、ある項目で止まった。
(大輔の捜索願い…!?)
一も二もなくこれを引き受けると、手続きを済ませた冬彦は依頼人――大輔の恋人の元にすっ飛んで行った。
「いつから連絡がつかないんだ?」
「一昨日から…。今、大輔の部屋泊まってんだけど、帰ってこないし、チャットも返ってこない…」
彼女――堺公穂は悄然とした顔で言った。
寝巻のまま冬彦を出迎えているあたり、心ここにあらずといった様子だ。
「……まだ1日だろ?」
「本気?街がどうなるか分かっていってる?連絡なしとか、絶対ヤバいと思うんだけど」
「言ってみただけだ。…なぁ、アイツ体調崩してなかったか?」
昨日の邂逅を思い出し、冬彦は公穂に訊ねる。
「えー、……具合悪そうには見えなかったけど?」
「そうか…?」
「?」
「部屋の中調べるぞ」と断りを入れてから、冬彦はあちこち見て回る。
プライベートな映像は見たくない為、サイコメトリーの対象は慎重に選ぶ。
片っ端から抽斗を開けていくが、メモや録音の類は見当たらない。
仕方ないので、冬彦は事務机に能力を発動した。
映像に従い、旅行鞄の底から粘土板らしきものを取り出す。
「それは?」
「知らないか?アイツが受けていた依頼に関係ある物なんだが」
「あ~、人探ししてるのは聞いてるけど…」
冬彦は暗緑板を手に取り、公穂に礼を言って、恋人達の部屋を出た。
家中を隈なくサイコメトリーして回るのは憚られたが、映像を視た限りでは、依頼に関することを大輔は殆ど喋っていない。
映像にあったはずの大量のメモは、大輔が持ち去ったきりになっている。
本人の足取りがつかめない以上、別の角度から攻めるしかない。
冬彦はやり取りの記憶を手掛かりに、今池の公園にやってきた。
園内には自宅を失った近隣住民がテントで寝起きしている。
その一角に陣取り、立ち歩く人々を眺める。
(写真もらっておけば良かった…)
見覚えのある男が目に入り、冬彦は立ち上がった。
自信なさげに話を切り出すと、アタリだった。
何気ない風を装って、冬彦と草臥れた中年男性――最初の依頼人は公園から出て行った。
「あの…、興田さんは」
「………失踪しました」
やや逡巡した後、冬彦が告げる。
中年男性は衝撃を受けた様に目を瞠ると、力無く項垂れた。
依頼の代行を申し出ると、彼は躊躇いがちに謝辞を述べた。
冬彦は聞き込み用の写真を受け取ると中年男性――竜二の父親と別れ、栄方面に歩いていく。
竜二の父親が出した依頼を遂行するつもりはない。
大輔の捜索願がコミュニティに出された時点で、この依頼は破棄されているはずだ。
しかし大輔を捜索する手掛かりにはなる。彼が歩いた道を辿ることで、大輔を見つけられるかも知れない。
細やかな望みをかけて、冬彦は中年男性の元を訪れたのだった。
(あの時追いかけておけば…)
公穂には打ち明けなかったが、依頼を受ける前、大輔を一度見かけている。
あの時点で捕まえておけば、このような事態にはならなかったかもしれない。
――ひょっとしたら、どこかに入院したか?
あり得そうな話だが公穂が知らない以上、発見はほぼ不可能だろう。
診療を受け付けている病院はいくつか心当たりがあるが、入院患者の情報を流すような所などない。
見つけ出すまでに、相当骨を折ることになりそうだ。
ありがとうございました。